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ただよう気ままな一人旅/エッセイ#ひと色展

20代前半の頃

思い立って一人で鎌倉に行ったことがある。
その頃私は働いていた会社を辞めて
新しい仕事を探しているところだった。

電車で2時間もかからない鎌倉は
中学のころ校外学習で行ったきり。

寂しがりのくせに一人でうろうろするのが好きだった。
海が見たくなって
そうだ鎌倉へ行こうと唐突に決意し
朝から通勤する人々に紛れて電車に乗った。

ただただ海を眺めていた。
なんとなく気恥ずかしい。
例えば沖縄だったら
景色に溶け込めるのかも知れないけれど
平日の午前中から一人で海をぼーっと眺めている女がいたら
ちょっとあやしいかな。


波打ち際で、小さな子どもを連れた家族が遊んでいた。
この頃は自分が親なんてできるんだろうかと本気で考えていた。
まあなんとかなるものだよ、と今なら教えてあげたい。


雲一つない晴天。
ごうごうと耳元で風が鳴いている。
眩しい水面は白くきらきらと輝き
コバルトブルーの波間をうさぎが跳ねている。
海のないモノクロな街に住んでいる私にとって
それはそれはくっきりと鮮やかで求めていた景色だった。
ここしばらく荒んでいた心に色が戻っていく。


良くも悪くも人の影響を受けやすい私は
たった一言が気になり頭から離れなくなってしまうことがあった。
脳みそを乗っ取られてしまったかのように
何度も何度もリフレインする。
言われてもいない言葉を言われている気がすることもあった。
でもきっと誰にも理解されないだろうと心に押し込める。
身体の内側は色を無くし徐々に灰色から黒へと渦巻いていった。


久しぶりに見上げた空は
目の覚めるような蒼穹。
自然に触れると
鈍っていた五感が研ぎ澄まされていく。
潮の香りと
初夏の朝のすきっとした空気が混ざりあう。
彩り豊かな青い世界は
塗りつぶされた心を癒してくれた。

傷付けず
傷つけられず
いつも穏やかでいられたら良いのに。
この、自由で気ままな色のようにただよっていたい。
どちらともつかないはるか彼方の、
空と海が混ざる場所の色のように。

ホリゾンブルー ただよう気ままな色


上記の企画に参加させていただきました。
どのイラストも素敵でとても悩みましたが
今の自分に1番しっくりきたのは
ホリゾンブルーちゃんでした。

金沢はまだ行ったことがないので
いつか訪れてみたいです。
楽しい企画をありがとうございました。

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