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短編小説

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夢から着想を得ることが多いです。
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2020年3月の記事一覧

白い獣(ホラー短編)

雨の夜道を車で走るのはどこか薄気味悪く、自分の居場所を正確に把握できなくなる。こことは違う別世界に向かう道のりのようだった。 俺は眠かったけどどうしても眠れずに、助手席でほとんどうずくまるようにして前を見ていた。 そのうち、運転をしている友人がちらちらサイドミラーを見るのに気がついた。 気にしないようにして目をつぶろうとしたが、かえって目は冴えてくる。 俺は体を起こしてちらっと助手席側のサイドミラーを覗いてみたが、後続車は一台もいない。 神経過敏で細心なやつだから確認するのが

箱(短文)

夫がゴディバを持って帰った。 大小さまざま、いくつかの明らかに義理チョコと分かるパッケージに混じってゴディバの艶やかで高価な箱の外見が目を引く。夫はこういう所にそつがない。自分が持って帰るチョコレートは一切全くやましいことなどないという顔をして、テーブルの上に無造作にばらばらと投げ出すように置いた。目をそちらへ向けただけでも、横倒しになった箱の一つだけ抜きんでて目立つ絹のような肌触りの紙質、翌日になった今もそこに置かれたままになっている。窓から挿す太陽の位置が変わるたびにかす