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5年前日記④

もうすぐ子どもが5歳になる。
それで5年前の記憶がわたしのまわりをうろうろしている。
せっかくなので書きとめておこうと思う。


2018年2月1日(木)

あれ?なんでわたしこれ乗り越えられると思ったんだっけ?

陣痛の合間に浮かんだ率直な感想である。というか、率直な絶望。
わたしの気力は痛みによって完全に折られた。

2日前に破水というのをして産院に入院したわたしは母子の安全のためにそろそろ出産してしまう必要があるのだが、そのためにさまざまな処置を受け続けて3日目の今日になっても、ほとんどお産が進んでいないのだった。

進まないけど陣痛はある。朝から陣痛促進剤という薬剤を点滴で入れられて、わたしのからだは強制的に陣痛の波を起こされていた。
なんかいけるんじゃないかと思ってた。陣痛。めちゃくちゃ痛いだろうけどなんとか波に乗っちゃえばいけるだろうって。
ああ。

そもそもわたしは無痛で出産したくて、無痛分娩が可能な産院を探してここに決めたのだ。
しかし健診時に「ウチは初産なら基本普通分娩でやってるよ」と言われ、それでも食い下がれば無痛でいけただろうに、あ、じゃあなんか普通分娩でいってみようかな、と決めてしまったのだった。経験してみるのもアリかなって、立ち向かう気持ちというか、直面してみたい欲が唐突に、生まれてしまって。

その日の診察室の光景が、会話が、走馬灯のように浮かんだ。陣痛と陣痛の合間。
直面したわたしは思った。
だめだ。完全にだめ。むり。
立ち向かえるような痛みじゃなかったです。なんでできるって思ったんだろ?本当に。
赤ちゃん。確実にここにいるのに、わたしの中にいるのに、ぜんぜん出してあげられない。それどころか遠ざかっていくような気さえした。すべてが遠かった。痛みに支配されて。


結局、今日も出産せずに終わった。
個室に残されたのは消耗して打ちひしがれたわたしと、妻の陣痛に立ち会ってかなり圧倒されていたようすの夫と。
面会時間が終わって帰っていく夫をベッドで見送った。明日また朝一で立ち会いに来てくれるようだ。

彼には、明日こそ赤ちゃんに会えるようにがんばる〜などとへらへら言ったものの、ほんとうはわたしの心はばきばきに折れていて、たすけて医療、の気持ちでいっぱいである。実際、今夜は麻酔の一種を使ってもらって、陣痛を打ち消した状態で眠れるようだった。ちょっと前から効いている。痛くない。
痛みがないって天国みたい。


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