連載小説「ぬくもりの朝、やさしい夜」(仮)

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佳奈

目を開けると空、雲
途方もない青
このままずっと見ていたい
温かい背中
覆い被さる綿
たんぽぽの綿毛に包まれてるみたい
その瞬間
わたしがわたしであることを
きっと生まれて初めて

忘れられた

佳奈ーてのひらー

それは今朝のようにも感じるし、
昨日のようにも感じる。
不思議なことに数日前にも
数ヶ月、数年前にすら感じる。

葉に落ちる水の音を聞いていた
ひとつ、ふたつ、みっつ
だんだん増える水の音
さわっと首に冷たい風が触れる
わたしはただそれを感じているだけで
気づけば肩が濡れていた

それを感じることしかできなかった
空の雨を感じることしかできなかった
瞳から、頬を通り、顎から滴り落ちた
「わたしの雨」はもう何時間も前から
降り止まなかった

そのとき、なんだかふわふわしたものが
わたしの肩をそっと覆った。
すぐに背中が暖かくなった。
身体の力が抜けていくのがわかった。
今度は柔らかくて肉厚な誰かの手のひらが頭の上に乗った。

それは二回、とん、とん、と触れた。


「もう、いいわよ」

「じゅうぶんよ」


こんな優しい声、聞いたことがない。
わたしはもう渡ってしまったんだ。
ずっと行きたかった「あの場所」へ渡ってしまったんだ。

身体から全ての力が抜けた
膝から崩れ落ちた

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