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小説 『窓』 no,32

タクシーで 日本料理「紀州路 宿院店」の 入口に乗り付けた 妹尾錠治を黒田店長が出迎えてくれていた。

黒田店長:『妹尾さん 大丈夫ですょ!』(そんなに慌てなくても!)

妹尾:『そうか!助かったょ!( 黒田ちゃん、ありがとう!) 』

紡車紫織との待ち合わせの時刻を1時間近くも遅れて来た 妹尾は 事前に 黒田店長にSOS電話を入れていたのでした。

黒田店長が、いつもの離れの部屋に 妹尾錠治を案内すると…

紡車紫織が ご機嫌な笑顔で妹尾を出迎えてくれたのだ…

紡車:『あら、やっと来ましたね!』

そこには、黒田店長の用意した 食前酒と前菜を楽しんでいる紡車紫織の姿があった。

妹尾:『ごめん!御免!』

今更(いまさら)、つまらん言い訳を考えて話したところで、せっかく黒田店長が 気遣って用意してくれた「酒」や「前菜」を不味(まず)くするだけだと 思った 妹尾錠治は、
それだけを言って、 苔(こけ)に包まれた庭が 良く見える 席側に 座ったのでした。

紡車紫織は 妹尾が、ここから見える庭が好きなのを知ってて、わざと席をあけて待っててくれていたのだった。

紡車:『妹尾さん、黒田店長さん から広島の東城酒造(しゅぞう)の大吟醸「青雲海」を サービス だって 出して くれたん ですよ!』

妹尾:『そりゃぁ、凄いじゃないか!』

妹尾:『東城(とうじょう)の青雲海と言えば、地元広島の国会議員 加納銀次郎を総理大臣にまで登り詰めさせたと言われるくらいの…(彼の買い占めで)なかなか手に入らない銘酒の中の銘酒じゃあないですか!』

紡車:『あら、妹尾さん!めちゃくちゃ詳しいじゃぁない!』

妹尾:『そりゃぁ、そうですょ!』

妹尾:『僕は日本酒よりも焼酎派ですが、広島の東城で「青雲海」を初めて飲んだ時の感動は…、これが日本酒かと驚いて、思わず「これ、マスカット ワイン ですか?」て聞いたら、周りの試飲(しいん)に来てた人達に大笑いされたんだから…そりゃぁ詳しくなりますよ!』

紡車:『へぇ、妹尾さんて本当に(実際に) いろんな所に行ってるんですねぇ…』

妹尾:『まぁ、まぁ、私の昔話よりも、食事を始めましましょうょ!』

妹尾:『今日は、北海道 直送の毛蟹(けがに)フェア だって案内ありましたょ!』

紡車:『私、毛蟹 大好き!』

紡車:『大阪じゃぁ、滅多に美味し毛蟹が食べられない から …』

その紡車紫織の話し方に、妹尾が笑うと、 紡車紫織も笑った。

妹尾は 笑いながら「黒田ちゃんありがとうねぇ…」って 心の中で言っていた。

それからは、いつもの様に美しく盛られた料理が 次から次へと出て来て「北海道の毛蟹フェア」のコース料理が終わりかけた時だった。

紡車紫織が言った…
『私、やっぱり妹尾さんと一緒に居(い)る時間が好き!』

妹尾:『えぇ、何(なに)、急に…』

紡車:『そもそも、私って兄の影響で男(おとこ)ぽく育ったから…分かっていなかった!』
紡車:『妹尾さん みたいな殿方いるなんて…』
妹尾:『おいおい、それって、誉(ほ)められてるのか?』
紡車:『そうよ!』
妹尾:『そぉ、有り難う』

紡車:『何だか…妹尾さんといると一番(いちばん)落ち着くって感じなの…』

妹尾錠治は紡車紫織に口説かれている気分で 嬉しく成っていたが…
目の前の問題を片付けなければ先に進めない事を充分に理解していた。

妹尾:『紫織さん!ところで、僕に話したい事って…』

紡車:『えぇ、嬉しい…、妹尾さんが初めて私の事を下の名前で呼んでくれた!』

そぉ、妹尾錠治は…その場の紡車紫織が作り出したムードに乗せられて、自然に紡車紫織の事を「紫織さん」と呼んでしまったのでした。

妹尾:『あぁ、…』
紡車紫織に指摘されて、照れてる妹尾錠治が…
妹尾:『ごめん!つい…』
紡車:『良いのよ!本当に私、嬉しいんだから…、これからも二人で居るときは「紫織」って呼び捨てにして…』

妹尾:『じゃあ、そうするねぇ』
妹尾錠治の方も紡車紫織に、そう言われて嬉しかったのである。

紡車:『私、辞表出したわぁ!』
妹尾:『やっぱり、(警察)辞めたんだねぇ!』
紡車:『何だか、スッキリしたわぁ』
妹尾:『でも、良く辞めさせてくれたねぇ!』

紡車:『上司に正直に、倉崎と付き合ってた事や、倉崎から頼まれて三輪龍二の事を 調べていた事も話したら…、最初は びっくり されて困惑した様子だったけど…』

紡車:『私も三輪龍二の転落死に関わっていると(上司が)悟ると、辞表を(上司は)受け取ったわぁ』

妹尾:『でも、それは倉崎が 君(紡車)を利用した事での 事故じゃぁ 無(な)いか!』

紡車:『そうよ!でも (世間的にも)警察(刑事)の立場では、許されない行為なのよ!』

紡車の言葉は、妹尾も分かっていた…
国家権力を持つ警察であっても、個人的な事情(感情)で強制捜査(の様な言動を含む)は 許されていないのである。( 法律に反する行為である。)

