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君を救う歌を歌いたい

よくYouTubeで、様々な歌い手さんがカバーする曲を聴く。
歌い手さんやVTuberの方。
最近はとても歌が上手な方が、ネットには溢れている。

そういう方々の歌を聴いていてよく思うことがある。
皆さん、歌はとても上手だ。
カバー元と寸分違わない程の歌唱をしている方も多い。

しかし、カバーはカバーだ。
どんなに頑張っても原曲の方がMIXは素晴らしいし完成している。
なら、原曲の方を聴くよね、と私は思ってしまう。
これはとても勿体ないことだ。

歌とはエネルギーである。
心をどう込めて自分の中で飲み込み、伝えるか。
それが重要だ。

これはクリエイト分野全般に言えることであり。
それそのものを「コピー」するだけでは作品足り得ない。

私は十数年小説を書いている。
勿論、発想の一つ一つが全てオリジナルではない。
影響を受けた作品は数知れず。
多数の「影響元」が私にも存在する。
それをどう料理して、自分の中で昇華するか。
私はそれを「クリエイト」と呼び、そこに価値を見出している。

なので、カバー曲を漁っていると。
物凄く上手なのに、原曲をなぞっているだけの歌に出会う。
そうすると妙な気持ちになる。

勿論なぞるだけでも相当な技術が必要だ。
しかし、それではやはりオリジナルを越えられない。
そしてその良点を「自分のもの」とすることはできないのだ。



そんなことを思いながら、今日も音楽を流しながら作業をする。
千差万別、ネットには様々な歌がある。
沢山の人間が沢山のことを考え、そして歌を作る。

その大半は消えていく。
広まることもなく、誰に評価されることもなく消えていってしまう。

小説も同じだ。
どれだけ会心の出来の作品を書いても、消えていく。
大半がなかったことになる。

クリエイトとは、そういうものだ。



カンザキイオリさんという音楽家がいる。
最近知った、花譜さんの曲などを多く手掛けている方だ。
この方の曲には、寂しさや悲しみを現すものが多い。

この方の作品の中で「君の神様になりたい。」という楽曲がある。
元はボーカロイドソングなのだが、この方のカバーが特に素晴らしい。

しゆんさんという歌い手さんだ。
激情のまま、叩きつけるように歌唱している。

とてもリアルで、つらい歌だ。
最後にこんな歌詞がある。

「君の痛みを、君の辛さを、君の弱さを、君の心を、
僕の無力で、非力な歌で、汚れた歌で歌わしてくれよ」

しかしこれは、歌の対象の「君」に届くことはない。

「僕は神様にはなれなかった」
「無力な歌で君を救いたいけど、救いたいけど」

という言葉で結ばれる。
自分という無力な存在を自覚して、何も救えない絶望を歌っている。



私は、この歌にとても共感する。
そう、大半の努力は報われない。
大半の「作品」は「誰か」にさえも届かない。

そのベクトルが正しかろうと間違っていようと。
等しく届かないものは届かないのだ。

このネットという膨大な海に埋もれて、消えていく。
心がどんなに叫んでいようと、それが届く届かないは別問題なのだ。



だからこそ、何かをコピーするだけでは更に誰にも届かないと私は思う。
そこを自身の中でどのように消化して、昇華するか。
重要なのはそこであり。

更に最も重要なのは、それでも尚、大半の言葉は届かないという事実。
必要なのはその「自覚」だ。

私も、言葉で何かを救えると思っていた頃があった。
私の文章が誰かに届くと思っていた頃があった。

しかし、世界は思う以上に個々人に対して無関心だ。
そしてその「無関心」の前では、私達は「無力」だ。
カンザキイオリさんの歌の中にもあるように、私達は無力なのである。

無力な私達の心は、誰に届くこともなく。
空中に霧散して、消えてなくなる。
それがおそらく「当たり前」なのだろう。

誰もが誰かの神様になりたいだろう。
必要とし、評価されたいだろう。
しかしそびえ立つ壁はあまりにも私達を拒絶し。
言葉は跳ね返され、砕けて消える。

私達は誰の神様にもなれない。
そしておそらく、私達は神様がいなくても生きていける。

カンザキイオリさんのこの楽曲を聴く度にそう思う。

心を届かせるというのは、とてもとても難しいことだ。
想いを伝えるというのは、とても壁が高いものだ。

そう。
無力な歌で、非力な歌で「君」を救いたいけど。
救いたいけど、それは叶わない。

叶わないけれど、きっとそれは、やめてしまうともう永遠に届かない。

だから、私達は試行錯誤しながらクリエイトを続けるのだ。
私達自身も救われる為に。



そう思いながら、私は今日も小説を書く。
無力な私が、誰かを救うことはなかったとしても。

「君の神様になりたい。」
原曲:カンザキイオリ


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