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短編小説

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夢から着想を得ることが多いです。
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オレンジ色のひまわり(短編小説)

これはわたしのママの話です。 私のママはいつもちょっとだけ狂っている。 *  *  * ピアノのお稽古からの帰り道、手をつないでのんびり歩いていると母が突然立ち止まった。 「大変!」 「ママどした?」 「ルリもう八歳だよ?」 「それがどうした」 ルリアは母の子供っぽい仕草に対してたまに大人みたいな口をきいた。 さっきまでご機嫌で鼻歌を歌っていたのに、母はルリアの手を離すと頬を両手で押さえた。 「八歳ってことは、もうあと一年で九歳になっちゃう、そしたらすぐ十歳!」 「

託宣の人(短編小説)

 畳の部屋から廊下に出た。  素足の下で冷たい木がきしむ。  庭園に面した離れ家へ長い廊下が続いているのが見えた。  さきに行っていた二人が入り口で私を手招きしている。  廊下からは、広大な日本庭園が一望できる。  あのぽつんと離れた東屋(あずまや)か茶室のような場所からはなお美しい庭を堪能できるだろう。  身をかがめて鴨居の下をくぐる。  ここなら一息つける。  私たち三人は外の騒乱から逃れてここに来た。  何気ない抗議行動の体(てい)を装って始まった騒乱が、この