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小説 『窓』 no,1

冬は寒く、夏は涼しい11階建ての細長いマンションは2階から10階まで各3室を持ち、多分11階は土地所有者の住居と思われる。

新居であるところの 3階の303号室は、他の301や302号室とは異なる2DKで…他は1DKの間取りの居住スペースなのである。

そもそも、私が ここに引っ越して来たのは 平成25年の『春』
友人ある倉崎聖士が経営する防犯対策機器の企画から製造そして卸販売までをしている会社で『 KMセキュリティ システム 株式会社 』が、そもそもの原因である。

彼(倉崎聖士)から『相談したい事がある…』との連絡があり、その二日後に東京の上野駅近くの彼の行きつけのキバクラに呼び出された時の話しである。

待ち合わせ場所が『キャバクラ』なんて…誰でも『…?』って思うかもしれないが、彼(聖士)が人混みに紛れて 結婚もせずに 四十に手の届く歳まで独身でいたことから…私には充分過ぎるくらいに納得できる待ち合わせ場所だった。

まぁ、それくらい彼とはビジネスを通して長い付き合いをしている同志の様な感じなのである。

聖士は仕事から解放され、何時(いつ)もの 大阪人らしいのりで、自虐(じぎゃく)ギャグを東京の夜を背景に ぶちまけながら…
お気に入りの子  数人 を肴(さかな)に酎ハイレモンをあおって私の来るのを待っている…

私を見つけると…
『ジョージ!』『こっち、こっち』と手招きする倉崎聖士が大声で…まったく 周りを気にしていない態度で 私の名前を呼ぶのだった。

このシーンは 彼と知り合ってから何度も見せ付けられて来たから、もう 慣れちゃっている。

ところで…
『肝心な相談の話しの内容って…』

倉崎聖士の話しとは…
彼の直属の部下であった役職者三人すべての同時退社と その後の彼らによる新会社設立計画が決まった直後の…
その穴埋め対策で…
彼なりの熟慮した結果での緊急対応としての 今回の行動であったと、吹っ切れた様にグラスのお酒をゴグゴク旨そうに飲みながら肴(ホステス)の女性を両脇に抱えながら騒いでいる。

少なくとも私には…そう見えたのだ。

それから暫(しばら)くして、場所をかえる事になり…
そこは 打って変わり、落ち着いた感じの小料理屋『紡車(つむ)』の2階で、たった1室しかない六畳の個室の中で人目を気にせずに、なんとなく懐かしく 美味しい秋田 比内(ひない)の田舎料理に包まれて『まったり』と寛(くつろ)ぎの時を過ごしていた。

そんな雰囲気の中で…

友人の聖士が、いきなり座り直して倉崎社長に変わって話しを切り出して来たのである。

そして…
いろんな彼なりの心境話を聞かされた後に…

いきなり好条件を私に突きつけて、半(なか)ば強引に 彼の会社が入っているオフィスビル近くの このマンションに 強制転居させられた様なものである。

とにかく、慌ただしい情勢下での引っ越しなので 私は引っ越し当日、自分の荷物を運び入れる この瞬間まで 全く引っ越し先の事は詳しくは聞かされておらず…と、言うよりは 聞く余裕すらもないくらいの慌ただしさの中で 彼の会社の倉庫に仮置きしておいた、私物入りの段ボール箱 数個の荷物を わずか徒歩で約5分先の このマンションに運び入れる作業から 私の初出勤の仕事が始まったのである。

まったく、どうしょうもない、この状況を説明するに ふさわしい笑い話がある…

私の荷物の 運び入れ作業を手伝う様に倉崎社長から 言われた 社員の佐倉井(さくらい)さんが、倉崎社長に言われ…
近くの不動産屋で 彼(倉崎社長)の言う、予算的条件に合うマンション見つけて報告する事から、この契約に関する全てのアシスタントを彼がしていたとの事で…
その時の話を聞きながら会社に置いてあった 手押し台車(2台)に荷物を全部乗せて、一緒に目的のマンションに向かって 少し広めの歩道を押し進んでいると…

佐倉井が…
『あれ…どのマンションだったかなぁ…?』
『確か、これだったと思う…』と、不安そうに つぶやき ながらエントランスに入ったのだが、彼は直ぐにマンションの入り口付近で 立ち往生し…
周囲を見つめ直しながらの…
振り向き様に 私に面と向かって…
『ごめんなさい!』
『実は僕も初めてなんです…』と言い出す始末…

