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【短編小説】人間感情中間試験

問2.以下の文章を読み、①〜⑩の文章へ適切な感情を当てはめなさい。

【A.好き B.不安 C.ラッキー D.辛い E.嬉しい F.寂しい G.苛立っ H.哀しい J.情けない K.楽しみ】


高校生である僕には彼女がいなかった。
目立つようなタイプでもなかったのが原因かもしれない。
僕はクラスにいる女の子が気になっていた。それが【①】という感情に気づくのはもう少し先だった。
クラスの人気者である彼女は男女問わずに友達も多かった。


少し時間が経つと彼女には彼氏が出来た。
それは複雑な気持ちでやっぱり【②】と思った。
遠目で手を繋ぎながら帰っていくのを見ていた。


高校を卒業し、大学入学のタイミングで上京した。東京は僕に期待していないだろうが、僕は東京には期待をした。【③】な気持ちだった。
これを機にキャラ変をし、遊んだ。

順風満帆な大学生活を送れたと思った。


しかし、そうは行かず遊んでいた女の一人から『できちゃった』と言われた。
僕は何がと聞き返すことはなかった。

『責任取ってよね』

僕は もちろん と言った。しかし内心は【④】だった。


ぼちぼちの就活を終えて、ぼちぼちの会社へ就職した僕は仕事に追われていた。
子供は3歳になっていた。気づけばアラサー。
妻は育児に追われ、僕は仕事に追われていた。

夫婦熱は冷めつつあり、喧嘩も多くなった。それぞれが【⑤】ていた。


取引先の社長に連れられ、西麻布のキャバクラに行った。全部奢りの天国だった。金遣いの荒い人についている僕に嬢は愛想よく対応してくれた。

酒池肉林とは酒や肉が豊富で豪奢な酒宴という意味らしい。昔意味を調べた僕はこの肉には女っ気は一つもないというのを辞書を引いて、僕は別の意味で引いてしまったのを思い出した。

社長が会計を済ませている間にも店の閉店時間になった。嬢からこの後の予定を聞かれた。【⑥】と思った。
これが酒池肉林の誤った使い方をされる所以だとも思った。


そんな関係性もズルズル続き、いよいよ嫁にバレた。嫁は調査事務所に相談し、僕をつけていたようだった。
『今日も女の子ところ?』
そう言うと離婚届を僕に突きつけてきた。もちろん⑦な気持ちもあったが、妙に納得した気持ちになった。

そんなこんなで別居を始めたが、嬢との浮気のために嫁とのマイホーム貯金にも手をつけていた僕にはお金はなかった。


月日は流れ、一人目の子供が小学校に上がっている頃。僕の浮気が原因で別れ、3年が経とうとしていた。
あれから元嫁はおろか、子供にも会っていない。
お金がなくなった僕は嬢には見限られ、郊外で一人貧乏生活を続けていた。
子供の養育費に慰謝料を払っている僕はぼろぼろのアパートの家賃もばかにならない。今年入ってきた新卒よりも貧しい生活をしているであろうと想像すると【⑧】気持ちになった。


30歳になった僕は久しぶりに同級生から連絡があった。
『今度、高校の同窓会があるらしいけど行く?』僕はか少し間を開けて 行く と返信した。
誘われて【⑨】と思ったからだ。

行ってみると男女30人ずつぐらいがお酒を飲みながら思い出話をしていた。見覚えのある人もいれば、誰だかわからない人もたくさんいた。

誘われた友達と合流し、その周りにいた人たちと話した。最初こそ辿々しかったが、やっぱり久しぶりに話すと昔の記憶が蘇ってくる。遊んだ記憶とか怒られた時の記憶とか隠れていた引き出しが勝手に開いていく。みんながそれぞれ仲良い人と話しに行き、一人になった。遠くのほうに一人でいる女の人がいた。

それは高校の時に片想いをしていた人だった。昔と変わらず可愛かった。勇気を出して話しかけてみると笑顔で応対してくれた。お酒の力を借りた僕はあの時よりも社交的になっているようだった。

彼女とホテルに入った。
女性とするなんていつ振りだろう。
しかもあの片想いの相手。なにを考えたらいいか考え、思考はフリーズしていた。
いざベッドに入ると、30歳を迎えた僕には元気がなかった。
お酒のせいだよと慰められた僕は【⑩】気持ちになった。


そんな僕が帰った家は今日も誰もいなかった。


(ドアが開く音)

担当教師『えーテスト中失礼します。内容に不備が見つかったため全員正解とします。一応訂正箇所を伝えますが、問2の選択肢に「いいムードだからセックスしたい」が含まれておりませんでした。』


僕は【⑪】と思った。



(おわり)

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