EAUCHEMIN(オーシェミン)/デザイナーズノート
はじめに
初めましての方は初めまして。
オーシェミンのゲームデザインをした雨崎レールです。
この記事はボードゲーム「EAUCHEMIN オーシェミン」のデザイナーズノートです。
主にオーシェミンができるまでの話、作っていたときの話をしていきます。
https://www.kickstarter.com/projects/358680889/eauchemin?ref=clipboard-prelaunch
軽く自己紹介をしておきます。
2018年から「杓子兵器」というサークルで趣味で7作ほどボードゲームを作ってます。
直近の3作品をあげると「テウスフィア」「テボリューション」「ペンギンの消えた足跡」という作品です。
はい、僕に関する話はこれくらいにして早速本題に移りましょう。
キックオフ
2023年の7月、Sui Worksさんと打ち合わせが始まりました。
僕とSui Worksさんははじめましてではなかったものの、4年前に一度会ったことがある程度でした。
強いて言えばTwitter(X)でたまに見かけるくらいで、お互いのことを深くは知っていませんでした。
初回の打ち合わせでは、お互いに好きなゲームやゲームデザイナー、好きなテーマなどの話をしながら、どんなゲームを作ろうかとお話しをしました。
お互いの好みにそれほど距離もなく、純粋にボードゲームオタクとして語り合いました。
1回目の打ち合わせでは制作する内容には深く入らずに終えました。
しかし確実にここからオーシェミンの制作は始まりました。
制作するゲームにはSui Worksさんの提示する条件を入れる必要がありました。
Sui Worksさんからの条件としては、
・プレイ時間:30分~60分程度
・プレイ人数:2~4人程度
・対戦ゲーム (=協力ゲームではない)
の3点。
協力ゲームをあまり考えない僕にとっては「プレイ時間だけ考えてあとは自由に作ってくれ」と言われているようなものでした。
ただ個人的には30分よりは60分~のゲームの方が力を発揮できると考えたので相談したところ、60分を多少超えるくらいのゲームでも構わないとのことでした。
最終的にゲームのプレイ時間が60~80分となっているのはそういう理由です。
ゲームデザイン
自由にゲームを作るとき、まずはゲームの軸になりうる要素を1つ考えることから始めるのが僕の制作スタイルです。
今回の僕はまず「一方通行のゲーム」を作りたいなと考えていました。
僕の言う「一方通行のゲーム」とは、スタートとゴールが存在していて、ゴール方向にしか進めないような要素を指しています。
具体的にこの要素を含んでいるボードゲームの例を挙げるなら、「グレートウエスタントレイル」「人生ゲーム」などです。
ここで各ゲームは一方通行にどんな意味を持たせているかに着目してみましょう。
グレートウエスタントレイルにおいてはカンザスシティという目的地に向かうこと、
人生ゲームにおける一方通行とは時間経過を指しています。
上手くテーマを持たせる(=ゲームでやることがわかりやすい)ことで、プレイヤーはより早く確実にルールを把握できます。
ゲームを作るうえでこれは非常に重要です。
ここで僕も一方通行について考えました。
そして僕が考えた中では一方通行は大きく2つに分けられました。
1つは「感情からくる一方通行」です。先ほどの例だとGWTの目的地に向かいたい欲求です。現実世界で考えたときには、戻ることが可能なものです。
そしてもう1つは「状況からくる一方通行」です。先ほどの例だと人生ゲームの時間経過です。現実世界で考えたときには、戻ることが不可能なものです。
この辺りまで考えているところで、Sui Worksさんとの打ち合わせでゲームのテーマは船がよさそう、となりました。
これはお互いにパッケージに船の描かれているゲームにはテンションが上がる、ということから決まりました。
一方通行、そして船……
かなり安易ではありますが、船で川を下ることを思いつきました。
船が川を下るのは、先程の2つの中だと「状況からくる一方通行」です。
遊んでいるプレイヤーに行動の疑問を抱かせづらく、かつゲームシステムに強く縛りを与えてくれます。
