SRS(性別適合手術)要件なき後の世界
私は大学という特殊な環境の中でぬくぬく伸び伸びと生かさせてもらっている。インターセックス+MtF(心臓が悪くて手術ができないので戸籍は生まれた時に登録された男性のまま)という身分は、ある程度、GID(性同一性障害)のMtFの方たちに近い。違いは、完全な男性の体→女性的な体に移行する必要がなく、中性的な私はそのままでも女性として通用してしまえる点、本気を出せば、中性の体→女性的な体への移行程度なので(まあ手術を引き受けてくれる勇気のあるお医者さんがいないんですが、手術自体は見た目とはほとんどリンクはない)、見てくれの移行は易しいと言うこと。致命傷は、インターセックスにありがちなことだが、生まれつき体が弱く(更年期障害がすごく早い)、性別はハイブリッドで、生殖能力がないことだろう。
このような前提条件の違いはあるものの、努力を重ねているMtFの方々と私の違いなど、あまりない。むしろ、私のほうが男性的に見えるだろう(私はことさらに女性っぽくするのはあまり好きではない)。そのような者が戸籍以外、ほぼ全ての社会的扱いを女性とされた場合、どんな予想もしなかったことが起きるのか、今回はメモ程度ではあるものの、書いておこうかと思う。
1. なんの変化もないよ
もともと女性として生きてきているのだから、素っ裸になってハイブリッドな体をつぶさに観察してもらうもでもしないかぎり、外見的には何もわからないだろう。がんばっているMtFの人もそうだろう。私は肌が弱いのでそもそも化粧もしないし、アンドロゲン不応症の軽症から中症の間なので、テストステロンの影響をあまり受けてこなかった。
だから、普通にしている限り、何も起きない。
病院も配慮は行き届いているし、大学の配慮も行き届いている。私は高次脳機能障害(ADHDの拡張版のようなもの)への配慮を主におこなってもらっているが、性別への配慮は特にしてもらっていない。学籍は普通に女性になっていて、あとは、私がわざわざ配慮願いをしない(特にしたことはない)限りは、全くの普通の女性の扱いであり、女子寮階に住み、チューター業務も普通におこなっている。外国語大学だからか、寮に大浴場があるわけでもないのでプライバシーは欧米並みに守られている。もっとも、私は、水泳の更衣室程度ならいちいち見た目で疑われることもない。男子更衣室に入ったら、胸があるからむしろ危機に陥ってしまうだろう。
外国語大学というのはいいところだ。世界中からの留学生が集まっているし、日本人学生も多様性を前提に行動をしている。だから、「気にしない」。もちろん、全く同じというわけにはいかない。留学生が日本人とマブダチになるのが困難であると同様、LGBTだってそれなりの乗り越えなければならない壁があるのだが、壁がやたらと低い。基本的には「へぇ、そうなんだ。私の友だちの友だちにもいるよ!」程度で終わってしまう。怖がるなんて杞憂だ。
2. じゃあ、最大の敵って誰?
大学以外でも保険証も性別は空欄だし、携帯電話も預金口座も今は性別は紐付けられていない。コンビニは好きな性別でポイントカードを作ればいいだけのこと。もはや性別ボタンなど、あってなきが如き時代になっている。まともなバイト先なら、社会的性別を最優先してくれるだろう(昇進と時給も社会的性別に合わせられちゃうかもしれないけどね)。
じゃあ、(男尊女卑的なことを除けば)なんにも問題はないじゃん!ということになる。確かに黙っていれば誰にも分からないまま、社会生活は過ごせる。それは楽しいし、楽ちんだ。
しかし、最大の敵は自分自身だ。
自分は自分のことを非常にねっとりとしつこいほど粘着質に知っていて、たくさんのコンプレックスを抱いていたり、日々、起きてもいない「大惨事」を恐れていたりする人もいる。誰も知らなくても自分自身はすべてを知っているからであり、それは自分で克服しない限り逃れられないある種の永遠の禅問答だ(周りの人はたいてい本人がそんなことに苦しんでいるなんて気にもしていないものだが)。
要はそこの精神的戦いがメインなだけ。そして、それが最大の壁になって心を病んでしまう人もいる。
私は当たり前のように女子寮のチューターをしているが、ある程度の時間、部屋を開ける場合は、ホワイトボードに戻る時間などを書いておく。
昨日書いたのは、
今日は夜までデートで居ません。
という一言。
こんなやりとりを周りをジェラシックパークに陥らせないで飄々と書けるようになるには相当のコミュニケーションスキルが必要だろうが、性別を超越したところで、ユーモアのある生活を楽しむことことそが大切なのではないかと思う。
人が見るのは、外見ではなく、その人の心根や心意気なんじゃないかな。