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この世には2種類の人間がいる。ディズニーランドで前歯を折る人間か折らない人間かだ。



突然ですが、みなさんはディズニーランドで前歯折ったことあります?

私はね、あります。

(厳密にいうとディズニーランドではなくホテルなんですけどね。)

遡ることウン年前、社会人1年目の職員旅行で2泊3日の東京旅行に行き、その際に折ってきました。歯を。

1日目 ディズニーシー
2日目 ディズニーランド
3日目 自由行動

というスケジュール。
ちなみに私はこれが生まれて初めてのディズニーでした。
生まれて初めてのディズニーでこれでもかというほどの洗礼を浴びてきました。

生まれで初めてのディズニーランド・シーがまさかこんな悲劇まみれの3日間になるなど出発前まで知る由もなかったよね。


1日目

出発前から空港で行きの搭乗券を失くすところからこの旅行が始まります。
好調のスタート。

10分ぐらい探し回った後に無事に見つかったんですが、あれは今思うと神が「行くな」って言ってたんだなと思う。

どう考えてもあれは「お前はこのあと前歯を折るから行くな」という暗示だった。

初日はシーを回ることにしたんですが、初日からiPhoneを落として画面バッキバキに破損させ、ネックレスが千切れ、爪は折れ、ホテルのコーヒーメーカーを使用したらコーヒーが全部溢れて部屋をコーヒー浸しにさせ、というミハエル・シューマッハもビックリのスピード感でハプニングが相次いだ1日目でしたが、この後前歯が折れるのでこれらについては割愛します。

生まれて初めてのディズニーシーだったはずなのにシーの記憶があんまり無い。

初日から疲労困憊な夜を迎え、私は相部屋だった女の先輩と余ったポップコーンをむさぼり食べながら明日のランドの計画を練っていた。

そんな中前歯に違和感を感じ、最初はポップコーンが前歯に挟まったのかな?と思い、先輩に「ちょっと歯みがきしてきますね」と伝え洗面所に向かった。

洗面所に向かい鏡を見ると、そこには前歯が折れた私がいた。

「…?????」


前歯が???
折れてる???



「俺たち!?」「入れ替わってる〜!?」

みたいな衝撃だった。
「俺の歯は 」って感じだった。前前前歯。
「俺の歯の庭」って感じだった気もする。

本当に突然の出来事だった。
転んだわけでもなく、衝撃を与えたわけでもなく、ただポップコーンを食べていた。
ただそれだけなのに、いつの間にか前歯が折れていた。

欠けたとかではなく、ポッキリと根本の方から折れていた。
全く意味が分からない。
今考えても本当に意味が分からない。
未だ謎の未解決事件である。

洗面所越しに先輩に叫ぶ。


「あ、あの〜、、、前歯が折れてまして、、、」

「えっ???なんで???」

「と、とりあえず今日は寝ますね」

とりあえず寝ることにした。


あまりのパニックでもうその日は寝るしかないと思った。

折れた前歯は虫歯で過去に神経を抜いた歯だったので幸い痛みは無かったのだが、この1本の歯に対して複数箇所虫歯ができていたボロボロの歯だった。
ゆえにポップコーンを食べただけでも折れる脆弱な歯になってしまっていたのだろう。

それにしてもあまりにも脆弱すぎる。
固いものを食べていたわけではないのに折れてしまうというあまりのポンコツっぷり。私そのものか?

世界広しといえど、ポップコーンを食べていただけで前歯を折る人間はそういないだろう。

あまりの情けなさとショックで私はふとんに包まりながらひっそり泣いた。
ティッシュに包まれる前歯のように。

朝起きたら夢でありますようにと祈りながら寝た。

社会人1年目の職員旅行、初日にして極度のホームシックに襲われるの巻。


2日目

夢ではなかった。
確かな現実として前歯が折れてすきっ歯の自分が鏡の前に立っている。

前歯が折れて迎えた朝、朝イチで向かった先はホテルの売店。マスクを買った。

不安に包まれたまま迎えた職員旅行2日目のディズニーランド。


もうね、帰りたい。


ここは夢の国だが前歯折れた人間には夢もクソも無かった。
もう普通に帰りたい。歯医者に行きたい。

だがしかしここは職員旅行、緊急事態でない限りは1人だけ飛行機に乗って帰ることは難しい。

そして話を大ごとにしたくない。

「前歯が折れたので先に帰らせてください」
という報告だけはしたくなさすぎる。

痛みや腫れも無かったため、先輩にも相談し一応3日間通常通り職員旅行を敢行することにした。

ちなみにあまりの恥ずかしさで、私が前歯折ったことはこの女の先輩しかまだ知らない状況である。

そんなテンション激ナーバスの状態で行くディズニーランドはビックリするぐらい"虚無"だった。
ディズニーランドは悪くないです。
全ては前歯がない私が悪い。

ビッグサンダーマウンテンで両手挙げようかな〜!とか思った刹那
私いま前歯無いクセに今ビッグサンダーマウンテンで手を挙げようとした…?
とすぐ我に帰り虚無モードに入る始末。

