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さくっと読みショートショート

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1分くらいで読める、1000文字以内のショートショートをまとめています。気分転換のお供にどうぞ!
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#超ショートショート

夜道【ショートショート668字】

最近は繁忙期で残業が多い。今日も朝からずっとバタバタしていて、私はもうすっかりボロボロになっていた。家の最寄り駅に着いたのは夜中近くになってからだった。 帰り道は住宅街が続き、点々と外灯の灯りがあるのみで薄暗い。少々心細く思いながら足取りを速めると、背後で遠くから声がする。 「ハァハァハァ」 もしかして、この声は。 「ハァハァハァ」 その声は更に近づいてくる。そうだ、思い切って走り出そうか。いや、逆効果か。 「ハァハァハァ」 もう、すぐ後ろまで来ている。ああ、も

人間ババ抜き【ショートショート886字】

青年の趣味は「人間ババ抜き」だ。そう言うと怪訝に思う人もいるかもしれないが、何のことはない、人間観察の延長のようなものだ。 青年には行きつけの喫茶店がある。この喫茶店がちょっと洒落ていて、一階席を見渡せる半二階のラウンジ席のようなものがある。ここが青年の定位置だ。 青年は今日も仕事終わりにこの喫茶店に立ち寄った。今日も仕事で上司にこっぴどく絞られた。一人暮らしの家に帰る前に、ここで気分転換をしようと思ったのである。 ホットコーヒーを頼み、一息つくと、青年は「人間ババ抜き

試験【ショートショート569字】

「この経歴でよくうちの会社受けれましたよねぇ〜。」 と俺は椅子にふんぞり返りながら、できるだけ小馬鹿にして聞こえるように言う。目の前にいるスーツ姿の彼女は動かない。 小さな部屋には彼女を含めて4人。試験官と受験者の間はもう少しで手が届きそうな距離で、圧を感じさせる配置だ。 「一応うちは一流商社なんだけどねぇ。うちも落ちたもんだな。」 と俺は彼女にギリギリ聞こえるような声量でつぶやく。もちろんこれも計算のうちだ。 「まぁいいや、じゃあ志望動機?ちゃちゃっと簡単にお願いしま

先生【ショートショート479字】

「先生、資料持ってきました〜。」 「おお、ありがとう!今ちょっと手が離せないからそのへんの机に置いといてもらえるか?」 俺は2年B組の生徒名簿を睨みながら考え込んでいた。遠足の季節だ。 城田と近藤の奴らは仲がいいから同じグループにしてやろう。あと、城田は学級委員の安達のことが好きみたいだから安達も同じグループにしてやるか…。 いや待てよ、確か近藤が好きなのは女子バレー部キャプテンの山本で、山本は城田が好きなのか。ややこしいな、こいつら。 だとすると、むしろ城田、近藤、山

はかり【ショートショート487字】

我が家に新しい「はかり」がやってきた。はかりと言えば、キッチンはかりなら5kg、体重計なら200kg、工業用なら1tなど、それぞれはかれる重さに上限があるものだが、このはかりにはなんと上限がないらしいのだ。 体重計のような見た目をしたそのはかりに、家族4人総出でいろんなものを乗せてみた。 まずは私自身が乗ってみる。はかりは「85kg」と表示する。 「お父さんちょっと太ったんじゃないの〜?」 と妻に茶化される。 次に妻がタンスを乗せてみようと提案する。妻と二人がかりでなん

王様の歌【ショートショート165字】

ある国の王様は歌を歌うのが趣味だった。その歌を国民に聞かせたくなり、録音してCDを作り配布した。 国民が大喜びしているという知らせが家来から届いた。王様はいい気分になり、2作目のCDも制作した。しかし、2作目は国民から全く喜ばれなかった。 理由を聞いた王様に、家来は遠慮がちに言った。 「カラスが畑にやってくる季節は終わりましたので…」

不一致【ショートショート204字】

彼女と僕は気が合わない。 彼女は魚が好きで、僕は肉が好きだ。 彼女は家にいるのが好きで、僕は外に出るのが好きだ。 彼女は長風呂が好きで、僕はシャワーで十分だ。 彼女は犬が好きで、僕は…まぁ、言うまでもないだろう。 そして最後のが決定的だったな。 僕が一番大切なのは愛する人だが、彼女が一番大切なのは愛するペットだそうだ。 かくして、僕達は一緒に幸せに暮らしている。 「ポチ〜」と僕の名前を呼ぶ彼女の声はいつも愛に溢れている。

結婚式【ショートショート819字】

「それでは、新郎新婦の入場です!」 披露宴会場に司会者の声が響く。出席者たちは一斉に入り口に視線を向け、熱心に拍手する。一見幸せに満ち溢れた風景だが、そこには様々な思いが渦巻いていることを私は知っている。かく言う私も、緊張のあまり鮮やかな花柄の衣装をぎゅっと掴む。 先程ロビーで女性陣のこんな会話を耳にした。 「佐藤くんの奥さん、ぶっちゃけ微妙じゃない?」 「あ、それちょっと思った。」 「佐藤くん、うちら同期の中で一番イケメンなのにねー。もったいなーい。」 「うちらはちょ