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短編小説『入学式』

今日は待ちに待った入学式である。





おれは今日から"高校生"になろうとしている。



卒業式で必ず言う"真新しい制服"に身を包んでいる。ついこないだ中学の卒業式でもみんなで声を揃えて叫んだところだ。



そんなこれから3年間着ることになる真新しい制服は少し大きく感じる。それもそのはずだ。お母さんに『もっと駿は背が高くなるから大きめで買っといたほうがいい』と、なんの根拠もないことを言われ、おさがりのようなサイズの制服を購入しているのだ。大きく感じるのは当たり前のことである。



そんなブカブカ制服を着ながらこの入学式というこれからの高校生活を過ごす上で重要な局面を迎えている。





おれは中学生の頃いじめられていた。身長が低いが故のチビ扱いを受けていた。周りからは名字の千葉を文字り"チビシュン"という蔑称で呼ばれていた。

運動出来ない、身長はチビ、勉強はまあ普通よりちょい下。客観的に見ても自分がモテるはずがなく、いわゆる"インキャ"に属していたし、そのせいか人のことを斜に構えた見方をしてしまう。


そんなおれが必死に勉強してなんとか入った高校。元々の自分の偏差値よりも結構上で、校則が緩いことで有名。人気な高校だった。だから正直めっちゃ勉強した。モチベーションはもちろん高校ではっちゃけるため。





いや、ちょっと濁したけど簡単に言うと彼女を作って青春を謳歌してやろうとしてる。





地元から離れた高校なため、同じ中学の同級生はいない。過去の自分を知らないこの地でおれは花を咲かせてやる。



そんな気持ちがあったからか、緊張してなのか...かなり早く来てしまっていた。まだ入学式がはじまるまで時間はある。


受付でもらった名簿と座席表を照らし合わせながら、綺麗に並んだパイプ椅子のどこに自分の居場所があるのか探した。



あった。      うわ



おれが座るはずの席の隣に女子が先に座っている。




いや絶好のチャンスじゃん。



隣てことは多分おんなじクラスだし。



ここで声をかけずしてどうするおれ。高校生デビューするんだろおれ。話しかけちゃえ。いけいけ。いやあでもおれ冴えないチビだしなあ。いやそんな弱気でどうする。そんなんでこれからの高校生活どうする。男になれ!おれ!いやあちょっと待っ...