キャラクターたちとグリーティングをしてても
前歯無い人間がグリーティングに来てウケるな…
という負の感情に襲われてもう全然ディズニーを楽しめなかった。

何をしても何を見ても

あれ、私前歯無い分際で今楽しんでる…

と事あるごとに現実を突きつける悪魔の囁きが聞こえて来て、すぐ虚無モードになってもう本当にダメだった。
完全に被害妄想。

ディズニーランドほどの"夢の国"の力を持ってしても、やっぱり前歯が無い現実のパワーには勝てなかった。

すきっ歯という状態は想像以上にストレスだった。

あとシンプルに食事が不便。
前歯が一本無いと言うだけで食事がこんなにも大変だとは思わなかった。



このコンディションに耐えられなくなり、私は舞浜で今日の診察が可能な歯医者を探して予約した。

そんなわけで私のディズニーランドは志半ばにして昼過ぎで終わる。
私の初めてのディズニーランド、これにて終了。
本当にありがとうございました。

ちなみに当時アナ雪のフローズンファンタジーのイベントが始まったばかりで、なんとその日サプライズゲストで松たか子と神田沙也加とピエール瀧がやって来るセレモニーがあってたらしい。
一方その頃私は歯医者に向かってため、後からその事実を知ることになる。悔しい。


ティッシュに包んだ前歯を握りしめ、ミニーちゃんのニットを着た"明らかにさっきまでディズニーランドにいましたよ"みたいな出立ちで歯医者に向かった。
今思うと死ぬほど恥ずかしい格好だった。

歯医者さんではとりあえず応急処置として折れた歯をくっつけてもらった。

「ただ簡易的にくっつけてるだけだから、歯に負荷は絶対にかけないでね。早く地元の歯医者に行ってね。」と先生に言われたが、とりあえず簡易的にでも前歯が蘇った喜びは計り知れなかったので話半分くらいにしか聞いてなかった。

すきっ歯じゃない…!前に前歯がある…!

鏡を見て微笑んだ。
すきっ歯の自分よセイグッバイ。

気付けば夜、
先輩に連絡し、「前歯くっつけてもらいましたー!ご飯行きましょうー!」と先輩と再び合流して夜ご飯に行った。

1日ぶりの前歯。1日ぶりのまともな食事。
前歯がいてくれる喜びをこれほどまでに噛み締めたことは後にも先にもない。

「やっぱ前歯があると食事が美味しいッスね〜!」とか調子に乗っていたら悲劇が再び起こる。

夕食後、クロワッサンたい焼きを先輩から買ってもらい、調子に乗っていた私はガブっとクロワッサンたい焼きにかぶりついた瞬間、

ミシッ…



何をとは言わないが、確かな手応えを感じた。
マズい。どう考えてもマズい。

歯医者から早2時間、早速前歯が瀕死の状態になってしまった。草。

そこから急に黙りこくる私。
そろそろ帰りましょうかと急に帰りを促し、そそくさとホテルへ戻った。

イクスピアリからベイサイドステーションがこれほどまでに長く感じたことはなかった。


先輩に話す。

じ、実はさっきのクロワッサンたい焼きで前歯がヤバいんですよね…

「えっ???なんで???」

「と、とりあえず今日は寝ますね」

とりあえず寝ることにした。

朝起きたら夢でありますようにと祈りながら寝た。

3日目


夢ではなかった。
確かな現実として前歯が折れてすきっ歯の自分が鏡の前に立っている。(1日ぶり2回目の出場)

就寝時はギリ瀕死だった前歯が寝ている間に取れてしまって、完全に終了してた。
本当にありがとうございました。

あれだけ喜んだ前歯は一晩で終わった。
束の間の夢。ワンナイト前歯。

いや嘘でしょ………
あのクロワッサンたい焼きでだいぶ危ない状態ではあったけど、一日くらいギリ耐えてくれるかなと思ったらたった一夜にして終わった。
まさかすぎるでしょ………

朝からまたテンションがタワーオブテラーみたいな状態でホテルの朝食ビュッフェ会場に向かうと、

あっ、マリ山さん、前歯折れたんだってね!?

