「喫茶店」
新宿ってのは、いつ来てもほんと臭い街だな。
用事があって新宿に来た。
すると、連絡をとっていたM男がちょうど近くにいるらしい。
「喫茶店で…10分でいいです!僕とお茶してください…!」
元々会う気は無かったが、こうもタイミングが合っちゃ仕方ない。
人生とは予定よりも、タイミングだ。
「いいよータバコ吸えるとこにしてー」
M男が指定してきた喫茶店を調べると、web上に詳細が出てこない、古いタイプの喫茶店らしかった。
うん、好きよ、こーいうの。
サングラスをかけ直すと、ヒールを鳴らし、M男が待つ喫茶店へ向かった。
恐らくこのビル…携帯を見ながら建物を確認する。
「あまねさん…ですよね?」
声のする方を振り向くと、カジュアルな服装の、優しい雰囲気をした男の子がこちらを見ていた。
「どうもー、遅くなってごめんねー」
私が軽く挨拶するとM男は、「いやいや!」だか「全然です!」とか言って、今にも跳ねてしまいそうな心を隠しきれない様子が伝わってきた。
私はそんなM男を眺めながら、人混みで疲れていた頭が解れる感覚に浸る。
「2階なんです、古いですけどタバコも吸えますし、のんびり出来るいい喫茶店ですよ!」
M男のエスコートで喫茶店に入っていく。
中に入ると、店内は薄暗く、今どき珍しいどぎつい柄の絨毯が敷き詰められ、これは若者が来ないのんびり出来る店だわね、と心で秘かに太鼓判を押したのだった。
マスターが1人でやるには広い店内だったが、いつから居るのかわからないような客たちはまばらで、余計な心配は瞬時に消え去った。
案内など来るわけがなく、私の誘導で窓際の隅の席にした。
「ここね、珈琲は美味しいんですよー」
私を奥の席に促しながら、M男が嬉しそうに話す。
へぇ、と相槌をうちながら、M男を無視し手前に着席した。
「窓の外が見える方が好きなのよ」
そう言うと、M男は納得したように喜んで奥に座った。
「僕はアイスコーヒーにしますけど、あまねさんはどうしますか?」
「私も同じもので」
M男はマスターを呼び、手早く注文を済ませた。
「いやぁ、今日は本当にありがとうございます!本当に会えるなんて…嬉しいです!」
可愛いなぁ…
ニコニコしながら話すM男を、ニコニコしながら見守る私。
新宿の真ん中でこんなにのほほんとした気持ちになれるんだから、この喫茶店を選んだM男はとても優秀だと思う。
「あまねさん…想像していた通り、お美しいです」
そんな褒め言葉に微笑みで返し、M男の顔をまじまじと観察する。
顔の筋肉が勝手に動いてしまうんだね、嬉しくて、本当は今すぐにでも首根っこ捕まえてほしいような、無邪気な子供みたい。
常に暗く、息の根を止めてほしそうな感じのマゾも中にはいるが、多くは子供のように無邪気で、素直で、開放され、酔いしれて、恍惚とし、いやらしくて、可愛い。
私の前では、だ。
そうこうしていると、オーダーしていた飲み物が届いた。
「あまねさん、ミルクとガムシロはいれますか?」
「ありがとう、ミルクだけでお願い」
いそいそと私のアイスコーヒーを仕上げるM男。
完成したアイスコーヒーを一口飲むと、それは本当に美味しくて、雰囲気も含め一気にここのファンになった。
美味しいコーヒーと、居心地の良い喫茶店、ニコニコと可愛いM男により、私はすっかり気分が良くなっていた。
自分の趣味の話を、身振り手振り一生懸命話すM男を眺めつつ、机の上にあった私のライターをM男側に落としてみた。
「あ、僕拾います」
両肘をつき、にこやかにM男を見つめる。
机下にもぐるM男を見届け、ライターを手にしたところでM男の手をギュ、っと踏みつけてみた。
机上から見えるM男の動きが止まった。
笑いが、こみ上げてくる。
今、机の下ではどんな顔をして、踏みつけてくる私のブーツを見つめているのか。
仕上げにグリグリ、と踏みしめ、開放してやった。
「ありがとう」
机下の世界から戻ってきたM男ににっこりと微笑み、ライターを受け取る。
「…はい、どうぞ…」
俯き加減でモジモジとしている。
スイッチが、入ったね。
私も、そんな姿を見ていると、吸い込む酸素が麻薬のように、身体を気持ちよくしていく感覚になる。
「さっきの話、続けて」
「あ、はい…」
M男が話を再開するも、明らかにさっきよりたどたどしい。
うんうん、そうなんだー…
私はゆっくりと相槌を打ちながら、机の上に置かれたM男の手を撫でていく。
さっき踏みつけたからか、少しだけ赤い。
触れるか触れないか。
指の腹でスルスル、と滑らせていく。
M男の黒目が落ち着き無く、あっちこっちと動きまわる。
挙動不審を観察しながら、爪先で引っ掻いてみる。
眉間にシワ寄せて、そんな真ん丸の瞳になっちゃうの。
可愛すぎる反応。
上がった口角の戻る暇が無いじゃない。
私は組んでいた上側の足を移動させ、M男の股間あたりをトン、トン、と二回ノックした。
落ち着きの無いM男が、途端に固まり動かなくなった。
顎は上がったまま、目線は私の瞳一直線で離さない。
そんなたまらない顔して…ブーツの底でもわかるよ、カチカチ…
踵をM男の椅子に乗っけ安定させると、期待に膨らませたソレを、足で執拗に構いつつM男に近づき、耳打ちする。
「あなたね、いくら寂れた喫茶店って言っても、他の客もいるのよ、みなさんに向けてそんなだらしない顔して固まって、私に踏まれて気持ちよくなってるマゾだってバレてもいいの?」
「…っ、…だめです…」
絞り出す声が、私を刺激する。
この子は、耳から声を流し込まれる事に弱いらしい。
そうかそうか、それであれば…
「ねぇ、靴の底でもわかるよ…可愛いね」
前傾姿勢のまま肘をつき、M男の耳に向かってヒソヒソ、と耳打ちを続ける。
「もっと足開いて…」
「ほら、わかる?足で踏まれてこんなになってる…」
私はガムシロップを手に取り、蓋を開けると、人差し指を液に浸した。
持っていた方の指に溢れたガムシロップが垂れてきた。
仕方なくソレを舐め取りながら、様子を伺っているM男に向けて言った。
「わかるよね?君なら」
私が人差し指を差し出すと、M男は意を決したように、薄く唇を開き、私の甘い指先を舌で迎え入れた。
毎度思うけど、人の口の中はとても気持ちいい。
こんな粘膜の中で自分の大事なモノが包まれ、ウネウネと舐め取られたら、そりゃあ気持ちいいよな、と男を羨ましく思う。
すぐに指を引き抜くと、もっと舐めていたいような表情で私を見つめる。
私はその視線を捕らえたまま、人差し指を自らの口に差し入れ、ひと舐めして見せると、M男は一層恍惚としたいい表情になった。
「あら、30分以上経ってる、そろそ行かないと」
そう言うとM男は一気に動揺した。
「あ、あのもしよかったらまだお時間…」
「うん、またタイミングが合ったら遊ぼう、またね」
甘ったるい口内を一気にコーヒーで流し込むと、私は喫茶店をあとにした。
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