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短編小説

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夢から着想を得ることが多いです。
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#ショートストーリー

秘密機械(ナンセンス・短編)

休憩室で女子が三人、二人は食べ終わったカップ麺をほったらかしで肩を寄せ合ってうわさ話をしている。一人は椅子に深く背中を預けて、携帯を見ながらそれを聞いていた。 「本山くんの秘密機械の話を知ってる?」 「知らない」 休憩室のガラス張りのドアから見える扉を目でさした。 「本山くんの、命から十五番目ぐらいに大事にしてる秘密機械があるんだけど」 「けっこう順位低いね」 「すごいことが起きて、時空が反転しちゃうんだって!」 顔が近い。 「そんなことが起きちゃったら大変じゃん」

オレンジ色のひまわり(短編小説)

これはわたしのママの話です。 私のママはいつもちょっとだけ狂っている。 *  *  * ピアノのお稽古からの帰り道、手をつないでのんびり歩いていると母が突然立ち止まった。 「大変!」 「ママどした?」 「ルリもう八歳だよ?」 「それがどうした」 ルリアは母の子供っぽい仕草に対してたまに大人みたいな口をきいた。 さっきまでご機嫌で鼻歌を歌っていたのに、母はルリアの手を離すと頬を両手で押さえた。 「八歳ってことは、もうあと一年で九歳になっちゃう、そしたらすぐ十歳!」 「

こども裁判(短編小説)

裁判長:しいなちゃん 原告人:ぷうくん 被告人:マモ 弁護人:サキ 検察官:じょうた 第一回法廷 事の始まりはこうだった。 さるやま公園でぷう君がゲームの新しいソフトを落としたのだ。 それをマモが拾ってポケットに入れ、家に持って帰ってしまった。 かなりまずい出来事だった。 次の日、学校で裁判が開かれた。 この裁判は親も教師も他の子も知らない状態で休み時間に行われた。 秘密にしたわけではなく、単純にだれも興味をもたなかった。 裁判はなかなか先に進まなかった。 原告

路地裏のメッセージ(短編小説)

閉店間近の雑貨店で、白髪の店主はクローズドの札を下げてやれやれと肩をひとしきりもんだ。 今日はまあまあの人の入り、でも午後になるにつれて暇になっていき、最後はほとんど居眠りをしていたかもしれない。 それはあんまりソフトな音だったので最初は気づかなかった。 たん たん たん 雨でも降ってきたのかとすりガラスに暗い窓の外を覗いてみた。 雨粒が当たっている気配はない。 タン タタン だし だし さっきよりも強めの音がした。 辛抱強くいつまでも定期的に。 取るまで鳴り続け