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Apple TV+のオリジナル映画12

去年iPadを買ったらApple TV+の1年間無料体験がついてきてたんだけど、しばらく存在を忘れてて、残り2か月ほどになったとこで慌てていろいろ映画を観てみた! オリジナル作品の数はまだそれほど多くないものの、良作揃いなので、月額600円のサブスクで集中して観るのもよいかも。ドラマには手が回ってないし、ユアン・マクレガーとチャーリー・ブアマンのバイク旅シリーズにも惹かれたのに途中までで時間切れ。そのうちまた戻ってきたい。

ウルフウォーカー

アイルランドのアニメーションスタジオ「カートゥーン・サルーン」によるケルト三部作の最後の作品。毎回アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされていて、質の高さとオリジナリティには定評がある。ストーリーは独立しているので、これだけ観てももちろんOK。
この作品だけは劇場公開時に観て、家でも何回もリピートしてた。手描きの質感を残した絵がとにかく美しく、まさに動く絵本! 鉛筆と水彩で描かれた生命力あふれる森と、硬質な版画のような街、どちらも目が釘付けになる。ブリュノ・クレとKiLaによる音楽もたまらなく良い。
「ウルフウォーカー」とは、眠ると魂が抜け出してオオカミになるというケルトの伝説が下敷きになっている。イングランドからやってきた狼ハンターの娘ロビン、森に暮らす不思議なメーヴ、2人の少女が狼になって森を疾走するシーンの爽快感といったら! 心の通じる友と出会ってじゃれ合う楽しさ、窮屈な街の暮らしから自然の中に解き放たれる自由さに胸が熱くなる。しかし街の支配者である護国卿が森へ侵略しようとしてきて平穏は脅かされ、少女たちは信念と友情にしたがって行動を起こす。
自然と人間との相剋というテーマは『もののけ姫』を連想させるし、生き生きした描線は『かぐや姫の物語』からも影響を受けているとか。簡単には結論を出せない難しいテーマだけど、その面ではちょっとおとぎ話的な展開なので、そういう意味でもやっぱり絵本っぽい。

カム・フロム・アウェイ

2001年9月11日、アメリカ同時多発テロが起こった日、アメリカの空港が閉鎖されたため多くの飛行機が各地で緊急着陸を余儀なくされた。カナダ・ニューファンドランド島にある人口9000人ほどの小さな町ガンダーで、7000人近い乗員・乗客を受け入れたという事実に基づいたトニー賞受賞ブロードウェイ舞台の映像化だ。
そういうテーマがミュージカルになるんだ…と半信半疑な気持ちで観始めたが、なにこれ傑作! ミュージカルにしか、舞台にしかできない表現に満ちている。
老若男女のキャスト12人が、ちょこっと衣装を変える程度で島民と乗員・乗客の両方を演じる。島民たちがカフェでいつもの朝を過ごしてたときにニュースが入ると、瞬時にして大混乱の管制塔になり、セットの椅子などを動かせばたちまち不安に包まれた機内の乗客たちに切り替わるのだ。素晴らしいスピード感! そして歌にのって、それぞれの人物の感情がダイレクトに胸に届いてくる。
テロの脅威はあるし、言葉や宗教が異なる人々が集まっているからトラブルも絶えない。そんな深刻な状況を描いているのに、意外なほど笑えるシーンも挟まってくる。島の民族音楽を取り入れたケルティックな響きの楽曲も絶品だ。
観終えたあとは、ヒューマニズムというものを信じられる、実に温かい余韻が残る。喪失と悲しみ、でも得たものだってある。これは9・11だけではなく、今回の感染症を巡る事態、さまざまな災害など極限状況を経験してきた我々みなに、痛いほどの共感を呼び起こす。

