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『あさきゆめみし』×『日出処の天子』原画展&トークイベントレポート

*下記は一ファンによるイベント感想記録になります。
*録画録音したものは当然手元にございませんので、記憶違い、聞き違いなどあるかもしれません、ご承知おきください。*
*文章の訂正修正を後で行う場合がございます。*

『あさきゆめみし』×『日出処の天子』展  -大和和紀・山岸凉子 札幌同期二人展- 2024年3月9日 札幌市東1丁目劇場にて
二人展初日トークイベントが開催されました。チケットは指定席のみ。
昨年の内に予約して前日入り二泊の宿泊手配と飛行機のチケットを手配しておりました。3月初旬とはいえ北海道。天候が気になってしょうがなかったし、当日朝は都内で雪がちらついていて心配したけども、無事に札幌往復してまいりました。今回メモを取らなかったので申し訳ないですが、楽しかったトークイベントの中でも印象に残った部分のみ簡単なまとめを記録しておきます。

司会進行は少女漫画研究家で米沢嘉博記念図書館に勤務されているヤマダトモコさん。お二人の先生も緊張なさってるご様子でしたが、ヤマダさんに任せたいとおっしゃっていて信頼が厚いのが伺われました。

二人展に至った経緯と目的について

まずはなぜこの二人展が札幌で開かれるに至ったかの経緯説明がありました。北海道出身、あるいは縁が深い漫画家が全国的に見ても非常に多いということ。用意された分布図とお名前のリストがスクリーンに。
(この資料作成は三原順作品復刻活動で頑張っておられるムーンライティングのお二人だったそう。大変な労作、お疲れ様です!)
参照*ごだまさんのツイート↓
https://x.com/gomayo/status/1766749984878481453?s=20

日本のマンガ文化を守っていきたい(原画の保存というのは個々のマンガ家さんだけでは継承が難しい面も多いので)どうにか公的に守っていく流れを作っていきたい。その目的で各地にマンガミュージアムが設立されていますが、是非北海道にもマンガ文化の拠点としての設立を目指したい。
その発起人として代表が大和和紀さん、副代表が山岸凉子さんということです。対談ではそういう話を大和さんが山岸さんに最初に話した時、「力強く山岸さんが賛同してくれた」と大和さんがおっしゃったら、後の山岸さんが「そんなに力強くではなく、良いんじゃないくらいの調子で言ったんだけど」という感じで少し印象を補正されていたのもまた面白かったです。

お二人の親交について

お二人とも北海道出身で同学年。札幌の高校生時代からの知己だったというのは公的にも知られた話ですが、さらにお二人の通ったお店やバレエ教室の名前などのリストがスクリーンに。
大和さんのご実家が喫茶店をなさっていて、本当は高校生は喫茶店に出入りは禁止されていたけれども、お友達の店ということで山岸さんはよく出入りされていたそうです。面白かったのは紅茶派の山岸さんはコーヒーが売りの店でも常に紅茶飲んでいたという。(そういうところが本当に好き…w)

なぜ知り合えたかというのも山岸さんがイラストを描いていたら、大和さんのご近所に住む友達が「同じように絵を描いてる人知ってる」と教えてくれて縁が出来たのだそうです。知り合うべくして知り合われたという気はしつつも縁とは呼寄せるものなのだなと思いました。
その頃大和さんはもうストーリー漫画を描かれていて、山岸さんから見ると当時から絵も素晴らしく上手かったそう。大和さんは「山岸さんは男性の絵を多く描いていた、分かりますでしょう?」(会場どっと笑い)

山岸さんが当時通われていたバレエ教室の話に触れられそうになった時に、あんまりその話は聞かないで、という雰囲気を如実に全身から漂わせておられたのが可愛いらしかったです。
辞めた後、マンガを描いてバレエ教室の先生に持っていったらなんだか迷惑そうだったというお話もされて、内心(いやいやいや、お宝でしょうに!!)と突っ込んでいました。迷惑そうというのも多分、山岸さんの誤解ではないか?とも思います。
今もバレエ教室に改めて通っていらっしゃるという山岸さんは背筋がぴんとして姿勢が美しかったです。
お二人とも淡い色合いのお洋服がとてもお似合いで若々しくお綺麗でした。

