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超短編小説|カプセルホテル

ショートショート(超短編小説)を書きます。タイトルは、『カプセルホテル』。20XX年、人類が災害や感染症によって、住む場所が制限されるようになった。住む家も制限され、帰る場所はカプセルホテルとなった。父と一緒に住む僕は、毎日同じような生活を送っていた。

「ただいま」
「おかえり」

僕は、父といつもの挨拶をすると、寝床へ入った。そこからは、会話は一切ない。あるとすれば、スマホのメッセージ機能で話すくらいだろう。

カプセルホテルの生活は、5年ほど前から始まった。度重なる災害や感染症により、人々が住める場所が制限されていた。

今では、立入制限区域がいくつも存在している。また、たとえ住める場所であっても、自由に行動することは許されていない。

海外旅行なんて夢のまた夢だ。ただ、たとえ海を越えたとしても、置かれている状況は同じだ。きっと僕たちと同じ景色しか見ることができないだろう。

以前流行っていた動画配信サービスも完全に廃れていた。動画で観ることのできた、美しい景色も、人々の楽しい営みも、今となっては幻想でしかない。

僕は、小さな自分の部屋でラジオを聴いていた。普段目にする光景が同じ色で染まっているからこそ、人々の個性的な声や面白い話に魅了された。

ラジオを聴きながら、眠りに落ちる。毎日が同じことの連続だ。

❇︎

それから10年が経ち、ようやく以前の生活に戻ることができた。移動の自由を許され、外に出て自由に行動をすることができた。不自由な生活が始まってから、15年ぶりのことだ。

自由にしていいと言われても、何をすればいいのか分からない。外に出ても、楽しいことがあるわけもなく、僕はいつものようにホテルに帰った。

「ただいま」
「おかえり」

僕は、父といつもの会話をし、寝床へと入った。スマホを開き、イヤホンを付け、ラジオに耳を傾ける。

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