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短編小説

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夢から着想を得ることが多いです。
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#365日

箱(短文)

夫がゴディバを持って帰った。 大小さまざま、いくつかの明らかに義理チョコと分かるパッケージに混じってゴディバの艶やかで高価な箱の外見が目を引く。夫はこういう所にそつがない。自分が持って帰るチョコレートは一切全くやましいことなどないという顔をして、テーブルの上に無造作にばらばらと投げ出すように置いた。目をそちらへ向けただけでも、横倒しになった箱の一つだけ抜きんでて目立つ絹のような肌触りの紙質、翌日になった今もそこに置かれたままになっている。窓から挿す太陽の位置が変わるたびにかす

青に染まりながら(詩)

飛行機雲を指差して 道行く人が次々に見上げた 鮮やかに映えた白い筋は みるみるうちにとけて消えていく 青は侵食する 青は広がる 青は飲み込んでいく 悠々とからだをのばし 我はここだ、ひとつだと なかったことのように うそぶいた その青に指をひたし すくって飲めば わたしもからだの中から青に染まり 青にひたり 青に姿を変え だが目を閉じればよみがえるのは 天頂を真っ二つに割る 白の軌跡

アリスの鏡(幻想系・短編小説)

鏡に手を当てたら霧のようにとけた。そのままからだごとすりぬけてゆっくり入る。目をつぶって、顔から浸けて手を差し出して前をさぐりながらゆっくりと足を踏み入れる。大きな鏡だ。目を開くと重々しい書斎の中に立っていた。 鏡ごしに見たときは同じなのに、こうして入ってみればそこはまるで違う場所だった。 どこがどう違うのか、腕を組んで粗を探すように四隅から窓の外まで眺め渡す。誰もいない。音はすべてそこかしこに厚く浮かぶ空気の層に吸い取られてしまう。鏡を抜けたときの霧がまだもやのようにわ