無意味な記憶(三朗編)
三朗は以前、警察に逮捕された経験が有る。もちろん三朗には違法な事は何一つしていない自信があったが…被害を訴える方(以前の仕事の関係者)がいたから…警察(刑事達)は早朝に押し掛けて来て部屋を物色すると…三朗を車に乗せて警察署に連行して取調室に監禁したので有る。
とにかく、無謀な逮捕であった。なぜなら、三朗を訴える本人が事業で使用してしまった金銭を…騙し取られたと警察に嘘っぱちを言って三朗を逮捕させていたので有る。取調室で警察の話を冷静に聴くことで…ようやく理解する事が出来た三朗は、(こんな事態を予想さえする事の無い、それまでの人生を生きて来ていましたから…)これが明らかな誤認逮捕である事の安堵からか…思わずの「少し笑み」が出てしまった。担当刑事は直ぐに事実確認を行うと、三朗のいる取調室に戻って来て…「もう一度、やり直すか…」と、訳の分からない言葉を吐き捨てた。
後で分かった事だが、警察(担当刑事)は誤認逮捕した場合は、当然の謝罪を表明し、その責任を取らなければ成らないのだが…それを大変 嫌う社会的立場に立って仕事を遂行している様で…全く世間の常識から離れてしまっていたのである。
要するに、自分達(警察サイド)は間違いを犯していないとの前提で…あくまでも疑われる三朗に問題が有ったとの事で…都合良く三朗を釈放へと導きかったのであった。
それが分かったのは、検察官との数回におよぶ…やり取り(取り調べ)の結果の末であった。
一般的には、検察官との取り調べの後で、取り調べ調書に、三朗のサインや拇印を求めるシーンが有るとの事なのだが…既に担当警察サイドからの事情を聞いていのか…一切その様なシーンが訪れる事は、三朗には無かったからである。
そして、その取り調べは…一方的に検察官が喋るだけの不思議な情景で有った。
とにかく、三朗に質問しても…三朗が少し考えて話そうとすると…それを遮るように、また検察官が喋り出すので有る。
こんな場面を結局は…14日間の勾留期間の中で数度も経験すると…否応なしに分かって来るのは…「ごめんなさい、間違って逮捕しちゃいました。」と素直に詫びる事の出来ない警察サイドと、それ(逮捕)を許可してしまった裁判所(官)との間に立つ検察(官)の絶対に許されない、起こしてはいけない罪(誤認逮捕や冤罪)の為だと理解するには、充分な時間と彼らとの「取り調べ」と言う名の元での会話(時間)が有りましたから…。
ただ、三朗が彼ら(警察、検察)を許せない事実が二つある。
一つ目は…勾留期間において、三朗の食べる食事の中に、二度に渡って薬を入れた事である。
その為に三朗の勾留の殆んどの期間が必要に成った(証拠隠滅)の明確だからです。
その薬とは…一度目は、三朗を一晩中…眠れない様にする薬を食事の中に入れ、二度目は…翌日に、三朗の意識が朦朧とする薬を取り調べの前の食事に入れた事である。
実際に行われた事実を隠蔽するために…本来は直ぐに釈放せれても良さそうなレベルの誤認逮捕内容(訴えた本人が、訴えている金銭を使用している事を…当初の時点で既に警察に認めてしまっていたからである。)
二つ目は…三朗が釈放せれると決まった日の事と、その釈放された後に再度の警察署への呼び出しをした時の事である。
具体的に話すと…三朗が釈放される日に三朗の勤め先の会社社長を迎えに呼んでいて…三朗の釈放に関しての条件としての「サイン」をさせていたからである。彼らは全く、まともな取り調べでの書類も作らない、作れない結果で有るにも関わらず…三朗をあくまでも被疑者(証拠不十分)として釈放した事を意味する行動を取った事である。
また、その後においての辻妻あわせの、呼び出しによる警察署での取り調べ(形式的な取り調べ)の際にも…勾留期間中に行った以上の脅迫するような(三朗が取り調べ室の中で、ビビらせる為の演出が行われた…)行動を取った事である。
具体的には…三朗の取り調べ室の隣の部屋で…壁を大きく叩き、あたかも他の誰かを取り調べしているかなの様な演出で…大声と、大きな音を出して…三朗と取り調べ官の立場が逆転しないように仲間の警察官が隣の部屋で一人芝居を演じていたのである。
この事も絶対に許されない事だが…更に…面白く無いのが…最後に取り調べ室から出て刑事達が集まって仕事をする部屋の外への扉を閉めた先で…担当刑事は三朗に「…ごめん…」と謝って来たのである。
これには、流石に我慢に我慢を重ねて二週間以上も不自由な、不条理な、人権無視した様な環境に耐えてきた、三朗の心と肉体に溢れ出す様な…金縛り的な怒りは爆発させる…「何で…こんな酷い事を…警察と言う密室の中で、当初より三朗が無実の罪で逮捕した事が、ハッキリ分かっているにも関わらず、ここまでの苦痛的な行動を計画的にするのか…と…」怒りは爆発して叫ぶ声も…わずかな言葉しか吐き出せないでいる自分(三朗自身)に情けなく…それでも未々言いたく、一度帰る手前の警察署の一階ホールから担当刑事のいる場所に戻ると…「御願いだから、もう帰ってくれ。」と言うので有る。「ごめんなさい」で今さら許せるならば…「この世に警察はいらない。」この感情は…密室の中で完全に…薬を飲ませた事さえも隠蔽出来る期間を稼ぐ為に…辛い思いをさせた担当刑事(警察)に一階ホールで本気に真面目に叫びたかった。何度かの…担当刑事が、早く三朗に警察署から出て行く様に促す行為と、ホールで叫びたい三朗の思いとが、ぶつかり合いする中で…担当刑事は…「頼むから帰ってくれ…本当に、もう全て終わったんだ。」と言うのである。
この瞬間、三朗の心(頭)に彼(担当刑事)の今までに見せなかった、追い込まれて困っている姿(弱々し人間性)を見せられたのだ。
結局、警察も人間なんだ…本当に詰まらん…間違ったら素直に謝る事の出来る環境を用意しないと…彼らは退職後も過去の自分達の過ちに…怯え、苦しむ事から離脱出来ない人生をいきるのである。「罪は決して自分を許さない。」結局は…ブーメランとして、本当に罪を犯した…その担当刑事に突き刺さって離さないのである。「警察の仕事は、人から嫌われる仕事」だと…当時の三朗の上司である社長の祖父が繰り返し、孫である社長に何度も何度も話していたと言う。三朗も同感できるのは…社長の祖父と同じ経験をしたからだと思った。