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占星術と太陽と希望


一度覚悟を決めると、それまで抵抗していたものでも一瞬にして180度変わることがある

わたしにとってそれは占星術だった

まだ全然、何にも知らないのに
なぜか好きになってしまった

Moonchild からの帰りに海へ寄って波の音をきいた
でも興奮してる気持ちはなかなかおさまらなかったし
頭の中は余計占星術のことばかりになった


何がわかるんだろう
何が変わるんだろう


その二つの疑問だけが繰り返し繰り返し順々に巡ってきたけど
そもそも占星術が何なのかがわからなかったから答えは出てこなかった

よく見かけるような星占いとは違う
それは何となくわかった


そしてドキドキしていること
これは、、、このドキドキはいったいなんだろう、って
海の向こうをぼーっと見ながら自分に問いかけてみた


透き通るような色をして明るかった空の色が茜色に変わり始めた
変わり始めるとどんどん変わる

空を染める色はひと時として同じことはなく
それと合わせるかのように海の色も変わっていく

陽が落ち切り夜の帳が下りると
波の音だけが響くようになった


わかった

このドキドキ
希望だ

間違いない
わたしは希望を持った自分がいるのに気がついた


希望
しばらく縁がなかった言葉

嬉しくてたまらない
また希望を持てたんだ


水平線に月が昇ってきてる

大きな月
満月?

今までとは何だか違ってみえた
それはまるで生きているかのようで
わたしに何か話しかけてるようにも感じた

だからじっと見つめていた
何か聞き取れるんじゃないかと思って

実際 何も聞き取れなかった
そう上手くはいかないよね 簡単には

でも
わたしは月の子
もう少し見つめていた
言葉は聞こえてこなかったけど
温かい何かを感じた

わたしがただそう感じてるだけで
他の人はそうは思わないかもしれない

けど、その感覚が何か
わかった気がする
じんわりと


わたし
祝福されてる?