妹尾:『分かった、だったら 回(まわ)りくどい 話しは 止(や)めて、君の潔白(三輪龍二の転落死の真相)を証明するためにも 僕に教えてくれよ!』
妹尾:『僕も率直(ストレート)に聞くから…』

紡車:『良いわよ!何から聞きたいの…』

紡車紫織の この(時の)言葉は、「もう何もかも 妹尾錠治に話す事で、今までの(紡車自身の)過去と決別する覚悟」を 決めて、今日、ここに来た(妹尾錠治に会いに来た)との事を表(あらわ)していた雰囲気(ふいんき)を出していた。

妹尾:『倉崎から言われて、三輪龍二の所に 取り押さえ に行った「物(ぶつ)」とは、いったい何だったの…?』

紡車:『それは、倉崎が開発した「最新のゴト具」と、それを三輪龍二が 作らせている工場の情報よ!』

妹尾:『やっぱり、そうだったかぁ!』

妹尾:『それで、そのゴト具と情報は三輪龍二(の所)から持ち出せたのか?』

紡車:『勿論(もちろん)、持ち出したわぁ!』

妹尾:『そぉ、それで…そのゴト具と情報は…今、何処にあるの?』

紡車:『倉崎に渡したわぁ よ!』

妹尾:『いつ、いつ倉崎に渡したんだ!』

妹尾錠治は 張り詰めた感情を剥(む)き出しで (更に)問い掛けた…、
紡車も即座(そくざ)に応(こた)え返した…

紡車:『倉崎が 勾留(こうりゅう)される前の日よ!』

妹尾:『それで、次の日には 倉崎聖士が 堺署に参考人として…実際は逮捕されたって分けかぁ…』

紡車:『そうよ!』

紡車:『だって、倉崎との「縁(えん)」を切る為には、(それを)渡すしか無かったのよ!』

紡車:『でも、私だって刑事の端(はし)くれよ!倉崎と「縁(えん)」を切った後は、彼を逮捕して「ゴト具」と、ゴト具を作っている工場を抑(おさ)えに行くわょ!』

妹尾:『そりゃぁ、まぁ、分かるけど…』
妹尾:『でも、凄いねぇ!』
妹尾:『君の切り替えの判断(力)は…』

妹尾錠治は紡車紫織の告白を聞いて…あらためて、紡車紫織(つむしおり)の(圧倒される)存在感に浸(ひた)っていたのでした。

妹尾錠治は…この時、あえて紡車紫織には質問し無かったが…、

あの時(三輪龍二が転落死する前の時間)に マンションの大きな入口ドアの『窓』越しに見た、向かいのマンションの非常階段を駆け上る二人の影が…、
逃げる女性(じょせい)が 紡車紫織で、それを追いかける男(おとこ)が三輪龍二だったと、妹尾は確信していた 。

そして、妹尾錠治は思った…

「じゃぁ、暫くして 非常階段を再び二人で ゆっくりと 降りてきた時の男性(だんせい)の方は、いったい誰だったんだろう!」

紡車紫織が 倉崎から依頼された「ゴト具」と「ゴト具を作っている工場の事が分かる資料(又は情報)」を 三輪龍二 から 奪い、あの時、あの非常階段を(紡車紫織が)掛け上がって逃げていたとしたら…、それを追いかけていたのが三輪龍二で、二人が屋上で紡車紫織が(三輪龍二の部屋から)持ち出した「ゴト具」を 奪い返そうする三輪龍二と揉め合っている際に、三輪龍二がマンションビルの屋上から、過(あやま)って転落したとしたら…

その帰りは、紡車紫織が一人で非常(避難)階段を降りて来たのであれば辻褄(つじつま)が合うが…

(実際は違っていた。)

その時の非常階段を 降りてきたのは 男女(だんじょ)二人だった…事を 妹尾錠治は、自分(妹尾)の(暮らす)マンションの エントランスの様なベランダで 煙草を吸いながら見ていたので…、その男の(方の)正体を紡車紫織に聞きたかったが…、その事を先に聞き出すと、他に聞き出したい事が聞き出せなく成るかと思い、(今は) あえて聞かずにいたのでした。

そして、妹尾錠治の紡車紫織に 対する質問は「ゴト具」についての内容で…更に掘り下げて聞いて行くのでした。

妹尾:『その「ゴト具」の形状だけど…「うまか棒」の様な形状で黒色でしたか…?』

紡車:『違うわぁ!』
妹尾:『違う?』
妹尾:『じゃあ、どんな形状だった?』
紡車:『そうねぇ、四角くて手のひらで包む様に握(にぎ)れるくらいの大きさで、ずっしりと重かったは…』

その話しを聞いた妹尾は、背広の内ポケットから煙草と一緒に愛用している「デイュポンのライター」を取り出して紡車紫織に見せた。

紡車:『そう、こんな感じ!』

紡車紫織は妹尾の取引出したデイュポンのライターを手に持ち…

紡車:『色は黒かったけど、本当、こんな感じだったわぁ!』

妹尾は紡車紫織の告白を聞きながら…心の中で驚いていた…
「ブラック•スティック」が「ブラック•デイュポン」に進化していたからである。

ゴト師が使う「ゴト具」は小型化すればするほど当然だが、そのゴト行為は発見されにくく成るからだ…、しかし短期間で小型する程の技術力の高い三輪龍二が作らせていた工場とは…いったい!どんな工場なんだろうか…

妹尾:『紫織さん、その「ゴト具」を作っている工場の名前と場所は覚えてる?』

紡車紫織:『えぇ、覚えてるわぁ』
紡車:『神戸のポートアイランドにある工場で…たしかぁ、久保製作所って工場だったわぁ』

妹尾:『久保製作所!だって…!』

……………………つづく……………………
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https://note.com/amanda0513hk/n/nd2e4b82463c7

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