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<アリス来日ツアー その3 京都大原>

本文/写真/小野寺愛、編集/海士の風
本人の許可を得て、個人の投稿を転載しています。

アリスの来日企画を考えるにあたり、「日本の美しさを見てほしい」「子どもと食をつなぐ実践者に会ってほしい」という気持ちの他に、もうひとつ、「日本のビジネスリーダーの背中を押してほしい」という願いがありました。

便利さやスピード、大量生産やコスパを重視しすぎたあまり、作り手も消費者も疲弊している… そんな現代社会のバランスを少しだけ、スローな方向にシフトすることはできないか。そう考えているビジネスリーダーたちが、五感で気づきを得るような場を作ろうと、スローイノベーション Takahiko Nomura さんと、海士の風の Hiroshi Abeさん、そして Atsushi Nakahigashi さんが動きました。

全国から集まったのは、大きな企業の経営者から、京都で16代続く老舗店の若旦那、それに「なんでもやります!」と乗り込んできてくれた高校1年生のインターンまで、多様なメンバーでした。

朝は、「草喰なかひがし」の大将・中東久雄さんが雨の日も雪の日も毎朝収穫に通う、京都の大原に向かいました。日本を代表するシェフ、レフェルべソンスの生江史伸さんもナビゲートしてくださいます。

大原の畑で、トークにも熱がこもります

大原の30年間を語るだけで本が1冊書けそうですが、シンプルにどんな場所かをお伝えすると…

・30年前から、大原では農家が毎週「日曜朝市」を開催していた。中東さんが料理人だとわかると、農家さんから「持って帰って食べてくれ」と大量に野菜を手渡された。
・中東さんはそれを京都の料理人に配るようになった。すると「こんなうまい野菜があるのか」と料理人たちが皆、大原に通うようになり、いつからか、日曜朝市がはじまる前から料理人たちで集まってコーヒーを飲み、情報交換をするようになっていった。
・中東さんたちは、端境期にはネギボウズまで買っていく。サツマイモの茎や葉、栗の殻までも美味しくいただく工夫をする。すると、農家さんは「こんなものまで売れるのか」と、ますます丁寧に野菜を育て、それまでは廃棄していた部分も朝市に並ぶようになった。朝市はどんどん多様性に溢れ、盛り上がっていった。
・そんな大原のもう一つの核となったのは「つくだ農園」の渡辺さん。17年前に大原に来て以来、1000年の歴史がある石垣の棚田を守りながら、若手の新規就農を支援している。

結果として、大原では耕作放棄地がゼロ。新規就農を目指す若手も多いが、使える土地がないという嬉しい悲鳴!

...そんな場所です。
ここに、昼に調理する食材を収穫しに立ち寄りました。

京都市内から約40分 参加者の皆さんと大型バスでやってきました

「まだ若くて何も知らなかった私が大原に通い始めた頃にね、農家さんに言われたんですわ。”あんたら料理人は、生産地に来たらうまいもんがあると思っとる。わしらは野菜を作ってるんじゃない、土を作ってるんだ” と。
  “ええもんだけ持って帰っても、いい料理はできない。未熟なもの、できすぎたもの。そのときそこにあるものをどう使うかを考えるのが料理人ちゃうか” と。

目が覚めましたね。

今では、ネギ坊主も、白菜の菜花も、カブラの花も、みな買うて帰るんですわ。それを美味しくいただく工夫を、他の料理人とも情報交換しますから、皆そうするようになってね。今ではそんなんを(大原の朝市だけでなく)錦でも売るようになりましたわ」

大原の野菜はおいしいと料理人の間で話題に

そう中東さんが言うと、生江さんも言いました。

「この中で、自分で食べるものを全部作っている人はいますか?
...いらっしゃらないですよね。
私たちは皆、誰かに頼らないと生きていけません。でも、食べ物はスーパーに行けば並んでいる。便利さの恩恵を受けている反面、自分自身と生産者の関係が閉ざされてしまったのが、現代社会です。

そんな中、その関係性を再接続しようと動いたのが、中東さんであり、アリスさんなのだと思っています。そこにこそレストランの存在意義があると思い、僕も先輩たちの背中を見ながら、できることをやっています。

僕は、生産者さんを訪ねるほか、最近では海に潜って漁師さんの仕事を見せてもらったりもしています。人の元気を再生する場所は、自然の周りにあると感じています。

農家さんは毎日このフィールドに立ち、環境がどうなっているかを感じ、身体で経験を積んでいる。僕らはもっと、生産者さんに近づかなくてはいけない。

アリスさんがこの旅でキーワードにしている言葉に “リジェネラティブ(再生)” があります。

私たちがいい食事で元気になるのは、その食事を構成しているすべての命が元気で、それを生み出す風景が美しいから。こういうことに皆で取り組まないといけない。”サステナブル(持続可能)”ではもう、足りないのだと思います 」

中東さんは、その話を聞きながら、道端のノビルを摘んでいました。
「野菜ってね、もともと野草だったんですよ。縄文の頃は、こうしてみんな採取していただけ。ノビルも、アサツキも、たんぽぽも、カタバミも、皆おいしいですよ。ノビルは、たまねぎのもと。アサツキは、ネギのもと。作付けするようになったのは弥生からのことです。

ここ大原の冬は、冷えます。でも、雪や雑草が守っていれば、土の中はマイナスにならないでしょう。植物たちはこうして支えあって、厳しい冬を越えることができるんです。

人間にはこの ”草が守ってくれている” という理解が必要なんですね。人は、邪魔だと思うものは雑草と呼び、必要なものにだけ名前をつけたがる。でも、自然界ではみんなが役割を持っているんです。
縄文人は知っていたことを、皆忘れています。人間は動物であり、生き物であると。いろんなこと偉そうに言うてますけど、人間の役目って、何でしょうか?

火を使い、料理を皆で分け合うのは、人間だけなんです。人間にしか扱えない火を、我々はどう使うのか? 

京都・草喰なかひがしで提供された野草料理

 … "再生" ですよ。私たちは、すべての命のために、火を使わなくてはいけない。焼畑が青々とした草を生み、それを牛が食む。そんな循環を作ることが、大事なんです。

今、CO2とかなんとか言うてますけど、焚き火するだけで隣の誰かに怒られる、苦しい世の中ですなあ。人は、うまく力を発揮して、自然の循環をまもらないといけない。そのために火を使うことを許されている。

それを忘れて、火を使って戦争なんてはじめたら、いけませんなあ」

大原の青空と美しい畑の風景、素晴らしく美味しい空気。
そこで聞いたお二人の対話が良すぎて、、、
朝の時間だけで1つの投稿になってしまいました。

昼、収穫物でランチを作った時の様子はまた、次の投稿に続きます。


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