船が川を下るのは自然かつ分かりやすいですし、この「船が川を下る」をシステムの主軸に据えることを決めました。
「船が川を下る」という軸が決まったあとは、テーマとシステムの両岸を行ったり来たりしながらゲームの大まかな構成は決まっていきました。
ゲーム全体でやることとしては、「川を下りながら資材を集め、川を下った後に資材を使ってお金を稼ぐ」でした。
かなりありきたりでわかりやすいテーマだと思います。
これは逆に言えば、システムを多少難しくしてもゲームの理解がしやすいことを意味しています。
システムを凝りつつ、取っ付きやすく、考え所も多くしたい欲張りな僕には、シンプルすぎるくらいのテーマをちょうど求めていました。
ここからはメインのゲームシステム作りです。
ワーカープレイスメントにするのか、アクションポイントにするのか、タイムマネジメントにするのか。様々なシステムが考えられました。
メインのゲームシステムを考えながら特に気にした点が2つあります。
1つはインタラクション(他人との干渉度)の強さ、
もう1つは初回における見通しの良さです。
インタラクションは、強くなりすぎれば「邪魔された」度合いが増えます。なければないでやりたいことを自由にできますが、ソロゲーム感を強めます。
オーシェミンにおいては、各プレイヤーは自分の手番中に多少相手のことを邪魔に感じる程度、かつ、相手の邪魔をするよりは自分のしたいことを優先したくなるようなバランスを目指しました。
見通しの良さは、初めてプレイするときにやりたいことを明確にできたり、ゲーム全体の計画を立てやすくしますが、見通しが良すぎるとゲームの天井があっさり見えてしまったり、ゲームの途中で順位の確定が見えてしまう恐れもある諸刃の刃です。
オーシェミンにおいては、(ゲームは4ラウンド行うのですが)ラウンドごとにやりたいことを考えられ、ゲーム全体の大まかな方針は決められるようにしつつ、でも先のラウンドでどんなことができるかは多少分かりづらく、現在の得点状況(順位)についてはさらにわかりづらくなるようなものを目指しました。
この絶妙なバランスは、たくさんのテストプレイの甲斐もあり、かなり理想に近づけられたと自負しております。
話を戻しまして、メインのゲームシステムについてです。
先ほどのインタラクションや見通しの良さのバランスを考えながら、ワーカープレイスメントのようなシステムに決まりました。
ワーカープレイスメント「のような」とは、
・選択できるアクションは自分が今いる位置より川下の場所のみ
・他の人の船がいなくなったら、使われた場所のアクションも選択できる
ということで、他の人から受ける制約よりも、自分の過去から受ける制約の方が強いワーカープレイスメントとなっております。
これはインタラクションの調整と、見通しの良さへとつながっています。
ゲームは「ワーカープレイスメントのようなシステムで川を下りながら資材を集めつつ、川を下った後に資材を使う」となってきました。
また、ここまで来たところで「一方通行」の意義が少し薄れていると感じました。
ここまでの調整で川を下りながらでも必要な資材を集めること自体は容易にできるようになっていたためです。
そこで「資材は獲得したら船に積んでいく。常に上に積んでいくために、使うときは最も上に積んである資材しか使えない」という、テーマに合致しているストレスを加えました。
ゲームにおけるストレスはスパイスのようなものです。
無いと物足りなく、多すぎると食べられたものじゃなくなってしまいます。
ゲームデザイナーとしてはこのバランス調整が楽しいんですよね。
上の画像の右半分が資材置き場の一部です。
下から順に「石、木、鉄」の順で積まれていますが、使うときは「鉄、木、石」の順でないといけません。
これによって、「一方通行の川を下りながら資材を積み込み、その積み込んだ逆順で資材を使う」ゲームになりました。
ゲーム全体だけでなく、短いスパンでの計画性も求められるゲームです。
ゲームでは、川を下ったあとは海に出て、川とは少し異なるルールで資材の納品などを行います。
納品は早い者勝ちのため、川を下っている時点で他の人がどんな資材をどんな順番で積み込んでいるのかを見る必要も出てきます。
