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超短編小説| 2070年の整形時代

 私の朝は、発声練習からはじまる。目を覚ますと、伸びをして、カーテンを開けて朝日を浴びて、太陽に向かって大きな声を出す。

まままままままー、まままままままー

 これが朝の日課である。憧れのあの声になりたくて、日々練習をしているのだ。楽に声を変える方法があればいいけど、そんなに甘くはないらしい。
 練習を終えると、鏡を見ながら、整形を始めた。今日はどんな顔になろうかしら。私の生きる2070年の世界は、整形が日々の生活の一部として溶け込んでいる。専用のパックを使えば、手軽に家でできるから、みんな毎朝好きな顔に変身する。
 少しお金をかければ、美容室で少し手の込んだ整形もしてもらうことができる。しかし、学生の私がそんな高価なサービスに手が届くわけがない。私は、薬局に売っている普通の整形をしていた。

 テレビをつけると、朝の情報番組をやっていた。そこには、美男美女が映し出されていた。みんな同じような顔が並んでいるので、見てもあまり面白くはない。
 忙しい朝にはもってこいだ。画面に気を取られていると、支度に余計な時間がかかってしまい、学校に遅れてしまうからだ。私は、テレビの声だけに耳を傾け、ささっと制服に着替えた。

 学校へ行っても、たいていは同じ顔だった。それも無理はない。みんな薬局で売っている安いパックだから、かぶってしまう。学校にそぐわない高価なパックで整形する人もいるが、"顔面検査"で見つかるとこっぴどく怒られる。
 私はいつもの教室へ入ると、また男子たちが変な整形をしていた。ゾンビや死神の顔をして、周囲を怖がらせている。ネットショップで買ったのだろう。あとで生徒指導の先生に呼び出されるのがオチだ。

 学校が終わると、友達と好きな男の子の話題になった。
「慎二くんの声かっこいいよね」
「わかる。大人っぽいというか、渋いというか」
「私には、釣り合わないわ」
「そんなことないよ。春香の声だってすてきよ」

 整形が一般化したこの世界では、顔が可愛いのは当たり前だった。みんな考えることは同じで、ひとつの可愛い顔が流行れば、みんなその顔に変身する。

  だから、男の子にもてるために、今日も習いごとの「声教室」で声を鍛える。憧れの声になるために。

まままままままー、まままままままー

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