そしてお二人がプロを目指すきっかけになったのは

『手塚治虫文化賞20周年記念ムック』に掲載されていた作品の展示がありました。この内容について対談でも触れられていました。
大和さんの行動力が凄い。山岸さんも当時大学生だったお兄さんに頼み込んで(お兄さんの当日の服装の話が、良いお兄さんだな!という感じ。時間がなかった中それでもお二人を手塚先生に会わせる為に協力なさったお兄様にも私達ファンは感謝せねばなりません。)
さっぽろ雪まつりに見えた手塚先生に「作品を見てください!」とお願いしたら、後で保護者さんとホテルに来てくれたら見てあげると快諾なさった先生、さすがです。マンガの神様は後進を育てることにも慧眼も素晴らしかった。大和さんの作品を見て、このまま描き続けていけばプロも近いという講評。

デビューの頃

手塚先生の講評通り、大和さんの方がデビューが早かった。山岸さんは会社に勤務しながら投稿を続け大和さんより後にデビュー。本当は体操モノを描きたかったのだけど既に別の作家さんが描かれるとなっていたので卓球物なら載せてあげるとなった。それでまったく知らないので卓球のルールブックを一冊買ってきて頭に入れて描いたのがデビュー作の「レフトアンドライト」(『レフトアンドライト-初期作品集- 山岸凉子全集 (28) 』あすかコミックス・スペシャル 1988/3/4)
当時はスポーツ物が全盛だったというお話など。

そして代表作執筆へ

司会のヤマダさんがお二人の代表作、今回の展示二作がほぼ同時期であることの意味について問われると、お二人ともさくっと、まあ二人とも年が同じだしデビューも近いからね~的な返答。
お二人とも順調にキャリアを重ねる中でいよいよ筆も乗り、描きたいものを描かせて貰える立場を得て、後から見たら結果的にほぼ同時期に代表作になるような大作に手を掛けていたということだったのでしょうか。
対談を広げようと話題を振る司会者泣かせのお二方ではありましたが、夢中になって作品を描き続けて来られたお二人には確かに「さあ代表作を描くぞ!」というのではなく、振り返ってみれば同時期だったね…なのかなと受け止めました。
(*2024年3月13日追記『太陽の地図帖 _032 山岸凉子『日出処の天子』古代飛鳥への旅』(平凡社 2016年1月28日初版発行)記載のインタビューを再読してみたところ、”『日出処の天子』を始める直前というのは、私にとってどん底の時期だったかもしれません。”とありました。
『花とゆめ』で毎月読み切り作品を描いていたのに主人公の顔の描き方を変えたら次の予告カットの注文が来なかった。逆風の中で満を持して始めた連載だったとのこと。リアルタイム読者の私の周囲は山岸ファン多かったので、ちょっと意外ではありますが、掲載誌『LaLa』は『花とゆめ』よりもマニアックではあり、子供向けではなくなったというのはそうだったと思います。連載開始の時、大作が始まったという衝撃の予感と期待に震えました。)

展示についての概要について

監修されたヤマダトモコさんから展示の構成についての説明がありました。まずはモノクロ原稿。
それぞれの先生の展示絵の選択の仕方の特徴について。
大和さんは『あさきゆめみし』の中で一話丸ごとの展示でその解説を一つにまとめたもの。
山岸さんは『日出処の天子』全体から抜粋しつつスタートからラストまで流れが分かる展示でその一枚ずつにコメントされている。カラー絵にも。
このコメントが大変にシリアスな内容に対してもいわゆる作者突っ込みが多い。例えば、「厩戸は超能力者なのに泊瀬部に投げられた杯を避けられない」「厩戸、女装が多い」「ここはいわゆる壁ドンの場面」(←すべて概略です)といったものでした。が、中には「ここは厩戸の表情は描けず背中のみ」というのも。背中のみの場面ってどうしても厩戸を選ぶことが出来ない毛人との決別の場面だったりして涙、、。
あえて表情を描かれないことで伝わる厩戸の哀しみがひしひしと伝わってくる原画に対しては山岸さんも作者のゆるつっこみナシでした。