ここまでの話ではゲーマー向けに調整しているように聞こえたかもしれませんが、初回プレイ時や、ゲームに慣れてない方へのアプローチももちろんあります。
まずは何をしていいかの方針を立てやすくするために、軽い個人目標カードがあります。
これはそこまで固執しなくてもゲームに勝てはするけど、ついでにやったら少しお得程度のものです。
点数的には全体の5~8%ほどのものです。
はじめはこれを目指すことでゲームへの理解も進むはずです。
また、川で計画を立てるのが難しい人は、海に出てからでも資材を調達できます。
これによって、ある程度自由なタイミングで資材の調達ができます。
もちろん制限の強い川で資材の調達をした方が得点的にはお得になっていますが、ゲーム体験的には悪くならないように機能しているはずです。
ちなみに海に出てからの資材調達は、川の時点で計画が立てきるのが少し難しい人への救済措置的なものでもありますが、川で思い通りの順番に資材を積み込めなかった時に上級者でも使いたくなりうるものでもあります。
そうして、テストプレイを繰り返すうちに、考え所もあり「一方通行」の意義もしっかりある、面白いゲームになってきました。
また、元々は2~4人プレイを想定していたため、2人から4人でのテストプレイを繰り返していましたが「このゲームは2人で遊ぶより3人か4人の方が面白いので、2人プレイは無しにしましょう」となりました。
2人プレイも出来るよう試行錯誤もしましたが、無理に2人プレイをしてもらうより、満足度の高いプレイをしてもらいたいという意図からの変更でした。
その後は3~4人向けに更なるバランス調整とテストプレイを繰り返し、そして3~4人用で1時間程度のボードゲームとしてオーシェミンは完成しました。
オーシェミンは僕らしい苦しさのあるゲームになったと思います。
華やかなコンボがあったり、パッとわかりやすく盛り上がる場所があるゲームではないかもしれませんが、遊びながら沸々と面白さを感じられるゲームになっていると思います。
世界観・アートワーク
ゲームシステム以外は完全にSui Worksさんに任せっきりでした。
世界観やゲーム名、街の名前もすべてSui Worksさんに構築していただきましたし、アートワークや説明書の校正、英訳の方などの手配や連絡もSui Worksさんにしていただきました。
毎週やっていたテストプレイのプレイヤーの手配までSui Worksさんにしていただいていました。
そのおかげで僕はゲームシステムの構築だけに没頭できたわけです。
ゲームデザイナーとしてはこれ以上の贅沢はありませんね。
また、パッと見でもわかると思いますが、オーシェミンはアートワークも素晴らしいです。
ポケモンカードのイラストも何点か担当している、みやのせなつみさんに描いて頂いております。
綺麗で繊細な絵で、個人的にはメインボードの街周辺の描写がとても気に入っています。
(僕は直接やり取りをしたわけではないので、Sui Worksさんに共有していただいた絵に「すごいです」「めっちゃいいです」と言うだけでしたが)
Kickstarter
オーシェミンは、2024年の3月29日(金)にKickstarterでローンチ開始いたします。
キックの期間はそれから2週間が想定されております。
気になった方はぜひページに足を運んでくださると嬉しいです!
ゲームを動き付きで簡単に見れたり、説明書の閲覧ももちろん、Tabletop Simulatorをお持ちであればそちらで実際に遊ぶことまでできます。
ゲームシステムこそ私が担当しましたが、オーシェミンは多くの人の力がなければ出来ていません。
クレジットされている、みやのせなつみさん、Susan Santoshさん、うめゆさん、iiko gamesさん、saigoさん、そしてSui Worksさんはもちろん、たくさんのテストプレイヤーやその他の多くの助けによって完成しました。
関わったすべての人たちの力によってなかなかに面白いゲームができたと思います。
そんなオーシェミンをどうぞよろしくお願いいたします!
https://www.kickstarter.com/projects/sui-works/eauchemin?ref=clipboard-prelaunch