見出し画像

[小説] 塾の勧誘

 連作短編「塾講師日誌」です。気の弱い大学生、多田一輝が塾講師にチャレンジする物語です。今回は、1話『塾の勧誘』です。
 話の続編を定期的に更新していきますが、一つひとつの作品は独立しているので、前のエピソードを読んでいなくても、読み進められるようになっています。
 今回、はじめて小説を書きました。文章は稚拙ですが、最後まで読んでもらえると嬉しいです。

多田一輝(かずき)は、平凡な大学生であった。特別何か特技があるわけでもない。あるとすれば、人よりもリフティングができることくらいだ。

小学生の時からずっとサッカーをしてきた。それでも、めちゃくちゃ上手というわけではなく、ただ他の人よりもちょっとだけ得意なだけだ。試合にも、たまに出してもらえる程度で、いわゆる補欠である。

集団行動は苦手で、いつも他人の顔色を伺っている。自分が何か問題を起こしたせいで人に迷惑をかけてしまうのが何よりも怖いのだ。「すいません」が口癖で、何かにつけて謝ってばかりいる。

そんな僕だが、唯一自慢できることがある。それは、可愛い彼女がいること。同じ学校の大学1年生で、もうすぐ付き合って3ヶ月が経つ。しかも、告白は向こうからだった。

そんな自慢の彼女と食堂でお昼ごはんを食べていた。気づいたら、周りの視線は彼女に集まっている。いつものことだ。

たまに考え込んでしまうことがある。それは、何で僕を選んでくれたのかということ。もっとかっこいい人がいるのに。最近は、そんなことで悩んでいる。誰かに誇れることを見つけたい。みんなから認められたい。自分が彼女と釣り合う男になる方法をひそかに探っていた。

食べ終わると、いつものように食器をおばちゃんに返し、「ごちそうさまでした」と言って食堂を出る。外に出ると、校内は人で溢れていた。サークル勧誘のイベントをしているらしく、多くの学生が行き来していた。

よく見ると、明らかに学生ではないスーツの大人たちがいる。彼らは、疲れきった顔つきで、学生たちにチラシを配っている。何かの勧誘だろうか。

自分には関係がないだろうと素通りすると、スーツの男が声を掛けてきた。
「塾の先生になってみませんか?」
とても丁寧な物言いで、かなり腰が低い。お願いに弱い僕はとりあえず話だけ聞いてみることにした。

まずは、自己紹介から話が始まった。
「はじめまして、進学塾KOLのエリアマネージャーの松岡と申します。複数の教室を管理をするお仕事をしています」
次に、僕も自己紹介をした。彼女も一緒に聞いていたのだが、興味はなさそうだ。

松岡さん曰く、塾には3種類のパターンがあるらしい。ひとつは、集団授業。大人数を前に黒板を使って授業をする一般的な塾だ。次に、個別指導。2、3人の生徒を相手に、それぞれひとりひとりに合わせて指導を行う。最後に、1対1指導。これは、生徒1人に先生1人で授業を行う。生徒と対話を通して、ひとりひとりに合わせたオーダーメイドの授業をする。

松岡さんが所属しているKOLは1対1の指導と集団授業の両方を運営していた。そして、僕が勧誘されているのは1対1指導の方らしい。塾のバイトは、大学生も多く、アットホームな雰囲気で、時給も高い。松岡さんの話を聞いていると、なんだかやっていけそうな気がしてきた。

もちろん、誰かにちゃんと勉強を教えたことはない。テスト前に友達に聞かれた質問に答えていた程度だ。ただこれまで、ずっと真面目に学校の授業を聞いてきた。小学校から高校までの12年間でサボったことは一度もない。だから、今度は僕が教える番かもしれない。

松岡さんの話を聞くうちに、胸の中の熱い気持ちがこみ上がってきた。これまで失敗を恐れて、チャレンジすることから逃げてきた僕にとって最後のチャンスかもしれない。そうだ、一歩踏み出そう。挑戦を心に決めた僕は、とうとう話を切り出した。

「ぼく塾の先生になります。」

「ありがとうございます。それでは、面接とテストがあるので、日程を調整させてもらってもいいですか」

まだなれるわけではないらしい。当たり前か。僕は声高々に宣言したことが恥ずかしくなった。隣で聞いていた彼女も笑っていた。

僕は松岡さんと日程調整をして、来週に塾講師の面接が決まった。ここから僕の塾講師としての挑戦の日々が始まる。

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

続きはこちら!!

サポートして頂いたお金で、好きなコーヒー豆を買います。応援があれば、日々の創作のやる気が出ます。