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短編小説

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夢から着想を得ることが多いです。
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#ホラー

白い獣(ホラー短編)

雨の夜道を車で走るのはどこか薄気味悪く、自分の居場所を正確に把握できなくなる。こことは違う別世界に向かう道のりのようだった。 俺は眠かったけどどうしても眠れずに、助手席でほとんどうずくまるようにして前を見ていた。 そのうち、運転をしている友人がちらちらサイドミラーを見るのに気がついた。 気にしないようにして目をつぶろうとしたが、かえって目は冴えてくる。 俺は体を起こしてちらっと助手席側のサイドミラーを覗いてみたが、後続車は一台もいない。 神経過敏で細心なやつだから確認するのが

逢魔が時(ちょい怖短編)

「今日ねおかしなことがあったんだよ」 送迎の車に乗るなり、中学生の娘は興奮したように喋りだした。 「さっきそこに止まってた車、うちのにそっくりなの。シートも一緒で番号も一緒だったの。うちは『ひ59』なのにそこの車は『ほ59』なの。ちょっとお母さんがここに来てんのかなって思った」 車はもう動き始めて車線に乗ってしまった。右折サインを出して曲がるタイミングを見計らっているのに、対向車線の列はなかなか途切れない。 慎重にハンドルを捌《さば》いても、娘は話し続けている。 「