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<アリス来日ツアー その2 他郷阿部家>

本文/写真/小野寺愛、編集/海士の風
本人の許可を得て、個人の投稿を転載しています。

海士町の次に訪れたのは、同じ島根県にある石見銀山です。

この町は、2007年、「石見銀山遺跡とその文化的景観」として、鉱山遺跡としてはアジアでは初めて世界遺産に登録されたそう。江戸時代にタイムスリップしたかのような町並みを歩き、たどり着いたのは「暮らす宿他郷阿部家」でした。

1789年に建てられたという家屋は、オーナーの松場登美さんが購入した当時は見る影もなく朽ち果てていました。それを21年間かけて少しずつ、地元の職人たちの手で改修したお宿は「日本のスローフードを追求すると、ここまで美しくなるのか…!」とため息が出るような空間です。

お風呂までのアプローチ

驚いたのは、修繕をするのに、新しいものは何ひとつ購入しなかったという姿勢です。

「お風呂のタイル、1枚1枚色が違うでしょう。 “色ムラがあるから売り物にならなくて” というものをいただいてきたんです。窓のガラスも、廃屋で割れていたものを職人さんに四角く切り出してもらって、小さいものをはめ込みました」

台所と隣り合わせのダイニング

夕食と朝食をいただいた大きなテーブルは、廃校になった小学校の階段の腰板だったもの。テーブルの脚は廃線になったトロッコのレールだし、床板も小学校の廊下の床材!

登美さんはこうして手作りで少しずつ積み上げた空間のことを「ボロの美」「根のある暮らし」と呼ばれていました。アリスはそのすべてに「私も同じ!私たちは姉妹ね」と、深く共感していました。

「登美さんがこのお宿で大事にしていることは、シェパニースで私が大事にしてきたことと同じです。

美しさはまず、何より大事。だって、美しさが人の五感を開くんですから。創業の頃、私もお金がなかったけれど、美しさを整えるのにお金はそれほど必要ないと知っていました。大事なのは、お客さまに居心地よく、安心して五感を開いていただくことであって、お金をかけることではないんです。

美しさは、テーブルにキャンドルを一つ灯すことからだってはじめられます。道端の野の花が、小さな花瓶に生けてあるのもいい。(目の前のイチジクを差しながら)近所にある木からもぎたてで完熟の果物も、圧倒的に美しい。

”いつでも手に入れたい” と、遠くからなんでも取り寄せることができるのが豊かさだなんて幻想です。本当は、その時、その場所でしか手に入らない旬の完熟ほど、おいしくて、美しいものはないのですから」

夕食の途中で、食卓のすぐ横にある ”おくどさん” に火が入りました。竈でご飯を炊き始めると、アリスの顔も華やぎます。

「キッチンを隠すことなく、お客さまにすべてご覧いただきたい気持ち、とてもよく分かります。

シェパニースでも、料理を作る風景も、音も、薪の香りや火の存在感も、全部ふくめてご馳走だと考えています。レストランだけでなく、私の自宅でも、キッチンの主役は大きなオーブンで、いつだって炭を焼くところから準備をするんですよ」

翌日は、松場登美さんが衣料品・雑貨を取り扱って34年になるお店、「郡言堂」を訪問しました。

「今、国内市場で売られている衣料品の98%が海外製なんです。でも、ここにあるものは全部、日本で作っています。日本にだってこんなにいいものがあるのに ”安いから” というだけで海外製のものを選び、使い捨てるように買い替えつづける習慣を変えたい、と思って」

アリスは、そんな登美さんの言葉に深く頷きました。

「実は、お買い物をするのは2年ぶりなんですよ。バークレーにいたら、友達の小さな店でしか買わなかったけれど、パンデミックの間に小さな店は次々に閉店してしまったから...」

器をいくつか、それにスカーフも。
それはそれは嬉しそうに、友人たちへのお土産を購入していました。

さて、映画化のためのクラウドファンディングの返礼品に、藍色のエプロンがあります。
実はこちら、郡言堂のオリジナルデザインです。
和綿、藍染めのエプロンにアリスの手書き文字で「We Are What We Eat」と刺繍されたエプロン。

クラウドファンディング返礼品 群言堂オリジナルエプロン

本社でそのエプロンを贈られたアリスは、目に涙を浮かべて喜んでいました。
「ものづくりとは、ここまで心を込めることができるのかと、思いやりを形にして見せていただいたような気持ちです。

皆さんの仕事には希望があります。気持ちのいい社屋で働き、築230年の美しい家で食卓を囲む休憩があり、職人技と文化をつなぐためにとても大切なお仕事をしている。

世界中の皆の仕事が、こんなふうに働きがいのあるものであったらいいのにと思います。でも、アメリカではそれは、簡単ではありません。

車で2時間かけて出勤して、窓もない工場で働き、お昼には一人でファストフードを食べ、また働いてから2時間かけて家に戻るという生活の人もいます。

金継の器に盛られたサラダ

仕事は分業化され、自分の仕事が何につながっているかもわからない。そんな毎日を送っていたら、残るのは疲れや怒り、ストレスです。何のために生きるのか、見えなくなってしまう。

すべての人たちに、美しさや温かさ、つながりが見える仕事が必要です。日々、世界についての理解が深まり、自らの成長を実感することができたら、仕事はもはや、仕事ではなくなります。私は、自分がやってきたことを "仕事" だと思ったことはないんです。

他郷阿部家の中庭

料理でも、ものづくりでもいい。農業なら、最高です。土地を守り、皆のために食べものを育てるなんて、とても意味のあること。好きなことをして生きている、そして、誰かの役に立っている。その実感は、私たちの暮らしに人間らしい価値観を取り戻させてくれます。

皆さんのお仕事、日本のものづくりは、なんとシンプルで、美しいのでしょう!ありがとう。本当にありがとう」

アリスとお揃いのこのエプロン、Campfireのサイトから購入していただくことができます。購入費用は、群言堂、そして今回の来日ツアーの映画化の応援になります。

石見銀山では、アリスが「人生で最良の朝ごはん」という朝食を食べたり、美しい古民家で園児が自ら火おこしして、給食を作る園を訪問したりと、まだまだ書きたいことはあるのですが…

続きはぜひ、映画とムックでご覧ください!

次は、いよいよ京都に向かいます。


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