シェア
「今日ねおかしなことがあったんだよ」 送迎の車に乗るなり、中学生の娘は興奮したように喋りだした。 「さっきそこに止まってた車、うちのにそっくりなの。シートも一緒で番号も一緒だったの。うちは『ひ59』なのにそこの車は『ほ59』なの。ちょっとお母さんがここに来てんのかなって思った」 車はもう動き始めて車線に乗ってしまった。右折サインを出して曲がるタイミングを見計らっているのに、対向車線の列はなかなか途切れない。 慎重にハンドルを捌《さば》いても、娘は話し続けている。 「
畳の部屋から廊下に出た。 素足の下で冷たい木がきしむ。 庭園に面した離れ家へ長い廊下が続いているのが見えた。 さきに行っていた二人が入り口で私を手招きしている。 廊下からは、広大な日本庭園が一望できる。 あのぽつんと離れた東屋(あずまや)か茶室のような場所からはなお美しい庭を堪能できるだろう。 身をかがめて鴨居の下をくぐる。 ここなら一息つける。 私たち三人は外の騒乱から逃れてここに来た。 何気ない抗議行動の体(てい)を装って始まった騒乱が、この