スワン・ソング

近未来が舞台で、車内販売ボットとか自動運転車とかカメラ付きコンタクトレンズとか、ちょっと進んだテクノロジーが出てくると、これApple製かな〜?とどうしても想像してしまうね。いかにもそんな感じのデザイン。
余命が長くないことがわかったキャメロン・ターナー(マハーシャラ・アリ)は、愛する妻(ナオミ・ハリス)と子を悲しみのなかに残さないために、身体も記憶もまったく同一に(ただし病気以外)再現した新たな自分と入れ替わるという選択肢が与えられる。
観ながらずっと、考え込んでしまった。オリジナル、コピー、どちらの気持ちを想像しても悩むしかない。身体組成も記憶も同じなら、それはアイデンティティの継続なのだろうか? ついでに忘れてしまいたい過去の記憶や余分な脂肪なども除去しといてほしいという邪念も湧いたが…。表情だけで複雑な思いが余すところなく伝わってくるマハーシャラ・アリの存在感がすごい。

ボーイズ・ステイト

アメリカでは毎年、州ごとに高校生を集めて模擬選挙を行う政治ワークショップが行なわれるという。この映画は2018年、テキサス州の少年たち1100人の一週間を追ったドキュメンタリーなのだが、想像を超えた面白さだった! フィーチャーされる少年たちのキャラが立ちまくってて、フィクションも真っ青なドラマに満ちていて、こんな瞬間あんな瞬間がよく撮れてたものだ…と制作陣を絶賛したい。
初対面の男子学生たちはランダムに架空の二大政党に分けられ、それぞれの党内で役割を分担し、協力して綱領を決め、最終的に知事選挙での勝利を目指す。もちろんみな選ばれし優秀な少年たちなのだろうが、堂々と理路整然と自分の考えをスピーチしたり、勝つための戦略を立てたりしてるから末恐ろしくてビビる。
見るからに切れ者なアフリカ系のレネ、障害を克服したからこそ自己責任論に傾倒しているベン、母親が非正規移民だったメキシコ系のスティーブン、カリスマ性があってノリのいいロバート。個性あふれる少年たちのあいだで政治が動いていく様は途轍もなくエキサイティングだ。演説で一気に支持が集まる瞬間、予備選挙で闘った同士がそのあと強力な盟友になるという展開、アツすぎる。
とくに印象に残ったのが、ロバート本人は中絶反対派ではないのに、保守的な土地柄を鑑みて「中絶禁止、銃所持」を打ち出していくところだ。さらっと「なぜ政治家たちが嘘をつくのかわかった」と言い放つ。そう、党としてまとまって選挙に勝つためには、個人の理念を押し通すだけではいられない。こういうことを肌で感じつつ、理想について考えていく体験というのはめちゃくちゃ身になるだろう。そして2021年、現実にテキサス州では中絶禁止法が施行されたという事実が重い。
一方で、男子学生を集めたらこういう盛り上がり方するよなぁというホモソ感も満載なのだが、ガールズ・ステイトも行われているということで、次はぜひ女子バージョンも見てみたい。

ゾウの女王:偉大な母の物語

もうね、これほど感動するものがほかにあるかってくらい感動した!
幻想的ともいえるほど美しい映像でケニアの大自然を映すドキュメンタリー、一瞬一瞬に胸が高鳴る。50歳のアフリカゾウのアテナが、メスと子供だけの群れを率いて過酷な干魃を乗り切る様子は、涙なしでは観られない。ナレーションはキウェテル・イジョフォー。
ゾウのまつ毛1本1本、泥に混じるメダカの卵、ゾウの足元できょろきょろ目を動かすカエルやカメまで、まるでその場にいて間近に見ているような臨場感。体力のない小さな子ゾウを群れのみなで気遣う様子、荒野にさらされた仲間の頭骨に鼻を伸ばす姿など、もの言わぬゾウたちの深い感情に触れられるような心地がする。
そのほか、迷子になりがちなガンのドジっ子ひな、フンコロガシの攻防、バッタを食べに飛んでくる鳥たちなど、ゾウの周りで生きる動物たちの多彩な姿も楽しい。よくこんな映像撮れたな〜と感嘆しきり。
なお、日本語の副題に「偉大な母」とついてるけど、むしろ「偉大なリーダー」だよね。確かにアテナには子供もいたけど、本質はそこじゃなかったので。経験と知恵を駆使し、苦悩しつつも難しい決断をくだすアテナさん、どこまでもついていきますっ!と言いたくなるぅ。

