シンパシー、ムーンチャイルド
#4 Sympathy
遠くからみてすぐ彼だとわかった
碧色の瞳の彼だ
麻のような素材のゆったりとした服を着て
裸足の足を水にひたして向こうの方を見ていた
海の向こうの方
彼は目を閉じていたので
わたしは水際までいって彼をみていた
波が強い太陽の光を弾いて それが目の片隅に映る
やがて彼は振り返ってわたしを見つけた
見つけた、というより
いるのを知っててタイミングを見計らって振り向いた
そんな気がした
陽の光の下でみる彼の瞳の色はとても綺麗だった
やあ
と言って彼は少し微笑んだ
言ったと思う
たぶん
彼の目はそう言っていた
ゆっくり歩いてきた彼
「あなたはだあれ?」
失礼な聞き方だったと後から思ったけど
咄嗟に出てしまった
恥ずかしい
わたしは目を伏せた
「休憩の時、時々ここに来るんだ。 足をひたしてアーシングして身を軽くしてる」
アーシング?
なに? それ
あなたはだあれ?
もう一度聞こうとした時
「アレックス」
と彼は言った
「この前、、ごめんなさい 急に帰ってしまって、、逃げるみたいに、、」
本当は
ありがとう、って、、言いたかったんだ
謝る必要だってないのに
「気が滅入ってて潮風に当たりたかったの」
知ってるよ
そう言われた気がしたけど
彼は何も言ってなかった
不思議な子
それともわたしがおかしくなった?
「ご、ごめんなさい、 わたし アンバー」
「アンバー いい名前 瞳の色も名前と同じだね」
明らかにわたしとはだいぶ歳が離れているのに
なぜか引き寄せられる
彼の綺麗な瞳の色のせいかと思ったけどそれだけじゃないと思う
彼が放つ雰囲気
話し方、言葉のふわっとした響き方
なんだろう 不思議な魅力
恋?
まさか
恋とは違う
わたしはこんなふうに唐突に恋なんかしない
でもわたしの中にいる何かが
「この人を離しちゃダメだよ」
って言ってる
じゃあね
と言って彼は行こうとした
わたしは呼び止めるように聞いた
「ねえ!、、、キミに、、、、アレックス、に会うにはどうすればいいの?」
わたしはこんなふうに強く人を引き留めたりしない
強引さと思わずまた出てしまった不躾な感じが恥ずかしかった
わたしの前を通り過ぎるとき
ある場所を教えてくれた
いつもだいたいここにいるよ
そう言うと彼は静かに行ってしまった
ありがとうって
また言いそびれてしまった
#5 MoonChild
わたしの中の、、
何が騒いでるのか知りたかった
それが何かわからない不確かな状態が嫌だったし
何より彼は、アレックスは その答えを知ってるような気がした
教えてくれた場所へすぐに行きたかったけど
それもなんだか変な気がした
たぶん考え過ぎなんだと思う
アレックスはきっと気にしたりしない
普通に会いにいけばいいだけなのに
余計なこと、、、余計な考えを巡らせてみては
自信のなさを正当化するために
「変な気がした」って思いたいだけなのかもしれない
そんなふうにいつもいつも
心に宿る言葉にならない気持ちを
頭のなかで言葉にしようとして
終わりのないおしゃべりをしてる
無理やり言葉になんかしなくてもいいんだよ
アレックスならそう言うかも
めんどくさいやつだな
わたしって
人との付き合い方が
本当に苦手なんだ、わたし
自分でそう思いながらようやく行く決心がついた
教えてもらった場所は目立たないところにあった
表通りからおれて細い道
少し入ったところ
道はこういうところにしては珍しく緩やかにくねくねとカーブをえがいていた
その通りは
建物や道路わきに大小のいろんな木があるおかげで強い陽射しから守られ
きらきらひかる木漏れ日とそれが映す木の葉の影とが懐かしい雰囲気を出していた
こんなところがあったなんて全然知らなかった
斜向かいには住宅のような教会
並びにはちょっとした庭園のようなものがある図書館か美術館みたい建物
少し離れたところには小さな神社
木造の古そうな小さな平家
開け放たれた引き戸
控えめに出されていた手作りっぽい看板には
「MoonChild」
と書かれていた
薄い布で出来たカーテンのようなものがひらひらと揺れて隙間から見える奥の方は
明るい感じがしたけど
入り口は薄暗く、差し込む陽の光だけが照明の代わりになっていた
ときおり風でウインドウチャイムが澄んだ音をたてた
この期に及んで入り口を目の前にして立ちすくんでしまってる
一度目を閉じて深呼吸すると落ち着いたから思い切って足を踏み入れた
そこに入ると冷んやりした空気で満ちていた
かすかにいい匂いもする
なんの匂いだろう どこかで嗅いだことがあるような匂い
数歩分の空間には渡し板があってその先にもまた半透明の薄い布がぶら下がっていた
かすかに見える向こう側
布を手で払うようにしてくぐると
そこには外とは全然違う空間があった
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