祝福なんて言葉
使ったことないのに
突然そんなふうに思った

また、、泣きそうだ

いいや
泣いちゃえ
誰が見たってかまうもんか

それは嬉しい涙だったから
泣いてることが気持ち良かった


ひとしきり泣くと、月はけっこう高いところまで昇っていて小さくなってた


そうだ
帰ってやらなきゃいけないことがある

家へ帰ってわたしは自分の生まれた時間を知るために母子手帳を探しまくった
心当たりを全部見たけど見つからなかった
どこかにとっておいたはずなのに、、

深夜をまわっても見つかる気配がなかったし
集中力も切れたから探すのを一度やめた
明日また探そう


次の日珍しく寝坊したわたしは母子手帳を探すことなく足早にMonnchild に来た
いつもなら午後になってから来るのにずっと早く来てしまった

何かを始めることがこんなに楽しかったって忘れてた
早く行って少しでも占星術のこと知りたかった

たぶん顔に出てたんだと思う
アレックスはわたしをみて
面白そうに笑っていた

わかりやす過ぎるわたし

でもアレックスは何もせず何も話さずにいてなんだか焦らされてるみたいだった

まだかな まだ教えてくれないのかな
と思ったときだった


「アンバー」

「ん?」

「深呼吸」

浮き足だってるわたしを落ち着かせようとしてくれた


「アレックス、、あのね、、」

「なに? アンバー」

「生まれた時間を調べようとして母子手帳を探したんだけど、全然見つからなくて、、
時間って、わからないと、、だめ?」

「わからなくても、ある程度は大丈夫
でも時間がわかるだけで、全く違うものになることがあるんだ」

「そうなんだ、、」


わたしはすごくがっかりした

どこかにあるはずなのに見つからない

全く違うものになってしまうなら
絶対にわかってた方がいい


「もうちょっと探してみる」

自分が変わるために、少しでも多くアドバンテージが欲しい
だから絶対にみつけよう


「アンバー、すごく天気がいいね」

「うん」

「今日はなるべく太陽を浴びながら
太陽に意識を向けてみて」

「太陽?」

「そう
何かやっててもいいから
頭の片隅に浮かべておいて
休む時は必ず太陽がどんなふうなのか
浴びながら感じてみて」

「わかった」

アレックスはこんなふうにわたしに何かをやってみさせることはない
だからきっと占星術のことに関係してるに違いない

わかったって言ったものの
それが何を意味するのかわからなかった
とにかく太陽、、


「そうだ、アンバー
本、、占星術の本、もし読みたくなっても
まだ読まないでいて」

「なんで?」

「今はまだ読まない方がいい気がするから」

「うん」


今日はテラスではなく中庭で過ごすことにした

初めて出た中庭
かなり広い

伸び損ねた芝生
真ん中には生えてないところがあって土が見えたままだった

その土の部分の真ん中にはごろごろとした石がまあるく円を描いて置かれていてその中で火を焚くような感じになっていた

近くによるとやっぱり燃え残った何かがあった

その周りには大きめの石がおいてあった
たぶんベンチの代わり

そこに座って空を見上げて太陽を探した
すぐに見つかった


雲がほとんどない空の色は薄くなった水色
探そうと思わなくったって光がやってくる方はすぐにわかった

お昼にはまだ少し早くて、たぶんまだ一番高いところにはきてなかったけど
それでも陽の光は強烈でじりじりと照らしてわたしの肌を焼いてくる

夏は油断しているとすぐに身体が琥珀色(アンバー)になっちゃう
でもいっか
仕事もしてないし
わたしを気にする人もいない
太陽に当たることで健康にもいいって言うし

わたしは数年ぶりに日焼けを避けずにいようと思った

心変わり
だんだん変わっていってるのがわかる

でもいちおう毎日ケアだけはしよう
何だかおかしい
こんなこと考えるなんて

こうやってじっくり太陽をみていると
けっこう早いスピードで動いているのに気がついた
中庭にある大きな木々のおかげだ
それがものさしとなって早さがわかる

時々中に入って陽射しを避けたとしても
外へ出ると太陽を探すのは簡単なことだった
圧倒的な存在感

面白いな
太陽なんて意識して過ごしたこと、、なかったかも

もちろん日焼けとか、洗濯とか
そう言うのはあるけど
意識するなんて、、

こんなふうに一日を過ごすも悪くないな
何もせずにただ太陽を感じるだけでのんびりしてる
なんて思ったりもした

太陽を見ていると、
陽の光を浴びていると、なぜか元気が出てきた
健康にいいだけじゃないみたいな感じ
気分が良くなってきた

そんなふうに一日が過ぎて
夕方ごろアレックスが聞いてきた


「どうだった太陽との一日は」

わたしは感じたこと思ったことを伝えた

「いいね、いい感じ
その感覚、忘れないで」


どの感覚のことかわからなかったけど
今日わたしがしていたことは的外れではなかったようだ


「アンバー、太陽との時間、もうしばらく続けて
大切なことだから
太陽を意識して感じたことは
些細なことだと思ったとしても記憶に留めておいて」

「うん わかった」

「それと同じように月
同じように月を意識して過ごす時間も持ってみて
見るだけでもいいし、何かやっている時でも月がそこにいるのを意識する
ちょうど昨日満月だったから月と寄り添い始めるのにはぴったりだ」

「新月じゃなくて?
新月が一番最初って聞いたことあるけど」

「満月の方が見た目に意識しやすいからだよ
夜に見えなくても昼に見える月もある、というのを忘れないでね」

「わかった」

「あと、もうひとつ
運命のこと 考えてみて
答えは出さなくていい
期限のない宿題みたいものだと思って」

「運命?」

「占星術にたずさわるなら、運命は避けては通れないものだよ
運命についての考え方や感じ方は占星術のとらえ方や付き合い方に大きく関わってくる」

「わかった」


一気にたくさん宿題が出ちゃったな
やらなくても
アレックスはきっと何にも言わないんだろうけど

でも 久しぶりに感じたこのドキドキするくらいの希望
精一杯浸りたい
感じていたい
情熱を込めたい


運命か

運命って言葉にあまりいいイメージはない
でもこのイメージも変わっていくのかもしれない


「アンバー、母子手帳見つからないって言ってたね?
少し手助けをしてもいいかな」

「え、ほんと? どうやって?」

「占星術でも探しものを見つける方法があるんだけど
僕はその技術には詳しくなくて
でも違うやり方でも出来ると思うから」


占星術で探しもの!?
そんなことまで出来るんだ


「ありがとう 絶対に見つけたいからお願いできる?」

「もちろん ちょっと待ってて」


そう言うとアレックスは何かを取りにいった
戻ってきた時に手にしていたものはあのペイルグリーン色の布の包みだった

カード!?

アレックスは曼荼羅模様の布を広げて準備するとわたしを呼んだ

「普段はこういうことに使うことはないんだけど、アンバーの役に立ちたくて、、
どうしても知りたいでしょ 時間」

「うん!」

「じゃあ始めよう」

アレックスはカードをひろげ、かき混ぜ始めた

落ち着いていたどきどきがまたやってきた





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