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本と音楽と私

一冊の本を読んでいたら、ざらりと心の奥を撫でられた。
自分の中の深度を知り、つい、引きずり込まれそうになる。

たまらなくて、途中で音楽が必要になった。
何かリアルな音が要る。
何かをリアルに正さなければいけない。


そういえば、今夜はショパンの国際ピアノコンクールをライブで見られるのだった、と思い出した。
うってつけじゃないか。
本を置いて、しばらく白と黒の鍵盤に酔う。

今の今、遠い土地では音楽の競演が行われているのだ。
超絶技巧のロマンティックな音が、さまざまな国のピアニストによって生まれていく。


「ジンジャーエールを温めてカルヴァドスを入れています。温まりますよ」

紙の上を進むと、主人公がそう言われていた。
あなたはひとりじゃない、と言ってくれてるような。
温まるのは、ひとりじゃないことを感じられるからだよ、と。

今日、私のいる土地は暑かったのだけれど、小説の中のその温かい飲み物を喉いっぱいに流したいと思った。
シナモンスティックでも放り込んで。

そうしたら知らんぷりしていられるだろうか。
面倒なあれこれを。
不安にさせる、あれこれを。
自分の中の深みを。


いや、そうじゃない。
私は誰かに、「温まるよ」と優しく言われたいわけじゃない。
あったかくなるのは、「私には私がいるから、それでいいじゃないか」と思えるからだ。
そうであるはずだ。


本を横に押しやり、カルヴァドスを探す。
自分のために。自分を温めるために。
そう、私には、私がいる。
あなたには、あなたがいるのだ。
最強だ。


耳に届くは、震えるほど美しいバラードやノクターン。
リアルな音の粒たちが、私をどうにか、この夜の底に繋ぎとめる。

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