「お守り」

「僕は大人ですから」

僕は大人ですから。
あの子とは違います。
貴女のこと、どんな時だって僕が一番に愛している。
流行り廃りじゃない。
貴女がくたびれて、誰も振り向かなくなったって。
僕は変わらず跪き、足先に愛を口付ける。
ハリが無い?ツヤが無い?
そんなこと、何の問題にもならない。
貴女という人間は、誰にも代わりが効かない。
僕にとっての唯一無二。
貴方が存在する限り、僕には貴女しかないんです。
若い男じゃ、こんなこと絶対無理ですよ。

僕は大人ですから。
貴女に無理強いはしませんよ。
だってほら、お互いの生活があるじゃないですか。
貴女には、貴女の生活。
僕には、僕の生活が。
貴女の生活の隙間に僅かな余白ができた時。
僕を呼んでもらえたら嬉しい。
気分が乗ったらでいいんです。
僕は呼ばれたら行くだけ。
いくらだって調整出来ます。
だってほら、そのために普段真面目にやってんですから。
それが、僕の選んだ生活です。

僕は大人ですから。
出来ないことはちゃんと伝えます。
限界を超えて貴女を困らせたりはしませんよ。
自分で判断し、安全に楽しみます。
でもなぜでしょう。
出来ないことが無いのです。
貴女に触れられる身体は溶け、
精神はいくらだって形を変える。
重ねれば重ねるほど、
僕は貴女の形にすっぽりとはまってしまうのです。
だから僕のこと、快楽だけを貪るソレと同じに思わないでください。
貴女だからこんなにも焦がれ、
貴女だから不可能を失ってしまう。
全て自分で判断し、行っていることです。
だから安心して下さい。
僕はそんな簡単に壊れませんから。

僕は大人ですから。
それ以上を望んだりなんてしません。
貴女と言葉を交わし、
貴女に触れてもらえる。
僕の生きる世界では、それで十分なんです。
僕はあの子じゃない。
満たすバケツの形も容量も違う。
わかってます。
たまに少しだけ、羨ましく思うのは気の迷い。
ほら、生活の中、心が弱ることもあるでしょう。
きっと、それだけです。
余計なことを考える。
そんな時間は無くすようにしますね。

僕は大人ですから。
時に貴女が辛い時は、僕を使ってください。
好きなように、いいように。
貴女が少しでも元気になるならば、
僕はなんだってしたくなるんです。
僕から触れることはしませんから。
呼んでもらえれば、そっとお側にいさせてもらいます。

一度だけ。
僕を抱き寄せ、貴女は泣いた。
顔は見ていません。
ここまで生きてきましたから、触れる肌からわかります。
僕はいつだって貴女が一番。
わかります。
この涙に、僕はいない。
淡々と流れる僕の鼓動。
不思議と穏やかな僕の心。
貴女をこんな気持ちにさせるなんて。
忘れたはずの俺が、僕の指先を震わせる。
わかっています。
貴女はそんなこと望んでいない。
僕には何も、望んでいないのです。
手にこもる力を溶かしたら、僕はいつもの貴女の僕です。

「…笑わなくていいのよ」
「はい?」
「泣いてるわよ、あなた」
「…はい」

人体の不思議だ。
制御できない思いが、涙を流させた。
このまま壊れてしまえばよかったのに。
脳に溜まった圧力が、僅かな希望をぶち壊してくれれば。
僕は僕を、貴女を、この時間を維持出来る。
ごめんなさい。

「すみません…抱きしめてもらえて、嬉しくて…」

何も言わずに頬を撫でるその指が。
弱い僕を包んでくれてしまう。
すみません。今だけ。少しだけ。

僕は大人なのに。
大人なんて。

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