私は佐倉井に向かって、
『なんで…』と、思わず聞く(と)…

彼(佐倉井)は、今回の役員3人件で急に仕事が忙しくなり、そんな中で 不動産屋に行き 建物の写真付き間取りと 地図上の住所を確認するだけで判断した物件だと、私に申し訳なさそうに話すのであった。

つまり、実際の建物や部屋の中の確認は 佐倉井は 元より倉崎社長も全く見てないとの事なのである。

『そりゃ間違えるなぁ~』と 私は声に出す手前で思った。

この あたり だけで、これだけの居住マンションビルが、同じような住所の中に たくさん並んで建っているんだから…
『しょうがない !』
もう、(私は) 笑うしかなかったのである。
結局、擦(す)った揉(も)んだして、写真で見覚えあるマンションビルにやっと無事に辿り着いた次第である。

実は…
必要な荷物は 事前に東京から大阪へ 宅配便を使って送るように倉崎社長から言われてて…
彼の会社に既に送ってあったのです。

それ以外の生活家電や家具は東京を離れる当日に、全て蜂蜜先生のトラックに乗せて…
そのまま彼に全て譲り渡したので、私は手荷物一つでサラリーマンの出張の様に新幹線に乗り込み10年ぶりに大阪に舞い戻って来たのである。

今から思えば、人生で最速の本当に簡単な引っ越しだった。

蜂蜜先生とは…北関東いちえんで有名な蜂蜜農園と蜜蜂レンタルの事業をしている、私の飲(食)友達の内の一人である。

彼(蜂蜜先生)とは…私が仕事の終わりに 毎日 通(かよ)って 夕飯をしていたところの 和食レストラン『万次郎』での 常連カウンター席の仲間である。

七十歳前後店主で 元気満々の聞き上手な万次郎さんとカウンター越しに 皆が会話を楽しみながら食事や酒を酌み交わす…
そんな間柄で…
平日ゴルフなんかも、万次郎さんを中心に カウンター仲間達で ワンメンバーをつくって よく行っていたものである。

私だけでなく、いつも酔っ払っている感じの小柄な蜂蜜先生こと馬渡(まわたり)のおちゃんが…その場に居るだけで、食事処『万次郎』のカウンター人達 皆が楽しくなるような人物である。

私の持つ ミツバチと蜂蜜に関する豊富な知識は…彼との友情の証でもある。

そんなこんな の 訳(わけ)で…

今ある全ての家電製品は…
最初の荷物入れの初入居日から遅れること…
3日後の日曜日に…
近くの有名家電量販店より直接すべて届けられて来たものばかりで…

しかも…まだ問題はあった…

布団はあるけど…
『ベッドが無い!』

畳の部屋が無い、フローリングだけの床部屋にベッドが無いのは、どこか寒々していて辛いものである。

この後(のち)、私はベッドを会社の車で大型生活(家具)用品店へ買いに行き…
自分で持ち帰って組み立てて眠る事になるのだが…

目覚めると、真っ直ぐな『朝の光』を顔全体に浴びていたのである。

普通の居住 玄関の扉であれば、寝室で寝ていても 朝から顔全体に光を浴びる事は無いだろうが…
部屋のつくりが 全て専有ベランダ側の透明度の高いガラス板の『窓』と『扉』を意識した様に作られている為に…

今度は…『カーテンが無い!』
前の居住先から持ってきたカーテンは全て丈が短く、ましてや玄関扉の上にも付いているカーテンレールに届く様な代物では無いのである。

新居(マンション)の間取りTypeは 通路からの入り口の扉は、通常の除き小穴一つが付いた上で、少し軽めのデザインが施(ほどこ)された鉄の扉だが…
その扉を開けて中に入ると、いきなり居住者用の専有ベランダになっている場所に出る。

だから室内に入る為には、更に 2・3歩進み、更に もう一つの扉を開(ひら)かないと入れないのである。

つまり、ダブルロックの鍵穴付きの玄関扉が二つあって、自分にとっての本当の玄関扉が…
外枠アルミ フレーム 以外の部分が、全て 下から上まで 透け透け『透明ガラス板』で作られている大きな『窓』なのである。

……本文no,2に つづく…らしい………

https://note.com/amanda0513hk/n/n3b9792c7812c

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