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短編小説

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夢から着想を得ることが多いです。
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#小説

はじめての140字小説。お笑い芸人とおっさんの友情

ずっと140字小説に憧れがあったので、いつかやってみたいなと思っていた。 近況を報告すると、何だか無茶苦茶に忙しくなってしまっていて、フルタイムの仕事の過酷さを思い知らされています。 140字では終わらないのが悲しいへっぽこ物書きの性で、起きた時は続き見せて~~!な気分だった。 自分が男性になっている(独身、中年に近い、恋人なし、一人暮らし)夢というのが好きで、まさに異世界を体験しているようでとても楽しい。 何となく女性というのは、気を付けなければならなかったりわずらわし

奥さんの言うことはいつもよし(現代おとぎ話)

ある所に夫婦がおりました。 ある日旦那さんがハゼを釣ってきて、料理をすることになりました。 奥さんは「わたしがやろうか?」と言いましたが、旦那さんはむきになって自分でハゼをさばき、塩こしょうをふって粉を付けました。 調味料や粉は、そこらじゅうにとびちりました。 旦那さんは熱した油にハゼを乱暴に投げ込んだので、今度は油がとびちります。 「油はねガードをした方がいいんじゃない」 奥さんが言いましたが、だんなさんは言うことを聞きませんでした。 油はますます周囲に飛び散りました。

秘密機械(ナンセンス・短編)

休憩室で女子が三人、二人は食べ終わったカップ麺をほったらかしで肩を寄せ合ってうわさ話をしている。一人は椅子に深く背中を預けて、携帯を見ながらそれを聞いていた。 「本山くんの秘密機械の話を知ってる?」 「知らない」 休憩室のガラス張りのドアから見える扉を目でさした。 「本山くんの、命から十五番目ぐらいに大事にしてる秘密機械があるんだけど」 「けっこう順位低いね」 「すごいことが起きて、時空が反転しちゃうんだって!」 顔が近い。 「そんなことが起きちゃったら大変じゃん」

ことりとねこと(喧嘩の歌)

小鳥が7匹おりました ぱっぽーぱっぽーぱっぽっぽー 子猫がことりをつかまえに にゃーんにゃーんにゃんにゃんにゃん あっという間ににげました ばっさばっさのばっさっさ そのうち三びきつかまって 一生懸命逃げました ははどりおこってなきました こけこっこけこっこけこっこっ · めんどりこねこをおいまわし こねこはおびえて母ねこに 母ねこめんどりひっかいて フーッフーッシャーシャーシャー そしたらめんどり鷹をつれ ケーンケーンケケケンケーン 母ねこゆうかんたたかった

What a day 今日はなんて日(短編小説・ダーク)

ひまだ。 寝転んでテレビを見ながら、彼はシャツ一枚になって長く体を伸ばした。 妻が食器を洗いながら後ろから言う。 「看護士さんのお友達がね、ここまで何とか抑えているのは、日本人が持つ普段からの衛生意識と無関係ではないと思うって言ってた」 「ここまで大変なことになるとはね」 うちの会社いつまで持つかな、と言おうとしてやめた。不安にさせても仕方がない。ストレッチをしながら見上げると、対面式のキッチンカウンターからこちらを見下ろしている妻と目が合った。 妻はにっこり笑う。 「頑張ろ

白い獣(ホラー短編)

雨の夜道を車で走るのはどこか薄気味悪く、自分の居場所を正確に把握できなくなる。こことは違う別世界に向かう道のりのようだった。 俺は眠かったけどどうしても眠れずに、助手席でほとんどうずくまるようにして前を見ていた。 そのうち、運転をしている友人がちらちらサイドミラーを見るのに気がついた。 気にしないようにして目をつぶろうとしたが、かえって目は冴えてくる。 俺は体を起こしてちらっと助手席側のサイドミラーを覗いてみたが、後続車は一台もいない。 神経過敏で細心なやつだから確認するのが

