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短編小説『2回目のはじめて』


今から告白をする。緊張してきた。


「好きです。付き合ってください。」





高校でおんなじクラスの冴えない男子...斎藤のことが気になり始めたのは半年ほど前。

それまでは正直どうでもいいっていうかおんなじクラスの地味な男子って印象。話したこともないし、声も聞いたことないかもしれないぐらいに。意識するどころか視界にすら入って来なかった。周りの女子とのガールズトークの名前に上がったこともなかった。


そんな彼のことが気になり始めたきっかけはある日の放課後だった。

数学のテストが赤点ギリギリで先生から補講を受けた帰り道。毎日横を通る公園でひと休みしようと進路を変え、自転車を押してベンチまで歩いた。途中でジュースを買い、目的地ではなかった目的地に着き、勢いよくスタンドを蹴った。

あ〜...疲れた〜...。

公園には遊んでいる子供達がいる。あんな楽しそうに遊んでたわたしにも時期あったな〜。



...ってあれ?


小3か小4ぐらいの子供とサッカーボールを蹴り合ううちの制服を着た男子がいた。


...あれ斎藤じゃね?


なぜだかわからないがすぐに斎藤だと予想がついた。

『おい〜どこ蹴ってんだよ〜!!』

斎藤に向かって小学生が叫んでいる。

『ごめんごめん!!』

小学生に向かって斎藤も叫び返す。

声聞いたのはこれが初めてだったと思う。てかこんな大きな声出せるんだ、斎藤って。

少しの間、彼らのボールのやりとりを眺めていたのだが我慢できなくなり、ベンチから立ち上がった。



「斎藤だよね...?」

『あ、同じクラスの...』 

私は斎藤の言葉を待たずに

「ちょっとボール貸して。」

軽々とリフティングをして見せた。

『お姉ちゃんすげー!!何者!?』

小学生は目をキラキラさせて言う。

「昔やってたのよ...にしても...斎藤、あんた下手すぎ」

『し、仕方ないだろ!サッカーなんてやったことないし!!』

斎藤は言い返す。

『て、てかサッカーやってたの?』

「まあ少しね」

『タクミは運動出来ないんだよ!』

『うるさい、そんなこと言うならもう遊んでやらないぞ!』

『いいよ!このお姉ちゃんのほうがうまいから今度から相手してもらうもんね!』

「そうね、斎藤よりかは相手出来るかもね。」

『なんだよ、みんなして!!』


そのあと補講の疲れを忘れてサッカーで遊んだ。小学生が楽しそうでなによりだった。



ベンチに座り、小学生がリフティングの練習をしているのを二人で眺めながら聞いた。

「あの子は?」

『弟のハルキ』

話を聞くと斎藤は母子家庭で歳の離れた小学生の弟と母親の3人で暮らしていることがわかった。

学校が終わると弟の遊び相手をし、家に帰ると、母親の代わりに家事をやっているとのことだった。


なんだよ、斎藤。めっちゃいいやつじゃん。弟想いなお兄ちゃん。いいやつじゃん。知らなかったな、こんないい人だったなんて。 



『またハルキの相手してあげてよ』

「うん、そうする。」

『ほんと?ありがとう』



それを機にクラスでも話すようになった。
定期的に3人で遊ぶようになった。
斎藤の家にも家事を手伝いにお邪魔するようになった。
斎藤は前より明るくなった気がする。



気付いたら彼のことが好きになっていた。



今度告白しよう。そう決めた。





「今日公園行くよね?」

私は席で何かを書いている斎藤に聞いた。

『行くけど今日提出のプリントあるからそれ出してから行く。先行ってて』

「うんわかった早く来てね」


いつものように公園に着いて、ハルキ君と二人でサッカーをしていた。

『タクミ遅いね』

「確かにね、もうすぐ来ると思うんだけど」


その瞬間ポケットの電話が小刻みに揺れ出した。画面を見ると斎藤からだ。なぜだがわからないけど嫌な予感がした。斎藤から電話がかかってくることなんて滅多にないからだ。

電話に出ると斎藤ではない人間の声がした。


「もしもし!」

『...斎藤?』

「救急隊員です」

『え』

『彼が交通事故に遭っていま救急車で病院に運んでいる最中です。』

「どこ病院ですかっ」


聞くや否や私は自転車のスタンドを蹴り、全力で漕いだ。 



病院に着くと斎藤はベッドの上で横になって寝ていた。

公園に向かっている最中で車にハネられたらしい。医者には一通りの事情を聞き、連絡していた斎藤の母親が遅れて到着したので今までの経緯を説明した。


『ほんとにありがとうね』


斎藤の母親に感謝されながら病院を後にした。



実は今日斎藤に告白しようとしていた。あいつから告白は絶対してこないだろうし。見るからに草食系だし。喋ったら余計だな。だからわたしからと思っていたらこんなことに。


急がせた私のせいなのかな。そんな自問自答に駆られながら眠りについた。



命に別状はないとのことだったが、重度の脳震盪で記憶の一部が破損していた。いつかは戻るとのことだが、いつ戻るかはわからないと言われた。家族のことは覚えているようだが、私のことは覚えていないようだった。

医者が言うには、話すことで記憶が戻ることもあるかもしれないので定期的に話をしてあげてくださいとのことだった。

それから定期的に斎藤のお見舞いに行った。くだらないクラスの出来事などを話した。私がクラスメイトであることは理解してくれたようだが、なぜ仲がいいのかは忘れてしまっているようだった。



 



ある日、ベットで横になっている斎藤が椅子に座っている私に話しかけてきた。

『なんで君は毎日お見舞いに来てくれるの?』

「なんでってあなたの記憶が戻って欲しいから」

『なんで記憶が戻って欲しい?』

「あなたと私は事故の前仲良く遊んでたのよその記憶を思い出して欲しいの」

『そっか...別に付き合ってたわけではないんだよね...』

「え、まあ、うん」

『そうなんだ...』

「何言ってるの」

『いや、よくお見舞いに来てくれるからてっきり僕の彼女なのかと思って』

「なら言うわ。私は斎藤のことが好きだったの。そしてあなたが事故にあった日私は告白しようとしていたの。」

「告白...?」

『そうよ。あなたは知らなかったと思うけど』

「いや...告白...。思い出してきた...。おそらく君に渡すはずの...とりあえずこれを見て欲しい」

「え?」

『それは僕が事故に遭う前に書いていたもので、名前が書いていなかったから誰宛に書いてあるものだったのかわからなくて...でも今ので確信した』

封筒を開け、中を読むと斎藤から私への感謝と愛の言葉が綴られていた。


【好きです。僕と付き合ってください。】


この言葉で手紙は締められていた。



これを書くために遅れて行くと言ったのか。

斎藤は私にこう言った。



『記憶がなくなる前の僕からの告白がこれ。そして記憶が無くなったあとの僕からも告白させて。』





今から告白をする。緊張してきた。


2回目のはじめての告白だ。


「好きです。付き合ってください。」


『こちらこそお願いします』



彼女の笑顔を見てホッとした。



僕はまだ彼女の名前を知らない。


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