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第185回 白と黒 の巻

■清貫レポートを信用してしまう不思議

政府は道真冤罪で失った信頼を回復し面目を維持するため、藤原清貫(きよつら)に「道真有罪の根拠となる自白」をゲットして帰ってくるよう、使命を託したことでしょう。

しかし清貫は道真=シロ(無実)とわかっていたはずです。

ではどうすればいいか。

そこで清貫が作ったレポートは絶妙。文面はまさに「シロなのにクロ」。(相当頭のいい人だったのでは!?)。

現代までも「道真はクロまたはグレー」を主張する学者はけっこういました。道真研究の第一人者・坂本太郎氏ですら「火のないところに煙はたたぬ」としてグレー説です。

しかし・・・その根拠はすべてこの清貫レポートなのです。

政府は客観的な証拠1つ文章にできないまま、対人論証だけで道真を流罪にしました。

しかし、そんなことを平気でする政府の人間が作成したレポートを、現代の学者さんたちが信用してしまうというのはとても奇妙です。

■清貫レポートの不思議

清貫レポートの内容を見てみましょう。『  』内は道真の発言です。

『源善からの誘いを断れなかった』

源善(みなもとのよし)は宇多法皇の側近です。

宇多帝はこの頃、詩歌サロン(サークル)を作っていますが、源善はその事務局長のような人です。

さきほどの道真の発言に対し、多くの道真研究本では「勝手に」下の【  】のような解釈を入れています。

『源善からの【謀叛計画の】誘いを断れなかった』


清貫は謀叛調査で道真を訪れているのですから、ウッカリこんな解釈でスルーしてしまいます。

ここが絶妙。

「道真サンはみなさんご想像の通り、シロでしたよ!」

「でも! 部下の謀叛計画を見て見ぬふりしていたのだから、共謀でクロなんです!」

というロジックなのです(天才か!)。

しかし・・・しかしです。

よく読むと、清貫レポートの中で道真は「謀叛」という意味の言葉を使っていません。読む側が勝手に「謀叛計画の話題」と読んでいるだけなのです。

そもそも… 源善って中級の役人です。 なんで中級役人が「天皇の廃立」ができるのでしょうか? 奇跡的にできたとして、その後どうやって宮廷内をまとめて運営していくのでしょうか?


■清貫レポート、最後の一文の謎

最後の一文

『仁和寺(=宇多法皇)の御事に、数(しばしば)承和の故事を奉じるのだということが有った』

カンタンに意訳すると

『宇多法皇が「承和(時代)のアレをやるんだ」と、しょっちゅうおっしゃっていた』

多くの道真研究本では、この「承和の故事」を「承和の変」=謀叛事件 と解釈しています。 

・・・私は個人的にここでモヤモヤしてしまうのです。

この解釈だと 宇多法皇は「失敗した謀叛」を例に出して「あの失敗した謀叛をまたやるぞ!」と言っているように聞こえます。文脈的に変です。

さらに、もし宇多法皇が「承和の変みたいな謀叛をまたやるぞ!」と発言しているのなら、宇多法皇が謀叛の首謀者ということになります。
(もちろん源善や道真が謀叛を計画したということは、バックに宇多法皇がいるということは暗黙の了解なのでしょうが)

■清貫レポートの真実?!

ここからは私のマンガ的空想。

道真を訪れた清貫。

ふたりは久しぶりの再会で世間話に花が咲いたでしょう。

道真といえば漢詩。 場をなごませるため清貫は漢詩の話題を振ります。

当時、宇多法皇がやっていた詩歌サロン(サークル)の話に。

右大臣という激務なのにサロンに誘われてしまった道真。

「いやあ、源善の誘いを断れなかったんだよ」

「で、法皇がね、承和の時代にあったみたいな、あんな華やかな詩歌サロンをまたやりたいねっておっしゃっててね…」

これでさきほどの文章が自然になります。

清貫としては、この世間話をキリトリでそのまんま書けばあとは読む側の解釈。自身が嘘をつくことなく、政府にも面目が立つ… そんなレポート作成をしたのではなかったか…と空想が広がるわけです。


■清貫に祟る道真?!

余談ですが…

私は道真が怨霊になったと思っていません。

スピリチュアル的な観点からではなく、著書から読み取れる人物像が「究極のリアリスト、合理主義者」だと感じるからです。

リアリストである道真が怨霊などという無駄なことをするとは思えないのです。「終わったことは終わり!」「今現在に関係しなくなったことは知らん!」みたいな。

しかし20万歩譲ってもし道真が怨霊になるとしたら、この清貫にだけには祟っただろうな!と空想します。

時平でも源光でもなく、清貫です。

神の視点で俯瞰すれば時平や源光の政争なんて「まあ、人間やしな! ちっこい存在やしな! しゃあないわな!」程度かもしれません。

しかし、清貫のしたことは・・・神として許せる範囲をこえている可能性があります。それぐらい清貫のしたことは罪深いように感じます。

道真の死後、清涼殿に落雷があり、偶然にも道真レポートの作成者・藤原清貫は雷にやられて顔面を焼かれ亡くなってしまいます。。

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