と職場のいろんな方から声をかけられた。
えっ!?何でみんな知ってるんだ!?


遡ること昨日の午後。
私と2人で行動を共にしてた先輩は私が歯医者に行ったことにより1人になったため、他の方たちと合流したらしい。

もちろん「マリ山さんはどこ行ったの?」となるわけだが、

マリ山さんはポップコーンを食べてたら前歯が折れたので歯医者に行きました

とありのままを伝え、そのあまりのキャッチーかつセンセーショナルな内容から私の預かり知らぬところで私の前歯事情が瞬く間に周知の事実となっていた。

ここで私が5年目くらいだったら間違いなく笑いを取りにいってたワケだが、親しい先輩も少ない社会人1年目、もう恥ずかしくて仕方なかった。

あっでも昨日歯医者に行ったんだよね?もう治ったんでしょ?

そう、みんな私が歯医者に行ったことは知っているが、まさかもうすでに折れてるところまでは知らない。

言えるか。


恥ずかしすぎて口が裂けてもワンナイト前歯でしたなんて言えるか。

昨日わざわざ歯医者に行ったにも関わらず、たった一晩でまた折れましたなんて言おうもんなら
「えっ!?行った意味なく無い!?笑」
と笑われるに決まってる。
一年目の私はまだその嘲笑をネタにできるほどの度量は無かった。

朝食中で外してたマスクだったが、聞かれるたびにマスクを付けて

あっ大丈夫です😷」

と答えてた。
いろんな人に聞かれたが、毎回毎回マスクを付け直して答えてた。

そのあまりの不自然さに全然大丈夫じゃなさが透けて見えてたと思うが、マジで口が裂けてもワン前(ワンナイト前歯)なんて言えない。
今なら自ら吹聴しに行くぐらいネタにするんだが。


その後ホテルチェックアウト時に添乗員さんがフロントでキャリーケースを預かってくれたのだが、その際に添乗員さんからも

あの〜、マリ山さんですか?前歯が折れたと伺ったのですが大丈夫でしょうか?

と聞かれた。

いやマジでさぁ?????
何で添乗員さんまで知ってるの?????

もちろん職員旅行中に職員の前歯が折れたなんて耳に入ろうもんなら添乗員さんとしてはその状況確認をしなきゃいけないのはお仕事として仕方のないことなんですが、いやそもそも誰が添乗員さんに言ったの??どこからその情報が漏れた???

本人の知らないところで報告してくれるな!!!!


これが5年目だったら笑いに変えれてたんですが、1年目にはホテルのフロントで添乗員さんにまで前歯が折れたことを聞かれることがとにかく恥ずかしかった。
ましてやワン前などとは言えない。
いわんやワン前をや。

話を大事にしたくなく添乗員さんには「大丈夫ッス」とだけ伝え、そんなわけで前歯が折れた状態で職員旅行最終日の3日目を迎える。
3日目もマスク着用を余儀なくされた。

浅草寺に行っておみくじを引いたら半吉だったのだが、「どのへんが半吉…?」というくらい内容が辛辣だった。


全否定

全ての項目において全否定。

どのへんが「半吉」なのか教えてほしい。
吉要素が"無"すぎる。
「無吉」なのでは???

1番パンチが効いてたのは旅行の欄の「見合わせましょう」だった。

そう、これは見合わせるべき旅行だったのだ。
そのあまりのパンチのある内容に笑った。
ドリカムじゃないけど泣いて笑った。


お昼ご飯はもんじゃ焼きを食べた。
なぜなら前歯がないので。
こんな悲しい理由のもんじゃ焼きある?

その後スカイツリーに行って東京の街を見下ろしながら「前歯が無い人間から見下ろされてる東京の人たちどんな気分かな…」と不思議な気持ちになったりしたが今考えるとシンプルに性格が悪い。


そんなわけで3日目も虚無な気持ちで東京観光をして、初めての職員旅行を終えた。


っていうかよく考えたら東京に行ったのもこの時が初めてだった。
せっかくの初めての東京は終始虚無で終わった。
初めてのディズニー、初めての東京、それは前歯が折れた思い出で9割9分5厘くらい占められている。

以上が前歯が折れた激動の旅行記でした。
ご清聴ありがとうございます。

当時のインスタ何回見ても笑う。


その後帰ってきて歯医者で新たに前歯を作ってもらったものの、わずか半年でチョコを食べて再び折るという事態になったのですが、それはまた"前歯が折れたリターンズ"として別の機会でお話ししますね…

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