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テクノロジーによって野球界はどう変わるか?

このnoteは、東大野球部に学生スタッフ兼アナリストとして所属する私、齋藤周(Twitter→@Amapenpen)が、日々の練習内容や気づいたことをメモしておくためのものです。

テクノロジーによって野球界はどう変わるか?

先日、野球のデータを扱った事業をされている企業の方とお話をさせていただく機会がありました。そこでは、野球界におけるデータの活用やテクノロジーの導入がどのくらい進んでいるのかなど、興味深いお話をたくさん聞かせていただきました。

そこで今回は、データによって野球界がどう変わっていきそうか?というのを、現場の目線から書いてみようと思っています。

「常識」のアップデート

まず考えられるのが、定石やセオリーのアップデートです。

ここ数年で、トラックマンやラプソードなどをはじめとする計測機器の浸透により、野球界においてたくさんのデータが蓄積されてきました。こうしたデータを元にこれまで「常識」とされてきたものに対して客観的な検証が入っていく、ということです。

これまで日本野球では「送りバント」が手堅い作戦の代名詞として使われ、先頭打者が出たら次の打者は送りバント、というのがひとつのセオリーのようになっていました。

しかし2000年代ごろから、セイバーメトリクスのようなデータを野球に活用する試みが本格化し、送りバントが必ずしも有効な戦術ではないということが明らかになってきました。

これにより、最近では日本球界でも送りバントが減少しつつあり、代わりに2番に強打者をおくチームも増えてきました。データの知見が浸透するにつれて、日本野球界は着実に変化を遂げているのです。

このようにして、疑うことなく信じられてきたセオリーや先入観に対してデータの観点から客観的な検証が入り、定石やセオリーのアップデートが起こるだろう、というわけです。

データとテクノロジーの民主化

次に考えられるのが、データとテクノロジーの民主化です。

具体的にいうと、投手のボールの回転分析や打者のスイング軌道解析などのデータと、それを計測するテクノロジーが世間的に浸透していく、ということです。

例えば日本において、投手の球速を測るスピードガンが最初に導入されたのは、1976年のことでした。そこから4年後の1980年にはプロ野球の電光掲示板に表示されるようになり、2004年には高校野球でも球速表示が始まりました。

こうなると、みんなが球速という指標を知り、測ってみたくなるので、スピードガンが民主化されて一般に浸透します。現在では、高校野球だけでなく中学生や小学生でも、普通に球速を測ったりできるようになっていますね。

これを今の状況に当てはめて考えると、ラプソードやトラックマン、スイングトレーサーなどの機器は高額ですし、こうした機器を扱うために必要な知見の蓄積もまだまだ進んでいません。プロ野球球団とごく一部のアマチュアチームでのみ、導入されているような状況です。

しかし、最近ではテレビ中継でピッチャーのボールの回転量が表示されるようになったり、都市対抗の中継で打球速度が表示されたりと、データが少しずつ一般的なものになりはじめました。

このようにしてデータが少しずつ世間に浸透し、また技術革新によって機器の価格が下がっていくことで、投球の回転や打球の速度などを計測するテクノロジーが一般化していくだろう、というわけです。

バイオメカニクスが重要になる

もう一つ考えられるのが、データと動作を繋げられる通訳のような人材が必要になる、ということです。これは個人的に1番重要なポイントだと思っています。

データが浸透して課題が明確になっても、それを実現するためのプランがわからなければほとんど意味を成しません。具体的に言えば、「速い球を投げると打たれにくい」とわかっても、速い球を投げる方法がわからなければうまくなれないのです。

最近では、ピッチャーなら投球の回転量や回転軸、バッターなら打球速度や打球角度といった指標の重要性がわかってきました。

しかし、現状では一部の人しかこうしたデータにアクセスできていないので、フォームをこうするとこの指標がよくなる、みたいにデータと動作を繋げられる人材がほとんどいないのです。

このようないわば「データと動作の通訳」のような人材になるには、データ分析ができるだけでも、野球がうまいだけでもいけません。野球の動作に関する知見とデータ分析のスキル、この両方があってはじめて実現できるのです。

現在では國學院大学で准教授をされている神事努先生を筆頭に、データと動作を繋げる「バイオメカニクス」という分野の研究が進んでいます。データとテクノロジーの浸透により、こうしたバイオメカニクスの知見をもつ人材は重要度を増していくでしょう。

東大野球部としても、データとメカニクスをうまく融合させられるような人材を育てていきたいな、と考えており、その一環としてアナリスト部門の立ち上げを行いました。一緒に戦ってくれる人、募集中です!



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