すばらしいカラー原画の魅力

最近ではAIも発達しているけれど、基本的に漫画の絵は人が描いている。ツールはデジタルに移行しつつも非常に細やかな人的な作業の積み重ねであり、一人ではできないチームとしての仕事でもあるという会話が一頻りあり。
大和さんの『あさきゆめみし』ではアシスタントの方で植物(例に挙げられたのは紅葉)をすばらしく美しく描ける方がいたり、宮中の建物についても資料を細かくあたって、「この官位は何か?ならば建物の格だと階(きざはし)がありますね」など相当に調べ込んで大和さんの指示に対して描き込んでくれる人がいたり、チームとしても非常に充実した時期だったそうです。
衣装や小物、建物について調べ込んだ上で描かれているというのは古典のコミカライズとして本当に素晴らしい。一人ではできなかったとおっしゃるのもさもありなんです。
山岸さんの方は時代的に源氏の頃より華やかさが欠ける時代で、本当は「蘭陵王」は入って来ていないから本編には描けない分、イラストとしては厩戸に装束衣装を着せてみたりした、『あさきゆめみし』は画面が華やかで羨ましいとのこと。表紙や扉絵イラストには時代にないものも敢えて描かれていた部分はありつつも、やはり本編では時代考証を大事にされていたことが改めて分かりました。

スクリーンに映し出されるカラー絵の細やかさ。お二人ともすごい画力。神のようです。
大和先生の描き分けられている女性の黒髪の艶、一本一本を描き込まれる作業の凄さ。キャラの表現によって描き分けられています。
描線が白で描かれているんですよねと拡大して説明されると絶句しかありません。
山岸さんは厩戸の着物の方がいつも細やかで描き込まれており、毛人はけっこうあっさりした衣装(手を抜いて?w)というのも対談の中で分かりました、確かに。
女性の衣装を描くのが少なかったからたまに描くと楽しいと話も出てきましたが、当時布都姫の受けが悪くて~というお話には会場も大頷き。
(どうしてもね、厩戸にシンクロするとこんな女に!みたいな心境の方は多かったと思います。)
対談の中で女性でも刀自古は割と人気あったという流れの中だったと思いますが「厩戸と結婚する際にお化粧する場面は美しくて意志の強さがよく表現されていて良かった」という話が出たのだけど、肝心の山岸さんがぴんと来ない感じだったのもちょっと面白かったです。

ヤマダさんがお二人に共通する部分として孔雀をモチーフにした絵をスクリーンに。華やかな孔雀を効果的にイラストに取り込まれたものが比較されました。山岸さんのは「孔雀明王」。
大和さんが「仏像が好きよね」とおっしゃると「聖徳太子だからね」と返されたりして(笑)
絵の話では、大和さんが山岸さんの描かれる蛇や龍が上手くて凄いと。
確かに随所に効果的に使われています。
蛇というのはアダムとイブに知恵を授ける動物ですが、知略に富むと同時に非常にエロティシズムを感じさせる生き物。厩戸の持つ知略策謀妖艶さを表すに絶妙なのでしょう。
ヤマダトモコさんが大和先生の発言の龍について補足的に、「龍は正面から描くと少し間抜けになりがちなのだけど山岸さんは描く角度で非常にかっこよい龍をよく描かれている」とスクリーンに映しながら説明してくださって、本当に!!と分かりやすい解説に納得でした。
龍の持つ壮大さ超常的な力が厩戸にぴったりです。
日出処天で「厩戸の背景に使われているのがアンモナイトを半分に切ったものよね!」と大和さんが気づいたということでその絵の説明も。
山岸さんが「そうなの」と肯定されていて、「アンモナイト好きなのです」。
海の波の絵が非常に細かくて、効果的だという解説もありました。
これについては「(写真等見本示して)この海の絵を描くのだ、あなたなら出来る!」とアシスタントに頼んで描いてもらったそうです。ひぃ~~。
特に物語ラストの背景になった一面の海の絵は、均質な線を重ねて描かれた壮大さを漂わせる素晴らしい背景で、これも大和作品と同じく山岸作品もチームでしか成し遂げえなかった大作だったんだなと改めて思わせてくれました。
他にも山岸作品の特に厩戸がよく片肌脱いでるとか、女装してるといったお話から大和さんが突っ込んでいたり、楽しい話が盛りだくさんでした。
会場は終始笑いで盛り上がっていました。

