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<アリス来日ツアーその5 立命館大学>

トップ写真/本文一部写真/©野川かさね
本文/写真/小野寺愛、編集/海士の風
本人の許可を得て、個人の投稿を転載しています。

ツアー5日目は、立命館大学食マネジメント学部へ。

別名「スローフード大学」とも言われるこちらの学部は、経済学、経営学を基盤として「食」のあらゆる側面を総合的に学ぶことを目的に、2018年に開設されました。日本の大学で初めてガストロノミーを学問として学べる場所であり、数年後には海外からの学生も受け入れ、バイリンガル学部にすることを視野に入れているそうです。

この学部で教鞭をとる Masayoshi Ishida 先生は、長年イタリアに暮らし、スローフードインターナショナルの事務局でも働いていたことのある方です。アリスがスローフードインターナショナルの副代表だった時代は、何度も同じテーブルで対話を重ねた間柄でした。

食マネジメント学部の石田先生と久々の再開

「”ファーマーズファースト=生産者がいちばん大事” と言って、世界中から農家を集めて、農家同士が知恵や困りごとを共有し、連帯する場所を作ろうと決めた年がありましたね。

代表のカルロから ”日本からも各都道府県から農家を呼べ!” と無茶苦茶な指令を受けて、奔走したこともありました」

思い出話に花が咲きます。

「ファーマーズ・ファースト」は、今回の旅でも何度となく、アリスからも聞いた言葉です。農家さんを祝福せよ、自分の食べ物を作ってくれる大地の世話人に感謝せよ、と。

石田先生やアリスと話していると、本当のサステナビリティとは何か、本当の意味での食糧の安全保障とはどんなことか、考えさせられます。

さて、そんな立命館大学の訪問は、学生たちによる大歓迎ではじまりました。

食マネ学部は、真のナポリピッツァ協会(Associazione Verace Pizza Napoletana)と連携協定を締結していて、キャンパス内に立派なピザ窯があります。

撮影©野川かさね ピザ窯の前で学生と

講演前、石田先生と森の中に設置されたテーブルでお話していると、ガーデンから収穫したパプリカを乗せたピザを、地元の料理人が焼き上げ、学生たちが運んできてくれます。

「これこそスローフード、というテーブルですね。森の香りがして、風が気持ちよくて、シンプルで、美しくて、テーブルには旬の果物。大事な対話は、いつだってこんなテーブルで始まるもの。午後の講演会も、(室内ではなく)森で開催したらいいのに!」

と、アリスもとても嬉しそう。

「こんな場所にいれば、自然と五感が開きます。人のありようを変えるには、それが一番。しっかりと見て、触れて、聞いて、香って、味わって…
五感を使うことが、脳への一番の栄養なのです。

撮影©野川かさね

私は、1968年、ロンドンでモンテッソーリ教師の資格をとりました。100年前、イタリアで初の女性医師であったマリア・モンテッソーリは、貧困や飢えの中にいる子どもたちが、なぜ、他の子どもたちのように学ぶことができないのかと考えるようになりました。

インドやローマに住み、子どもたちの観察を続けて発見したのが、”五感が脳に直結している” こと、そして、”人は(言葉で教わるよりも)やってみることで学んでいる” ということでした。

貧困地域の子どもたちは、五感を奪われている状態でした。安心感の中で十分に匂いを感じ、味わい、聞いて、見るという経験に乏しかったのです。

We Are What We Eat - 私たちは食べたものでできている。なのに、早くて、安くて、簡単な栄養補給の機会しか与えられていない子どもたちは、五感が閉じ込められている状態で、世界を知ることができません。

そこで彼女は、子どもたちが自ら手を動かしながら、感覚的に学ぶことができる場づくりを教育法として体系化しました。

レモンの木の記念植樹

私のレストラン、シェパニースも、エディブルスクールヤードも、モンテッソーリの思想に大きく影響を受けて、いかに人の五感を開く場所であるかを大切にしています

今の子どもたちは、経済的に困窮していなくても、スマホとパソコンで忙しくて、五感が開く機会を奪われています。

多いほどいい、時は金なり、いつでも同じが安心、今すぐ車の中で食べたい… ファストフードを身体に取り込みながら、そんな風に、価値観も塗り替えられてしまっている。この森にあるような、草の香りや風の音、美しさを十分に感じることができていないんです。

だからほら、本当は学生たちも外に連れ出して授業をしたらいいのに!いつだって、空の下がいちばんなんですよ」

...と、冗談?いや、本気の提案をしながら、大教室に移動しました。

撮影©野川かさね

講演会には400人以上が集まり、オンラインの参加も400人以上、あわせて800人以上の方と語り合う機会となりました。

アリスはまず冒頭で(前の投稿「ビジネスリーダーへのメッセージ」にも書いた)SSA=学校支援型農業の提案を紹介しました。

「学校が生産者を買い支え、すべての子どもたちにローカルでリジェネラティブな学校給食を与えること。それは、気候変動を止め、私たちの健康と地球の健康を回復するために欠かせない “Delicious solution = おいしい解決策” なのですよ」と。

その上で、

「石田先生。ピザ窯もとっても素敵だったけれど、学校として、その前にやることがあります。

キャンパス内を歩いていたら、空き地がたくさんありました。すべての空き地に果樹を植え、畑を作るところから始めましょう。食堂の食べ残しをコンポストして、堆肥を作り、空き地で食べ物を育てたら、新鮮な食材が手に入るだけでなく、炭素も固定できるんですから。

私の友人、ゲリラガーデナーのロン・フィンリーはいつも言うんですよ。”食べ物を植えることは、札束を刷るようなものだ” って。

季節ごとの果樹や野菜でいっぱいのキャンパスは、どんなに美しいでしょう!きっと日本のモデルになることができます」

「(温室効果ガスの排出量を劇的に減らさなくてはならない)2030年まで、私たちに残された時間は、あとわずかです。大学や自治体、モデルとして注目を集められる場所ではじめていくしかありません。

デンマークのコペンハーゲンでは、ローカルでオーガニックな給食を義務化して、ほぼ達成できています。フランスのパリでも、市長の英断で学校給食が変わりました。今、市内のすべての学校に、200km圏内にあるリジェネラティブ(環境再生型)な農園から食材調達をする義務があります。

日本の学校にも、フランスのように、皆で食卓を囲む美しい文化が残っています。ここで始めることならきっと、世界のモデルにだってなれるんです。食マネジメント学部なら、なおさらですよね?」

「小さな町バークレーで私たちがやったのは、決して、たくさんのことじゃない。たった2つのモデル - シェパニースとエディブルスクールヤード - を大切に育むことでした。

エディブルスクールヤードのネットワークは、28年間で6200校に広がったけれど、それを自分一人でやろうと思ったことはありません。目の前の小さなモデルを皆で確実に育むこと、それが大切なんです。

この学校でなら、日本の皆さんなら、きっとできます」

そんな風に結ばれて、石田先生も、参加者も、通訳のわたしも、楽しい宿題を受け取ったような気持ちなりました。

他にもたくさんの素敵な物語がありましたが… 
続きはぜひ、映画でご覧ください♪


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