人の数だけアイデアは溢れている~交流のプロデューサーに学ぶ“質”の本質~
天ヶ瀬温泉コンセプトワークと並行して行う天ヶ瀬温泉未来創造勉強会。全五回にわたり毎度各分野のプロフェッサー達をお呼びして天ヶ瀬温泉の未来を共に考えます。
(↑前回の勉強会についてはこちら )
勉強会の最後を締めくくるのは福岡県うきは市のリバーワイルドハムファクトリーを経営する杉勝也さん。
大嫌いだったこの仕事をいかにここまで大きく成長させるに至ったのか。天ヶ瀬と同じく長きに渡り川と向き合い続けた「養豚場」、今日はその物語を読み解きます。それでは参りましょう!
◆大嫌いだったこの仕事
福岡県うきは市のはずれに突如として現れるお店、それが『リバーワイルド』。ドイツの品評会で金賞を受賞したベーコンや柿で育った柿豚などのこだわり尽くされた味を求め長年のファンが集う秘境のお店です。
元々ここはオーナーの杉さんの父が運営していた養豚場で、25年前に父が倒れたことをきっかけに杉さんが跡を継ぐことに。しかし、当初はこの養豚の仕事が嫌いで嫌いで仕方がなかったのだとか。
杉さん;農場を任せられてから最初の四年間はただひたすら豚に餌をやり嫌な仕事に追われ続けている毎日でした。豚を飼っているというよりはもはやこれでは豚に飼われているような状態です。
そんな中、様子を見かねたかつての恩師に「お前は本当は何がやりたかったのか?」と問われた時『自分は本当はハムが作りたかったのだ』と気づきました。
かつて実際に日本各地でハム作りを学んできたということもあり、それからすぐに豚舎の横にハム工場を建てて肉の加工を始め、最終的には倉庫を改装した今のこのお店を作るまでに至ったのです。
自分が育てている豚たちでこのハムが作られている、その繋がりをはっきりと意識し始めてから初めてこの仕事が心から楽しいと思えました。
そして「楽しい」と感じることができてから、初めて心おきなく色々なチャレンジをできるようになったのです。
◆料理会の“質”とは何なのか
そうして始めたチャレンジの中に『料理会』というものがあります。
会場と料理人をセッティングして、自分(リバーワイルド)の豚と近隣農家の野菜や果物を組み合わせ一つのコースを作り予め募集をかけた参加者に提供するというものです。
ここで一つ“面白いこと”に気づきました。
それは、そこで提供された料理以上にその料理会に参加したお客さん同士の会話や繋がりこそが会全体の満足度に大きく関わってくるということです。
勿論、料理そのものが美味しいというのは大前提の話の上。それでも『参加者にどういう人がいるか』ということは料理会において物凄く大事な要素なのだと回を重ねる毎に強く感じるようになりました。
そこで自分はとある仕掛けを施すようにしました。それは、30人規模の料理会だとしたら事前にあらかじめ5人程“面白い人”をセッティングするというものです。
人を繋ぐのが得意なヒト、空気を盛り上げるのが得意なヒト、ホスピタリティに富んだヒト…等、各回に応じて“相応しい人”をプロデュースし料理会に配置します。
そうして創り出された料理会では本当にたくさんの人と人との化学反応が生まれ、時には出された料理そっちのけで参加者が盛り上がり続けることすらあります。
でも、もはやそれで良いのだと気づいたのです。料理のクオリティが必ずしも料理会の満足度には直結しない。まさしく“質”の本質に触れた瞬間でした。
◆アイデアと触れ合い続ける
こうした料理会は採算面で言ったらほぼ赤字で、体力的にも非常に大きな労力を要します。しかしながら多いときには年に24回ほど、それをもうかれこれ16,7年間も続けることができています。
なぜなら、この料理会を通して“返してもらえるもの”が非常に大きいからです。
自分はこれまで日本全国で本当に多種多様な料理会を行ってきました。市内の古いお屋敷みたいな所から原っぱのような大自然、時にはお寺などで行うことすらあります。
そこで出会う現地の食や人には未だ自分の知らぬ可能性が秘められており、日々この上ない刺激を受けることができます。
色々な人と触れ合えば触れ合う程に「ここはまだまだだなあ…」とか「逆にこの面は優れているなあ…」といった今まで見えてこなかった自身の内面が見えてくる。
それらが結果的に仕事におけるやりがいやモチベーション、そして何よりも沢山のアイデアへと繋がってくるのです。
料理会の数だけ人と人との化学反応は生まれ、そして人の数だけアイデアは生まれてくる。まさにSky`s The Limit━━━可能性は無限大なのかもしれません。
◆隣の芝生は青く見えるもの
さて、この料理会を行うようになってからもう一つ“面白いこと”に気づきました。
それは『どこに行っても面白いキャラクターや人材は必ずいる』ということです。
「隣のどこどこの町には面白い人がいっぱいいるけど、うちにはそういった人は一切いないよ」
…そんな言葉をこれまで何度も各地で耳にしてきましたが、決してそんなことはありません。どこに行っても面白いことを考えている人や興味深い活動をしている人というのは必ず存在します。
自分自身も、この料理会を経験してみてから改めてこれまで見過ごしてきた自分の地域の面白い人や面白いアイデアというものに気づくことができました。本当に日々刺激をもらってばかりです。
これからもこの料理会を通して沢山の人とアイデアに触れ続け、このリバーワイルドに活かし続けていけたらと思います。是非一度、皆さんも実際にお店に遊びに来てみて下さいね!
◆まとめ・コミュニケーションの仕掛け人
元々大嫌いだった家業をほんの少しの工夫と視点の転換でこんなにもワクワクするものへと変えて見せた杉さん。
良くも悪くも初めから100%仕事にのめり込んでいなかったからこそ見えたその視座は決して見過ごせない点が多々ありました。
たとえば今回のお話で出てきた『料理会の質』。
杉さんにとって“料理会”というのは食そのものを料理する場でもあるのと同時に人と空間を料理していく場でもありました。
物やサービスの質を高めたりコンテンツの数を増やしていくことだけではなく、そこで生じる“コミュニケーションの質”を高めていくことの大切さ。
それはもしかしたらここ天ヶ瀬でも『温泉の質』『サービスの質』『観光地としての質』などあらゆる点に共通して考えられることなのかもしれません。
杉さんのお店の前を勢いよく流れる筑後川は通称「暴れ川」と呼ばれており、過去に天ヶ瀬と同じく幾度も氾濫してきたのだそう。
しかしながら、そこから由来した店名である「リバーワイルドハムファクトリー」のごとく“コミュニケーションの仕掛け人”として、これからも杉さんはワイルドに人と人とを結びつけていくことでしょう━━━
杉さん、改めて今日は貴重なお時間をありがとうございました!
written by 天真
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