とりあえず座ろう。








まさかの向こうから話しかけてくる系女子
「はじめまして!!!」

おれ
「あ、、、どうも、、はじめまして」

見た目大人っぽい系女子
「え、なに緊張してるん??ウケんだけど」

おれ
「いやそんな緊張してないけど、話しかけられてびっくりした」

コミュ力いかつい系女子
「誰もいなかったのに隣来たからさ!!誰でも声かけるじゃん!?!?」

おれ
「まあそっか、え、名前なんて言うの?」

絶対おれより背高い系女子
「たかはしえみ!!!花が咲くの咲くって字でえみ!!!」

おれ
「そうなんだ。最初から読まれたことなさそう。」

テンション高い系女子
「そう!!!最初から当てられたことあんまないんだよね!!!」

おれ
「おれは千葉駿、よろしくね」

愛想もめちゃくちゃいい系女子
「よろしくね!!!!」

おれ
「地元どこらへん?」

制服めちゃくちゃ似合ってる系女子
「うちは北区だよ!!!だから〇〇線使ってる!!!!」

おれ
「おれも北区!xxx駅だよ、最寄り」

なんなら先輩ぽさすらある系女子
「え、そうなの!!!!!!!!うちその次の前の駅!!!!」

共通点発見した系女子
『...てことは、どこ中!?!?!?』

おれ
「北中」

コミュ力すごい系女子
「え、まじで!?!?!?!?じゃあともやとかいたっしょ!?!?!?!?」

おれ
「あ、うん。いたよ」

あれ、ちょっと待てよ系女子
「え、まじで!?!?!?うち友達だよ!!!!!!」

おれ
「そーなんだ、おれあんま仲良くなかったんだよね...」

まさかのおれをいじめてたやつと友達だった系女子
「え、まあうちも友達って言っても全然仲良くないよ?たまに遊んだりするけどあんま面白くないって思ってたし」

おれ
「え、そうなの、おれもあんまり合わなかった」

よかった友達じゃなかった系女子
「じゃあ一緒だ」

おれ
「よかった」

やっぱめちゃくちゃかわいいわ系女子
「え?」

おれ
「いやなんもないよ。こっちのほうまで来る人あんまいないから珍しいなって思って」

まさかの共通点発見した系女子
「いやそれな!!!地元にこっちの方まで来てる人あんまりいないから安心した!!!」

おれ
「おれもだよ」

帰りめちゃくちゃ一緒に帰りたい系女子
「よかった」

おれ
「なんでここにしたの?」

話してみると意外と普通系女子
「うーん、なんか楽しそうだから?」

おれ
「おれも」

なんかアホっぽいのもかわいい系女
「あと制服かわいい」

おれ
「確かに人気だよね」

かわいいからなんでもいいや系女子
「そう!だからめっちゃ勉強した」

おれ
「おれもめっちゃ勉強したよ」

まさかの共通点2個目発見できた系女子
「一緒だね」

おれ
「てかぱっと見、先輩かと思った」

ギャルぽいからそう見える系女子
「それめっちゃ言われる!!」

おれ
「なんか大人っぽい」

いやタイプなんですけど系女子
「めっちゃ嬉しいな!!!でも中身は全然そんなことないんだよ」

おれ
「え、そうなの?」

まさかのギャップある系女子
「うん、この見た目のせいであんまモテないし」

おれ
「えーそうなん?」

見た目ヤンキー系の彼氏いると思ってた系女子
「そうだよ、見た目的にめっちゃ遊んでそうでしょ?」

おれ
「あ、うん」

ギャルでツッコミもいける系女子
「『うん』て!!!!!そこはそんなことないよ でしょ!!!!!」

おれ
「あ、ごめん」

めっちゃ話してて楽しい系女子
「いいよ!駿は誰かと付き合ったこととかある?」

おれ
「え...ないよ」

やっぱりなんかいい匂いしてきた系女子
「だと思った」

おれ
「いやそんなことないでしょ でしょそこは」

なにこの掛け合いめっちゃ楽しいんですけど系女子
「ごめんごめん!!なんかちっちゃくてなんかモテそう」

おれ
「ありがとう」

なんか恋始まりそう系女子
「いえいえ!!」

おれ
「ライン交換しない?おんなじクラスぽいし」

はい、ライン交換したからこれから恋愛始まる系少女漫画系女子
「いいよ!!!!!」



(交換する)



おれ
「またあとで連絡す...」

めちゃくちゃ陽キャラ系のサッカー部系イケメン
「おー、えみじゃん」

えみ
「うわー!!!けんたもここ受験してたの??めっちゃ久しぶりじゃん???みんなで集まったとき以来だよね懐かし...」






そのままおれは携帯をいじり始めた。


(たかはしえみ)


ラインは追加した。とりあえず一安心。




だが、
それ以降は特に話さなかった。
イケメンと話してたし。



そうだ、彼女はおれなんかと話すレベルじゃない。カーストでいったら向こうは上位で、おれは最底辺。たまたまクラスが同じでたまたま隣にいてたまたま話しかけられただけ。偶然が重なっただけ。





いつの間にか式が始まった。



校長先生の長い話。何人いるかわからない来賓の紹介。一人ずつ呼ばれる点呼。

そこからそれぞれクラスに行き、一人一人の自己紹介をしたり、これからの高校生活の必要なことを担任から説明を受けたりした。

やっぱりえみも同じクラスだった。全然おれのことなんて見向きもしてなかったけど。


気付いたら下校の時間になっていた。全てが新しすぎて時間が経つのが早いということも気づかないぐらいにあっという間だった。




そして、おれは今日のことを振り返りながら家に帰った。




お節介系お母さん
「どうだった?入学式」

おれ
「あーまあ普通」

制服でかいの買わせた系お母さん
「普通ってなによ、ご飯食べる?」

おれ
「うん、あとで食べる」




自分の部屋に戻り、明日の準備をしよう。

これから色々頑張ろって思った。そんな一日だったなあ。





携帯
『...ピロン』




ラインの通知音だ。




ギャルだけど話してみると普通で可愛くていい匂いする大人っぽいけどどこか子供っぽくもありとりあえずめちゃくちゃ仲良くなりたい系女子(たかはしえみ)
『今日話したえみ!!!これから仲良くしよーね!!!!』




まさかの向こうからラインきた。めちゃくちゃ嬉しいやつ。やべぇ。こういう時どうやって返すんだろ。ここはあえて普通のフリして返そう。



おれ
『こちらこそこれからよろしくね』





ギャルだけど話してみると普通で可愛くていい匂いする大人っぽいけどどこか子供っぽくもありとりあえずめちゃくちゃ仲良くなりたい系女子(たかはしえみ)
『でもさ、なんか制服おっきくなかった?笑』






毎日着てく制服なのに初日からそんなの言われたら恥ずかしすぎる。いやでも






この制服が似合う高校生になる。いやなってみせる。駿はそう決心した。





背高くしたい系男子
「お母さーーーーん!!!!!明日から毎日朝牛乳出して!!!!!」




(おわり)


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