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【長編】なんでも屋もなんでもはしない【第3話】

僕は草むらをかき分けて、草の影に隠れていたものを遠坂に見せた。
「これって、、、」
「そっ、ネコ缶」
つまりネコの餌だ。
「でもなんでネコ缶がこんなところに?」
遠坂の疑問はごもっともだ。しかもこのネコ缶は新しいものであり、ずっと放置されているというわけでもない。
「実は今日、学校が終わってから今までずっとこの公園にいたんだけど」
「えっ、てことは3時間くらいいるってこと?暇なの?」
我ながら、寧々さんのことは言えないなぁと思いながら、部活も趣味も特にない僕は確かに平日の学校終わりは暇なのだ。
特に遠坂からの問いには答えず、話を続けた。
「そしたら6時くらいに一人のおじいさんがやってきてね。このネコ缶を仕込んでいったんだ」
「おじいさん?」
「そっ。そのおじいさんは一人暮らしをしていて、数日前からこの公園に現れるようになったネコがかわいくなって餌をあげるようになったらしい」
「そうだったんだ」
遠坂は少し考えているようだった。暗がりでいまいち遠坂がどういう表情をしているのか読み取れない。遠坂はしばらくして口を開いた。
「まぁ、とにかく怪しいことはなかったし、これで一見落着ね」
「あれ、遠坂さんもしかして心霊現象か何かだと思ってた?」
「そんなことないけど、思ったより単純な話だったなぁって」
「単純、、、確かに単純な話だね」
僕は遠坂に言っていないことがまだ一つだけある。それはおじいさんの名前。
“甘藤正蔵(あまとうしょうぞう)“
おじいさんは僕にそう名乗った。
「さっ、遠坂さんもう遅いし早く帰ろう。ご家族の方も心配するよ」
「別に心配はされないけど、夜の公園に光崎くんと一緒っていうのも嫌だから帰るわ」
あ、はい。
夜道は危ないので遠坂を家まで送っていこうかとも思ったけど、ストーカーみたいになりそうなのでやめておいた。

 次の日、僕は図書館から入る例の秘密の部屋にいた。
「いやぁ、今回は部外者の光崎くんに手伝ってもらっちゃって悪かったね」
寧々さんの部外者という言葉が引っかかったが、そのまま聞いていた。
「そこで、タロウくんのお願いを一つ聞くよ。私たちなんでも屋にできることだったらなんでも言ってくれ」
そういうことなら、ちょうどお願いしたいことがある。
「遠坂さん」
遠坂は驚いたようにこっちを見た。まさか自分が呼ばれるとは思っていなかったようだ。
「僕と友達になってくれませんか」
しばらくの沈黙のあと、遠坂は答えた。それは僕が今まで聞いた中で一番冷たい声に聞こえた。
「嫌よ」
「ハハハ、」
寧々さんの笑い声が部屋中にこだまする。
「タロウくん、頑張りたまえ。私は応援するよ」
何を頑張れというのか。遠坂はもう僕の方すら見ていない。
「なんでも屋って、なんでもしてくれるわけじゃないんですね」
これを言うのが僕の精一杯だった。

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