その年、地球が変わった

2020年3月、WHOがパンデミックを宣言し、世界のあちこちでロックダウンが行なわれるという未曾有の事態に至った。すると大規模な騒音が収まり、大気汚染が劇的に改善され、人間の移動や外出がいちじるしく減ったため野生生物たちの行動や繁殖にプラスの変化が起こったことを克明に記録したドキュメンタリー。48分と短尺ながらも濃密!
もうね、増えすぎた人間の存在が自然環境にとって害だったんだ…と、ここまではっきり見せられてショックというか何というか。この2年近くの感染症の流行は人類にとって大きな試練だったけれど、地球に生きる多様な生き物たち、長い目で見た気候変動への対策のことなどを考えると、ショック療法のようなものだったと言えるかもしれない。以前のような生活に戻ってはいけないのだ、より良い世界に変われる知恵と意志を私たちは持たなくては、と強く感じさせられた。
世界のあちこちで動物たちが生き生きしてる映像を見るのは、単純に嬉しい気持ちになる。静かな海でザトウクジラの会話が活発になり、親は子を安全な場所においてゆったりと食事できるようになった。何頭ものクジラたちが輪になって魚を追い込んで狩る様子は、神々しいまでの美しさに息を呑む。ケニアの草原では、今までは観光客の喧騒にかき消されていた、子を呼ぶ母チーターの声が響きわたる。ブエノスアイレスではカピバラたちが住宅街に出没。南ア・ケープタウンのペンギンたちは子育てがしやすくなって大わらわだ。奈良の鹿たちも、シカせんべいにありつけなくなってどうする!?というエピソードで出演してるよ。

ファゾム 〜海に響く音〜

深く広大な海のなかに、クジラたちの歌が響いている。人間の歴史よりもずっと古く4000万年前の太古から、歌は深海の暗闇を伝わっていき、クジラたちがコミュニケーションをとっている。
ザトウクジラと会話するためにアラスカの海にフェイク音源を沈めて反応を探るミシェル・フルネ博士と、遠く離れた海域へのクジラたちの歌の伝播を調べるためフランス領ポリネシアのモーレア島まで行くエレン・ガーランド博士、2人のクジラ研究者によるフィールド調査に密着したドキュメンタリー。調査というのは準備が大変だし、地道な作業の連続だし、失敗ややり直しも多いし、クジラの姿はほとんど遠くから眺めるだけだしで、映像としての起伏はあまりないんだけど、そのぶん、発見の瞬間には喜びがスパークする。いや〜、これ、人類として初めてわかったことなんだよね!? 世界はまだまだ知らないことだらけなんだな…と、この身のちっぽけさを感じてしまう。
とくにグッときた話は、クジラの歌に変化があると、それが周りの集団でも繰り返されて進化し、何百kmも離れた海まで同じ歌が伝わっていくのだという。クジラたちにも文化があるのだ。

Dads 父になること

監督はブライス・ダラス・ハワード、自身の父ロン・ハワードや祖父ランス、弟リードを含め、幾人もの父親たちから話を聞くドキュメンタリー。これが想像以上に笑いあり、涙あり、感動的で見応えがあった!
ウィル・スミスやジャド・アパトーら有名人のほか、子育ての大変さを動画配信して共感を集める主夫、難病を持って生まれた子に献身する父、養子を迎えたゲイカップル、仕事人間から転身した日本の主夫もいて、それぞれの思いを語る言葉は真摯で血が通っていて胸を打つ。そして名セリフのオンパレード!
「出産のとき母親はバットマンだが、父親はロビンでさえない。バットモービルのタイヤの1つかな」
「娘を高い高いして大笑いしてたら、口から口へゲロ直撃! でも反射的に投げ出したりなんかしなかった。そのとき自分は父親だと実感した」
「人生で至福のときは、子供のウンチを待つ静かな時間。そして出たら祝福する」
生き方が多様になった現代では、良い父親とはどういうものかと誰もが手探りしていて、全力で子供に関わることで何ものにも代えがたい喜びを受け取っている。その一人ひとりの姿が光り輝く。

