短編小説『やめられない理由』
〜飲み会にて〜
「好きなもん頼んでいいよ、ここおれ出すから」
女A『え!?まじで!!』
男A『最近お前羽振りいいよなあ』
「まあね」
女B『本当にいいの?』
男B『じゃあお言葉に甘えて』
「どうぞどうぞ」
女C『私あんまりお腹減ってない』
男A『まあまあ、奢ってもらえる時に奢ってもらっとけよ』
男B『でもなんでお前最近そんなお金あんの?』
女A『やばい仕事でもやってんじゃないの?』
「昔は金なかったけど...今は色々頑張って潤ったんだよ」
女B『そういうことか〜!じゃあこの一番高いやつ頼んでいい?』
女C『いや食べれないって絶対そんなの』
男A『いいから頼んどけってあいつが出してくれんだから』
一瞬だけでも富豪になった気分が味わえる。
最高で最悪なあの日さえ乗り切れば。
〜最高で最悪な日(事前)〜
買ってもらったシャツを着て、買ってもらった革靴を履き、重たい玄関のドアを開ける。
今日は風が強くて寒い。駅までは近いからなんとかなるはずだ。
今月もこの日が来てしまった。
最悪な日。
今日は月に1度の60歳の金持ち(ババア)とセックスする日。
それで金が貰える。60万。年収にしたら720万。23歳で。
たった1日1回ヤるだけで同年代の周りの倍以上貰えてる。他の日は遊び放題。
まあ金持ち(ババア)にペットとして飼われてる感覚。
気が付けば最寄りの駅まで着き、タワーマンションの麓まで来ていた。
エントランスで部屋番号を押すとオートロックのドアが開いた。
開いているエレベーターに体を押し込み無理やりその階数まで自らを運ぶ。
初めて来た時は緊張してたな〜、おれ。
半年前に友達からの紹介でこんな生活が始まったんだよな。
インターホンを押すと、なんの前触れもなく、ガチャっと鍵が開く音がした。
『あれ、こないだ買ってあげた服?似合ってるじゃない』
こんなの着たくねえけどなという思いを飲み込んだまま荒っぽく靴を脱ぎ、そのままの勢いで嫌いなニオイのするリビングへと到着した。
〜最高で最悪な日(事後)〜
オエッ。
きもちわりー。
洗っても洗ってもこのニオイが落ちねー。
あのオバハンなんなんだよまじで。
こんなん絶対友達には勧めらんないな。
いつも帰って家に着くと何やってんだろうという気持ちになる。
こんなことするぐらいならアルバイトしたほうがマシだよほんと。
いつもそう思うが、「家賃10万の駅近マンションに住んでいるから、そういうわけにもいかないんだよなーこれが。」という冷静沈着な自分が心の隙間から出てきて情けなくなる。「生活が変わればそれなりに稼がなければいけないってわけ。」
あと生活が変わっただけではない。
考えも少し変わった。
今までは
(女ってめっちゃ楽だよなー)
(だって男に身体を売れば簡単にお金貰えるわけでしょ)
(バカだよなー)
とか思ってたけど
(金の為に身体を張ってる君ラはエライ)
(すごいよ本当に)
(同情するよ)
見てる側から当事者の立場になったから考えが変わった。当たり前か。
もう一生、来月の今日が来ないでくれと思う。
明日は何しよう。
服買いに行こうかな。
寒いから新しいアウター欲しいし。
あの友達と飲みに行こうかな。
最近会えてないし、奢るって言えばどうせ来るだろうし。
てかそろそろ引っ越しでもするか。
もうこのワンルームも飽きたし不動産屋にでも行ってみるか。次は1LDKぐらいにはしてえな。
この生活やめらんね〜。
(おわり)
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