【映画感想】流浪の月【一つのメルヘン】
ちょっと前に、似たような設定の漫画のドラマ化が「内容的に倫理的でない」という理由でポシャった記憶があったんですけど、これはどうなんすかね?
この映画は結構大々的に広告も打ってますけど、拒否反応を示す層はいるのか、タイトルで検索するとすぐに「気持ち悪い」という感想もまた見られるという。
未成年への性犯罪の問題を含む本作。しかし、「少女」によって人生を壊されてもいいと痛感する人種、ロリコンとして見に行かなきゃならんと思ったので、行ってきました。
結論からいうと、「役者の演技はとても素晴らしかったが、ストーリーとしては腑に落ちないところが多い」でした。
マイナス面から語ります。
更紗は、文を「ロリコン」とはっきり指摘してて、それは唇を触られた瞬間に彼の想いを感じ取ったからなんでしょうが、さてはて本当に彼は「ロリコン」なのかとなると、ここがかなり怪しいところのように私は思いました。
ラストで彼が性的不能者(おそらくホルモンバランスの関係で、性器が発達しない病)であることが明かされますが、果たしてそのような病状を持つ方は「ロリコン」になるのでしょうか?
いや、ならんでしょう!? この展開がかなり唐突で暴力的なように見えてしまい、今までの流れは何だったの?ともやもやもやもや。
文は文学青年であり、その書籍も純文学が多いように見受けられますが、いわゆるそれ関係の映像や作品を見ている様子はない。事件以後、家宅捜査もされているだろうから、そういう傾向を持たないことは警察側もわかっている。むしろ性的にはストイックというか、その病気のために避けてきたことですらあるように見えました。
そんな中、成り行きで家に連れてきた少女・更紗の自由さ、明るさに惹かれ、「人」として好きになった。ただ彼女の年齢が幼かったがために──誘拐という手段を用いたがために「ロリコン」と称されている。
このあたりが大きな誤解であり、二人が世間の目によって苦しめられる要因になっているのですが、その見せ方がご都合展開過ぎて、もはやおとぎ話、一つのメルヘン(by中原中也)にしか見えない。
更紗は大人になった今も、あの事件の被害者として「有名人」である。あんな事件があってネットに顔も晒されているのに、名前も変えずに名札つけてファミレスで働いている。映画の冒頭、事件の映像でやんや言い合う男子校生たちの図も「若い子たちが何のきっかけもなしにいきなり昔の事件について語り出す」が唐突過ぎてリアリティがない。あの被害者がここで働いているらしいという噂があって、という前段階があるならまだしも。
文との再会のきっかけも、仕事仲間の女性に連れて行かれて、という流れだが、彼女は更紗の過去を知っているので、私はこれを計ったな、と悪い方に考えました。が、どうもそうではなく、本当に偶然のようでした。そんなことある?
この話のキモは世間の目で、ネットや掲示板での噂、週刊誌の邪推により彼らは追い詰められていく。だが、(そもそも先に述べたように)その過程で文の病気が突き止められないことってあるのか?
刑務所にも入ったと思うんだが(執行猶予がついたかも?)その際、身辺調査で彼の健康上に抱えている問題については少なくとも警察はわかっているだろうし、更紗の身体も保護直後に検査は受けただろうから、保護前後には少なくとも実害がなかったことも明らかでしょうよ。このあたり、原作小説を読めばもう少し丁寧なのかもしれませんが、映画ではともかく雑な気がしてなりませんでした。
彼らを追い詰める要素としてだけメディアや世間の目を使い、あたかも彼らを虐めているように見える。それが悲劇性を増して、主人公たちへの感情移入に繋がるのかもしれませんが、いやご都合展開過ぎるでしょ、と呆れてしまう。
文は「ロリコン」」なのか問題に戻りますが、広義の上ではそうかもしれないけど、少児愛者ではないでしょう。それは性的に不能であることと関係なく、彼が「幼い子ども」に欲情しているようには見えないからです。あの更紗の唇に触れた、あの一瞬以外にそれはない。それにしたって、プラトニックなもんじゃないかな。
ナボコフの元祖「ロリータ」もその由来のわりに、ロリータもといドロレス嬢に対して、ハンバートが執着していく。しかし彼女は世間から見たらただの「女」に過ぎない。それが悲劇に繋がっていくのですが、文にも似た構図が見えました。
ただ彼の場合は逆で、性的なことを求められないから、幼い少女に対して人間的な交流を求めた。結果として、更紗に人間として惹かれ、性的にも触発される部分があった。ハンバートは元より小さな女の子に執着があり、ドロレスにハマって、ドロレスによって終わらせられた男でしたが、その入り口がまったく違う。
ただどんな事件であれ、加害者、被害者、それぞれの視点からでしか見えないものがある。切り取られた情報でしか周りは判断しないので、文がロリコンであることも、更紗が彼によって傷つけられたであろうことも、当然のことのように周りは見るのでしょう。当人たちがその決定的な部分を語っていない、というのも誤解を生むところになっている。
文の恋人が事件のあらましを知って泣きながら彼を責めるシーンがありますが、そこでの台詞がすべてだと思いました。「小さな女の子だよ」「信じられない」「あなたたちのこと、気持ち悪いって思う」。だろうね。しかも、文は何も話さないしね! 文の語れない理由はだから理由として体をなしてはないんですが、更紗のそれはよくわかる。言えないよね、そんなこと。家に帰った後、また被害に遭ってなきゃいいんだけど、どうなんだろか。
…と、ここまで、ストーリー上の文句をダラダラ続けてきましたが、役者の演技を見る映画としてはピカイチでした。主役二人もそうですが、その脇を固めるドクズ元彼横浜流星、子役の白鳥玉季は大いなる発見でした! その辺りは他の方も語られているので割愛します。
原作も読んでみたいなぁと思います。
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