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140字詩集


私が私で居続けるためには言葉でこの輪郭を縁取る必要があると思っていた。つまり今言葉の思い浮かばない私は蜃気楼のようなものだ。きっと体は透けて世界が見える。それは私の中が空洞であるというより世界の色が濃すぎるのだ。今はそれが息苦しくてうまく色を見いだせず、言葉を紡げずにいる。

放つ

私の言葉が誰かの発見や共感やナイフやハンカチになるときを私は見ていない。そこに放った言葉の先にあるもの。それは私の手を離れた瞬間どこに飛んだかわからなくなってしまうのだ。だからそこにある感情が私に向けられたものか自覚がない。だからこそ言葉を紡げているのかも知れないけれど。

デフラグ

頭の容量がいっぱいになっている無駄なキャッシュが多すぎる。キャッシュ削除をしてデフラグをするべきだ。ようやく今日ひとつ詩をひねり出せてわりと気に入ってるものになったけどそれでもこれでは気持ちが悪い。私は私の言葉を吐き出したいのだ。私の輪郭を保ちたいのだ。

タイムライン

眩しい白い蛍光灯はタイムラインを静かに照らす。閉まったカーテンの向こうに広がる夜空のようなダークモードのタイムライン。誰かの呟きが落ちる。流れる。雨になる。太陽は昇らない。冷たい温度を保ったままの世界で目だけ熱くして見つめている。ガラスの向こうに生えるのは名もない歌の草。

あのとき走った思いでは猫だよ。そう呟く君の瞳の瞳孔は開いていた。だからそれは嘘だった。あのとき歩いていたのは君だよ。思い出じゃなくて。近所のレンガブロックに積まれた夏の残滓。アスファルトに落ちるのは冬に落ちなかった雪のなれの果て。

頭痛

頭が痛いんだ。ああ。わかってるよ。薬は飲んだ?Xは閉じた?ガムは噛んだ?小説は読んだ?水が足りてない。下だらない言葉たちを飲みくださないと。速く溶かせ胃酸を浴びせよ。我々は宙の意の元言葉を紡げ。

順応

明順応より暗順応の方が時間がかかるのは闇を恐れているからだ。でもLEDの照明の冷たさが消えるから悪いことばかりじゃない。あたたかみのない光。それが闇とするならば世界はあたたかいはずなのに。どうして。

ボーカロイド

ボーカロイドの無機質な声じゃないと伝えられないものはある。生々しさを削ぎ落して最低限の中身だけ。肉も骨もいらない。口の動きすらも。それでも伝わるものがあるならきっとそれが真実で、僕らの本当の姿なんだ。

私が私でなくなるとき、あなたはあなたでいるでしょう。空気と化した私はきっと、あなたの呼吸になるでしょう。そこから私は空になる。風になる。紫外線をまとって降り注ぎ肌を焼き、たぶん私は嫌われたい。

言葉


言葉がわからない。そこに落ちているのは葉なのか花びらなのか。端に寄せたまぶたは開くことを待っている。目に入る新緑は唇の色。散っていく色。朽ちていく色。明日はきっと雨でしょう。こんなに艷やかにまつげが輝くので。

あの光景は僕の心そのものだった。つまり僕の心ああそこにあって、僕の中にはなかったのだ。だから僕は君を好きになることはなかったし、嫌いになることもなかった。僕は深呼吸をする。呼吸のたびあれは膨れ上がる。破裂するまで僕は深呼吸する。でも破裂してくれない。忘れられない僕のように

なにもしない

何もしない、を、する。 何もしない。Twitterも見ない。Instagramも見ない。TikTokも見ない。YouTubeも見ない。漫画も読まない。詩も小説も読まない。 ただそこに在るだけの存在になる。 ご飯を食べない運動しない睡眠を取らない。 そこに、いる、だけ。 世界の真理に、近づく行為。

タイピング

タイピングをする指が奏でるのはキーボードという鍵盤の上で踊る音符の代わりのアルファベットたち。彼らが踊れば紡がれる音楽が画面上に流れていく。そこにあるのは誰かの思いと叫びと嘆きと妬みと。叩き込んで保存ボタンを押した後、ファイルを右クリックして消去する。

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