余談として、当時マンガのセリフは写植として別に編集さんが入力して印刷したものを貼り付けねばならなかった。ある時山岸さんの編集さんがぶつぶつと「天ぷらそば、うどん…」と呟きながらメモ取っているので「何言ってるの?」と確認したら原稿の枠外に出前を取る時に取ったメモ書きが残っていてそれを写植に起こそうとしていたらしい。会場どっと笑い。
もしそこで山岸さんが突っ込まなければ連載誌にまったく無関係に「てんぷらそば、うどん…」という写植が貼られていたやもしれず!想像すると面白すぎますね。締め切りに追い込まれた編集さんの悲哀も感じます。

以上、まだまだ楽しいトークのネタはたくさんあったと思いますが、おおよそ印象に残ったところを拾って纏めてみました。
何か誤解や聞き違い等あるかもしれませんことを再度お断りしておきます。

素晴らしい進行と解説を下さったヤマダトモコさん、本当にお疲れ様でした。
そして名作を生み出し続けて来られたお二人の先生に心からの尊敬と感謝を捧げます。今後のご活躍も心から祈っております。

(補足)
■2013年には「ほっかいどう大マンガ展」というのも開催されていました。(https://natalie.mu/comic/news/93101
この時も実はチケットが抽選で当たっていて行きたかったのだけど、当時は仕事が忙しくて行けず。残念でした。)
■大和さんの北海道民の特徴として出た「乾燥」という言葉について
会場で聞いた時はピンとこなかったのですが(雪が深いところってウェットな感じが浮かぶので)「ドライ」とカタカナにしてみたら腑に落ちました。
屯田兵という語彙も山岸さんから出ましたが、広大で厳しい自然の中で各地からの移住民を受け入れてきた風土と歴史の中、北海道民は合理的でドライという印象は確かにあります。
あまり詳しくは知りませんが、例えば結婚式のご祝儀なども会費制が多いとか。日本の本州以南に比べて大陸的なところがあるのかもしれません。

■山岸凉子作品データはここが詳しいです。
(根葉梅花様作成)
山岸凉子のカテゴライズの夜は更けて.
紹介記事などについてはFBページhttps://www.facebook.com/kategoriesnoyo/?locale=ja_JP

作品データをまとめたサイト
http://kategories.com/yamagishi/index.htm

(2024年3月12日追記)
■山岸さんが原画に付けられたコメント、記憶からどんどん薄れていくのが切ない。(マンガ原画展の際には是非図録販売を希望します…今後ご検討を宜しくお願いします…)
トークでも取り上げられていた中など思い出せるところを追記します。文言いっそう怪しいです、おおよその感じということでご勘弁ください。
*厩戸がびっちり妖怪に全身を覆われていく場面*
「これは烏天狗。メスも入れておきました」というもの。「メス」とされたのが面白くて。低級な妖怪なので動物寄りの扱い。
半身が裸で胸が描かれているので、大和さんがスクリーン見て「グラマーですね」とおっしゃったような(笑)
この場面は低級妖怪をびっちり身に張り付かせる様に厩戸にとっての自慰的なところもあるので「メス」妖怪の混ざり方が生々しいところです。
*毛人が壁に手をついて厩戸の髪に花をつけようとする場面*
「ファンの人にこれはいわゆる壁ドンでは?と言われたシーン」
当時はまだ壁ドンという用語はなかったと思うので後になって指摘されて言われてみればそうだなという感じ。胸キュンの場面ですね、確かに!!
*女装して踊り手に混ざる厩戸にドキドキする毛人の場面*
「胸をときめかせる女性が現れたと思ったらまたしても厩戸。よく女装する」しょっちゅう女装させてるのはどなたでしょう!?(笑)
*簡略な武装をしている厩戸*
「下に着ているのは女性の装束」(鎧の下からピンク色のひらひらっとした服が見えている)そうか…艶めかしい色だと思っていたら女性の服を着ていたのか、と納得しました。
(2024年3月13日追記)
一言コメントはカラー絵分については『太陽の地図帖 032 山岸凉子『日出処の天子』古代飛鳥への旅』(平凡社 2016年1月28日初版発行)記載コメントを使用されていたそうです。
原画展でも販売されていたのでお持ちでない方は是非原画展会場にてご購入を。私は幸い持っていましたので再読中です。




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