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野球選手なら知っておくべき水分補給の科学

このnoteは、東大野球部に学生スタッフ兼アナリストとして所属する私、齋藤周(Twitter→@Amapenpen)が、日々の練習内容や気づいたことをメモしておくためのものです。

熱中症や暑さ対策の重要性

先日、Twitterで熱中症を専門に研究されているととろ(@chibatone)さんから、「野球における暑さ対策や熱中症予防について」というテーマでお話を伺いました。

小さい頃から野球をしてきた中で暑さへの対処法はずっと課題でしたし、大学でも「暑さの中でいかに練習効率を上げていけるか」がめちゃくちゃ重要だなと感じたことがきっかけで、熱中症や暑さ対策という分野に興味を持ちました。

熱中症や暑さ対策の中でも基本となるのが水分補給。

というわけで今回は水分補給にフォーカスし、Twitterで話を伺ったり論文を読んだりする中で得た知見を、ここにまとめておこうと思います!

現在多くのガイドラインなどで推奨されているのが、「発汗等による体重減少が2%を超えないように水分を摂取する」ということです。

さらに発汗等による体重減少が3%を超えると最大パワーが低下することが知られており、瞬間的なパワー発揮が必要とされる野球においては、パフォーマンスが低下してしまうと考えられます。

実際に体重の減少量を計測することは難しいと思いますが、そんなときにチェックすべきなのは尿の色。尿が濃い黄色になっていたら要注意とのことです。

水分摂取量の目安は環境条件や体調などによっても変わってきますが、運動前の1時間で500ml程度、運動中は1時間当たり500~1000ml、運動後は発汗量の1.5倍程度を摂取するのが望ましい、とのことです。

さらに一度に胃から腸管に移動できる水分量は200ml程度しかないので、1回あたりの摂取量は200~300ml(コップ1杯程度)にとどめ、摂取回数を増やすとよいそうです。

量のまとめ
1. 水分の減少が体重の2%を超えないように
2. 尿の色が濃い黄色だったら要注意
3. 運動前に500ml、運動中は1時間に500~1000ml、運動後は発汗量の1.5倍
4. 1回の摂取量はコップ1杯程度で摂取回数を増やす

成分

次に気になるのが、「何を飲むべきなのか」ということです。

多くの発汗により水分と電解質を損失したときに水やお茶などを摂取しても、体液が薄まってしまいます。

特にナトリウムが不足すると熱痙攣や熱疲労からの回復が遅れるため、時間が経過するほどパフォーマンスが低下します。熱中症対策に効果的といわれる食塩の正式名称は「塩化ナトリウム」ですから、塩はナトリウムを摂取するために有効なのですね。

現在の主なガイドラインでは、塩分0.1~0.2%を含んだ飲料の摂取が推奨されており、1時間以上運動を継続する場合には4~8%程度の糖質が含まれた飲料が有効だとされています。

糖質(ブドウ糖+果糖)を含んだスポーツ飲料は疲労の予防だけでなく、腸管内での吸収スピードや保水率も高めることが期待できるからです。

そして塩分と糖質を両方摂取するには、やはりスポーツ飲料が最適だとされています。

糖質の量を気にしてスポーツ飲料を薄めるチームなどもありますが、スポーツドリンクを薄める場合は塩分を追加するとよいそうです。

また運動後には、筋損傷を回復させるためにアミノ酸などのタンパク質を含んだ飲料の摂取も有効です。

成分のまとめ
1. 水分だけでなく塩分や糖質の摂取も必要
2. スポーツドリンクを飲むのがベスト
3. 基準よりスポーツドリンクを薄める場合は食塩を追加
4. 運動後にはアミノ酸などのタンパク質を含んだ飲料を摂取

タイミング

さて、次に着目するのが「水分摂取のタイミング」です。

よく言われることではありますが、喉が乾いたと感じたときにはすでに脱水が始まっています。なので、喉が乾く前に計画的な水分補給をしておくことが必要になります。

具体的には、運動の2時間前くらいから水分を摂取しておくとよいそうです。

運動中に意識するのは、こまめに水分補給を行うこと。1度に吸収できる水分量はコップ1杯ほどなので、1回あたりの量を減らして回数を増やすのがよいでしょう。

野球においては、例えばノックの際に守備位置にボトルを持っていく、などの工夫ができそうですね。

運動後にも失った水分や電解質の回復のため、発汗量に合わせて水分補給をすることが必要だそうです。

タイミングのまとめ
1. 運動の2時間前から摂取を開始
2. 運動中は1回の摂取量を減らし、摂取回数を増やす
3. 運動後は発汗量に合わせて摂取

その他

猛暑の日にはキンキンに冷えたドリンクを飲みたくなるわけですが、温度に関してはどうなのでしょうか。

研究によれば、5~15℃くらいに冷やした水分の摂取がよいとされています。5℃となると相当冷たいですから、かなりキンキンに冷やしてもよいわけですね。

ただし、冷たい飲み物でお腹を壊しがちな体質の人もいるので、そこは個人個人でうまく調整していくとよいでしょう。

また、実際に熱中症を発症してしまった場合には経口補水液の摂取が有効です。塩分の量が多く糖質が少ないため、脱水症状に対してスポーツドリンクよりも効果的なんだそうです。

少し高価ではありますが、緊急用に準備しておいた方がよさそうです。

その他のまとめ
1. 5~15℃くらいに冷やした水分を摂取
2. 脱水症状を発症した場合は経口補水液が有効

まとめ

というわけで、今回は水分補給に焦点を当て、さまざまな科学的知見をご紹介しました。

野球は他のスポーツと比べても熱中症の数が多いことで知られています。

服装が重装備であるため他のスポーツ以上にきちんと対策をとる必要がありますし、熱中症にならなくともパフォーマンスの維持・向上、練習効率アップなどのために暑さ対策は非常に重要です。

科学的知見を取り入れつつ、暑さ対策の面でも野球界がアップデートしていくとよいなと思っています!

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/56/4/56_4_437/_pdf
https://www.nsca-japan.or.jp/journal/25_6_02-10.pdf
https://www3.sonoda-u.ac.jp/tosyo/ronbunsyu/%E5%9C%92%E7%94%B0%E5%AD%A6%E5%9C%92%E5%A5%B3%E5%AD%90%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E8%AB%96%E6%96%87%E9%9B%8645/065-074.PDF
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/18/12/18_KJ00002915590/_pdf


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