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 尊敬する陸上選手の一人に三武潤さんという方がいる。その方が今日の大会を以て引退されるということで、多くの観客が盛大に最後のレースを盛り上げた。同じ組に入った選手、サポートスタッフ、審判員……多くの方々に見送られて幸せそうだった。私もそこに審判員として居合わせることができた。

 三武さんはしがない800m選手である私にも、すれ違った際はいつも声をかけてくださる。初めて会ったのは大学1年の春だ。自分の大学で多くのトップ選手が集まって練習する機会があり、その練習に加えていただいた時だった。400mを3本、10分レストで行うメニュー。設定は52-51-free秒だった。2本目でヤキモキした私は設定を無視し、先頭のペースメーカーの方を追い越し、そのままトップまで走りきろうとした(あまりに僭越な行為だったと今は反省)。だがその後すぐ三武さんは物凄い速さで私を追い抜いていったのだ。私は48秒で、三武さんは47秒。練習で47秒を目の当たりにすることにそもそも驚きだったが、私が粗相で全力で飛び出した走りに対しても打ち負かしに来られたことに本当に驚きだった。

 案の定私の3本目は動かなくなったが、三武さんは2本目のスピードをまた47秒でカバーした。私の大学の中で最も印象に残っている練習メニューだ。

 その後会ったのは、その年の秋の国体だったが、たった一回練習しただけの間柄だったのによく覚えていてくださっていた。その上三武さんのほうから話題を振ってくださる。今日も審判員として待機している私に「え、そこにいたんだ!今日走らないの?」と声を掛けてくださり、そこで自分が今日出場していないことに後悔を覚えた。実力もすごいが、それだけに留まらず非常に気さくで、それゆえに今日の記録会も多くの方々に見送られていたのだなぁと得心した。

 今日は自分の大学だけでなく、他校の選手の頑張っている姿を目の当たりにし、やはり800m良いなぁ、中距離やりたいなぁとうずうずした。色んな方から大学後の生活や、陸上との付き合い方のお話を聞いて、私の人生の理想の輪郭を思い描く日となった。

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