フィンチ

タイトルの「フィンチ」は、ロボットのことかな?鳥?と思ってしまったけど、トム・ハンクスの役名。アメリカ映画にはこういう主人公の名前どーんというタイトル、けっこう多いよね〜。
太陽フレアの影響で荒廃した未来の地球で、ロボット技術者のフィンチと犬と手作りロボットが旅に出る。ストーリーとしてはオーソドックスな感じだが、トム・ハンクスが孤独にサバイバルしながら犬をかわいがる図というのは、もうそれだけでグッとくる。
ロボットはできたばかりだがけっこう人間ぽい。と思ったら、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズのモーションキャプチャなのか〜。知識だけある赤ちゃんみたいなものなのに、トム・ハンクスに「常識をもて」「失敗するな」と叱られてばかりで、でも頑張っててけなげだよ。

チェリー

大学を中退して米陸軍に入り、イラク戦争を体験したあとにPTSDに苦しめられ、ドラッグ漬けになり銀行強盗を繰り返す主人公をトム・ホランドが演じる。
ひたすら苦しみ、堕ちていく姿が辛い…。スパイダーマンをイメージしているとギャップでショックを受けちゃうよ! 本来ならあんなふうに明るく前向きに生きていけたかもしれない青年が、夜中にうなされ、無気力に陥り、目先のドラッグのことしか考えられなくなる。トム・ホランドも妻役のシアラ・ブラヴォも童顔でさわやかな外見だから薄まっていた気がするが、2人の暮らしはかなり凄惨だ。
そんな重苦しい内容だが、主観を強調したような映像はスタイリッシュで、なんだか乾いた感じが印象に残る。

ハラ

カジュアルな普段着にヒジャブ、音楽を聴きながらスケボーで登校する17歳のハラ。両親がパキスタン移民のムスリム家庭で、自身はアメリカの自由な空気を吸って育っているから、常に2つの文化を行き来する葛藤がある。
というと特殊な話に聞こえるかもしれないが、弁護士として活躍する父親とクロスワードや文学の話に興じたり、自身は高等教育を受けられなかった母親から戒律を守るよう口うるさく言われて反発したりする様子は、どこの家庭でも見られそうな光景だ。学校に行けば、気になるクラスメート男子と詩やスケボーを共通の話題として距離が縮まったりもする。
伝統的な価値観と自由な世界とのぶつかり合い。家庭内のある秘密が露わになることから、両親の姿が違って見えるようになっていく過程が鮮やかだ。授業でイプセン『人形の家』を読み解くのが象徴的なんだが、自分の解放を手探りしていく、十代の揺れる心が繊細に描かれている。

オン・ザ・ロック

ソフィア・コッポラ監督の作品はあまり趣味じゃないんだけど、映像がおしゃれなのは間違いないし、「ほ〜ん別世界ではこういう華やかな人たちが生きているのか〜」的な興味は満たされる。
ニューヨークで幼い娘2人を育てて4人暮らし、仕事はスランプ気味の作家ローラ(ラシダ・ジョーンズ)が、夫の浮気疑惑に悩んでいたところ、遊び人の父親(ビル・マーレイ)が調査しようと乗り出してくる。なんとか娘の役に立ちたい父親にあっちこっちと振り回される様子はコメディタッチ。そもそもこの父親、愛人がいてローラと母親を苦しめた過去があるのだ…。かなりウザいけどチャーミングで、なんだかんだ憎めない父親はビル・マーレイならではの好演。

以上12作、私が観たApple TV+オリジナル映画でした。
それにしても良作揃いで、どれもおすすめ!
もっと劇場公開もすればいいのに〜。

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