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超短編小説|みらい占い

ある晴れた日の朝。男はいつものように家を出た。

「いってきます」

会社の方向に足を運ぶが、なかなか進まない。

「はぁ。今日はどうしよう」
そうつぶやくと、ため息をついた。男は最近いつも悩んでばかりいた。それも無理はない。それは彼の将来を見据えてのことだった。

男は、不動産会社で働いていた。働いているというよりは、働いていたという方が正しい。

会社のなかで業績をあげることができず、月間ノルマを達成したことすらなかった。気づけば、部下に抜かされ役職はずっと変わらず、ついに会社から戦力外通告を受けた。つまり、クビとなったのだ。

「妻になんと言えばいいのだろう」
男は、クビになった事実を伝えられずにいた。伝えれば何と言われるのかを考えるとぞっとした。そして、これまでついてきた嘘の数々が露呈するのをおそれていた。

しばらくして、駅へ着くと、怪しげな女性が椅子に腰掛けていた。女性の前には机が置かれ、そこには水晶玉と「みらい占い」と書かれたステッカーが貼られていた。

「まだ、若いなぁ」
近くに寄ると、かなり若い女性だった。10代後半に見える。

男は、行くあてもなく話し相手もいないので、試しに相談してみることにした。
「すみません。占ってもらってもいいですか?」
「いらっしゃいませ。どうぞ、お掛けください」

女の声は、低く弱々しく感じた。彼女はどこか自信なさげな表情をしていたが、男はそれどころではなかった。今すぐにでも占ってもらい、この状況をどうにか打破したかった。

男は「みらい占い」と書かれたステッカーを見つめながら質問した。
「ここは、みらい占いをして頂けますか?」
「みらい占いですか?わかりました。やってみましょう」

彼女は少し首をかしげながら、戸惑っているようにも見えた。だが、しだいに女の目は真剣な眼差しに変わり、水晶玉に両手をかざした。

1分ぐらい経っただろうか。彼女はついに口を開いた。

「みえました。あなたは、いま大変な状態になっています。友人にも家族にも、誰にも相談する相手がいないことでしょう。でも大丈夫です。私がみたところでは、あなたの将来は安泰です。」
「ほんとうですか。会社を首になってからずっと悩んでいたんです」

男は、自分が抱えている悩みを話しはじめた。自分が会社で必要とされない存在であったことや、会社で不遇な扱いを受けていたなどすべてを打ち明けた。

「あなたがすべきことは、まず奥さんに正直に話すことです。それから、2人で将来のことを話し合う。そうすれば、必ず上手くいく時がやってきます」

女は先ほどの様子とは打って変わり、自信に満ち溢れた様子だった。

「分かりました。今すぐそうします」
男はお金を払い、すぐに来た道を戻っていった。

女は、それを誇らしげそうにみつめる。

すると、電話が鳴った。女はポケットからスマートフォンを取り出す。
「もしもし。師匠、お疲れさまです」
「お疲れさん。実はこの前送ったステッカーなんだけど、字がひとつ抜けてたよ。今から新しい物を持っていくよ」
「いえ。師匠、大丈夫です。今日から、みらい占いでやっていきます」

彼女は、占うのは今日がはじめてだった。これまで、人の未来なんて占ったことなんてなかった。だって、まだ「みならい」の身なのだから。

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