箱(短文)

夫がゴディバを持って帰った。 大小さまざま、いくつかの明らかに義理チョコと分かるパッケージに混じってゴディバの艶やかで高価な箱の外見が目を引く。夫はこういう所にそつがない。自分が持って帰るチョコレートは一切全くやましいことなどないという顔をして、テーブルの上に無造作にばらばらと投げ出すように置いた。目をそちらへ向けただけでも、横倒しになった箱の一つだけ抜きんでて目立つ絹のような肌触りの紙質、翌日になった今もそこに置かれたままになっている。窓から挿す太陽の位置が変わるたびにかす

アリスの鏡(幻想系・短編小説)

鏡に手を当てたら霧のようにとけた。そのままからだごとすりぬけてゆっくり入る。目をつぶって、顔から浸けて手を差し出して前をさぐりながらゆっくりと足を踏み入れる。大きな鏡だ。目を開くと重々しい書斎の中に立っていた。 鏡ごしに見たときは同じなのに、こうして入ってみればそこはまるで違う場所だった。 どこがどう違うのか、腕を組んで粗を探すように四隅から窓の外まで眺め渡す。誰もいない。音はすべてそこかしこに厚く浮かぶ空気の層に吸い取られてしまう。鏡を抜けたときの霧がまだもやのようにわ

オレンジ色のひまわり(短編小説)

これはわたしのママの話です。 私のママはいつもちょっとだけ狂っている。 *  *  * ピアノのお稽古からの帰り道、手をつないでのんびり歩いていると母が突然立ち止まった。 「大変!」 「ママどした?」 「ルリもう八歳だよ?」 「それがどうした」 ルリアは母の子供っぽい仕草に対してたまに大人みたいな口をきいた。 さっきまでご機嫌で鼻歌を歌っていたのに、母はルリアの手を離すと頬を両手で押さえた。 「八歳ってことは、もうあと一年で九歳になっちゃう、そしたらすぐ十歳!」 「

こども裁判(短編小説)

裁判長:しいなちゃん 原告人:ぷうくん 被告人:マモ 弁護人:サキ 検察官:じょうた 第一回法廷 事の始まりはこうだった。 さるやま公園でぷう君がゲームの新しいソフトを落としたのだ。 それをマモが拾ってポケットに入れ、家に持って帰ってしまった。 かなりまずい出来事だった。 次の日、学校で裁判が開かれた。 この裁判は親も教師も他の子も知らない状態で休み時間に行われた。 秘密にしたわけではなく、単純にだれも興味をもたなかった。 裁判はなかなか先に進まなかった。 原告

路地裏のメッセージ(短編小説)

閉店間近の雑貨店で、白髪の店主はクローズドの札を下げてやれやれと肩をひとしきりもんだ。 今日はまあまあの人の入り、でも午後になるにつれて暇になっていき、最後はほとんど居眠りをしていたかもしれない。 それはあんまりソフトな音だったので最初は気づかなかった。 たん たん たん 雨でも降ってきたのかとすりガラスに暗い窓の外を覗いてみた。 雨粒が当たっている気配はない。 タン タタン だし だし さっきよりも強めの音がした。 辛抱強くいつまでも定期的に。 取るまで鳴り続け

ねこふりの日  (短編)

 ねこが落ちてきた。  ぽとんと。  次は毛が頬に当たった。  ふわふわ。  ふわり。  最初に着地した灰色のねこはコンクリートとほとんど同化している。黒いねこは壁のしみのようにしがみついている。  キジトラの縞模様は目立つようで迷彩になっているから、庭木に落ちるとすぐ見えなくなる。  あとからあとから、次々に落ちてきた。  うわぁ。  人々は口々にしかめっ面で見上げる。  まいったなこりゃ。  ひどいもんだ。  うそでしょ~!  毛が付くから嫌なんだよね。  は