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エッセイ|初めての海外旅行

高校生の頃の話です。

 僕は、修学旅行で初めて海外へ行きました。場所は、イギリス。大英博物館に行ったり、現地の学校を訪問したりしました。

 当時、僕は英語が一番得意な教科でした。
でも、人前で英語を話したことはありませんし、リスニング力も低かったと思います。だから、イギリス人と英語で話すのは大変でした。ゆっくり話してもらうのですが、それでも聞き取れませんでした。

 印象的だったのは、イギリスの現地校への訪問でした。簡単な算数を習ったり、理科の授業でスライムを作ったりしました。それでも、先生の英語はかなり早口で、これが本場の英語なのかと思い知らされました。

 特に面白かったのは、理科の授業です。
その授業では、さまざまな色のスライムを作りました。実験の後は、座って、先生の授業を聞く一般的な授業だったのですが、そこで面白いことが起こります。

 スライムの投げ合いです。
暗黙のルールで、スライムに当たったら、負けとなっていました。まさに、イギリスvs日本の国際戦でした。

 ここまでは、本当に楽しかったです。そして、その直後に悲劇が起こるなんて、僕は一ミリも想像していませんでした。

 その夜、僕たちはホテルに泊まりました。
ホテルでは、同じ班の友達とツインの部屋に泊まることになっていました。友達は、自分たちの部屋へ入るとすぐに、

「班長会があるから、ちょっと出てくるわ。お風呂沸かしておいて」
と切り出しました。

「オッケー。まかせて」

 僕は、お風呂を沸かし始めました。
それぐらい朝飯前です。すると、僕はこんな事を思い始めます。

ひとりじゃ退屈だなぁ。
友達の部屋に行こう。
少し話して、戻ってくればいいや。

 海外で、携帯は使えませんでした。
おまけに、テレビもぜんぶ英語だったので、全く楽しめなかったのです。僕は、隣の友達の部屋に行くことにしました。そのとき、「10分ぐらいだったら大丈夫だろう」と鷹をくくっていました。

 実は、この日、2011年3月11日でした。
そうです。あの日本中を襲った大災害「東日本大地震」の真っ只中だったのです。

 友達の部屋に入ると、いつものメンバーが集まっていました。テレビの前で、みんな釘付けになっています。イギリスのニュース番組から流れてきた映像は、凄まじいものでした。

 船やら家やら、とにかく大きなものが海に流れている映像でした。そんな悲惨な映像が流れ、僕たちは言葉を失っていました。しだいに、イギリス旅行を楽しんでいる場合じゃないという思いに駆られました。

 日本のニュースが終わると、とうに30分が過ぎていました。

 僕は沸かしていたお風呂のことを思い出し、駆け足で部屋に戻りました。

 しかし、時すでに遅し。
部屋に入ると、入り口付近まで水浸しになっていたのです。

 とりあえず、フロントに電話をしました。でも、英語で何て説明したら良いか分かりません。

ウォーター。ウォーター。ウォーター。

 拙い英語で、ウォーターだけを連呼しました。向こうも返答してくれましたが、英語が難しくて、聞き取れません。

 待っていると、ホテルのスタッフの方が来てくれました。手元を見ると、水を持っていました。

「そういう事じゃないんだ」

 心のなかで、そう叫びました。
これも、拙い英語力のせいなので、どうしようもありません。

 それから、添乗員さんが駆けつけてくれました。
どうやら、同じ班の友達が、僕が慌てふためいているのを見て、連絡してくれたようです。そして、添乗員さんの臨機応変な対応により、なんとか難を逃れました。

 当時の添乗員さんには、感謝しかありません。

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