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大和 オンリーワンの守備に魅せられて


今年でプロ15年目を迎える、横浜DeNAベイスターズの大和選手。
「守備の名手」と呼ばれ、古巣・阪神タイガース時代から多くのファンを魅了してきました。私も、そんな彼の守備に魅せられた一人です。
今回はその「守備」の視点から、プロ野球選手・大和の軌跡を振り返ります。
(少し長くなってしまったので、お時間のある時にどうぞ。)

大和選手の経歴

大和(本名:前田大和)選手は1987年11月5日生まれ、鹿児島県鹿屋市出身。
県内でも屈指の野球名門校である樟南高校に進学し、1年と3年の夏に全国高校野球選手権大会に出場。3年時にはショートのレギュラーとして、チームをベスト8へ導く活躍を見せました。
その卓越した守備力が評価され、2005年のドラフト会議にて阪神タイガースから高校生4巡目(当時は分離ドラフト)で指名を受け、内野手としてプロの世界へ足を踏み入れます。

入団当時、タイガースのショートを守っていたのは鳥谷敬選手でした。
2005年は入団2年目にしてショートのレギュラーで全試合出場を果たし、スター街道を歩み始めていた鳥谷選手。ショートというポジションで、守備だけでなく打撃でも安定した成績を残し、歴代2位の連続試合出場記録を達成するなど心身ともにタフネスも兼ね備えていた彼は、大和選手にとってあまりにも高すぎる壁でした。

大和選手の1軍公式戦出場記録(2006~2019)*注1

大和選手の記録3

上の表は、入団から昨シーズンまでの1軍での出場記録をまとめたものです。

初の1軍昇格は入団4年目の2009年。
ファームでは入団時のポジションであるショートで試合に出ていたものの、1軍に上がってからはショート以外を守ることが多く、さらには内野での出場機会にもなかなか恵まれませんでした。(当時はショートに鳥谷選手、セカンドには平野恵一選手がいました。)
そのような状況で、1軍での出場機会を得るため、外野に挑戦することを決意。入団7年目の2012年からは外野での出場がメインとなっていきます。
その守備力の高さが多くの野球ファンに知れ渡ることとなったのも、センター時代の2014年。登録上も「外野手」となったシーズンでした。

しかし大和選手は、内野への思いを捨ててはいませんでした。

2015年は打撃不振によりレギュラーの座を失い、守備固めとして起用される機会が増えます。その中で、内野手としての能力の高さが再び注目されます。
2016年から内野守備の機会が増加。この年、実に5年ぶりに内野での出場が外野を上回り、翌シーズンから登録上も再び「内野手」となります。

2017年は、大和選手の野球人生において大きな転機となった1年でした。
出場機会増加のため、今度はスイッチヒッターに挑戦。規定打席には到達しなかったものの、キャリアハイの打率を残します。
そして、シーズン中にFA権を取得すると、オフにその権利を行使。12年という長い年月を過ごしたタイガースを退団し、横浜DeNAベイスターズへ移籍することを決断しました。

ベイスターズ移籍後の2シーズンは、ショートのレギュラーとして出場を続けており、今年は3年契約の最終年となります。

ショートよりセンターのほうがうまい?

バッテリー以外のポジションはすべて守ったことのある大和選手ですが、機会の多かったポジションはセンターラインに集中しています。
出場試合数でみると、センター 449試合、ショート 313試合、セカンド 301試合。
大和選手のポジションと言えば? と問われたら、多くの人がこの3つのうちいずれかを答えるでしょう。

ベイスターズに移籍してからはショートのレギュラーとして出場を続けていますが、時折目にするのが、「ショートよりもセンターやセカンドのほうがうまい」といった言葉です。
このような言葉に出会うたび、私にはある疑問が浮かびます。

大和選手の出場試合数推移(SS、2B、CF) *注1

ポジション別出場試合数3

大和選手のショート、セカンド、センターの出場試合数の推移です。
複数のポジションをこなす選手は少なくありませんが、大和選手の特筆すべき点は、肉体的な衰えも見え始める30歳前後から、より高い守備力が要求される二遊間での出場機会が増えている点です。

野手の打撃パフォーマンスのピークは27歳前後、守備に関してはさらに若い年齢とする研究結果もあると言います。*注2
プロ野球選手として伸び盛りであり、ピークを迎えるこの時期に、大和選手が一番多く守っていたポジションはセンターでした。
1軍での出場機会が増えた24歳から28歳までの5年間で、彼がショートを守ったのは28歳時(2016年)の2試合のみ。1軍でシーズンを通してショートで出場するようになったのは、30歳になってからです。

大和選手のポジション別の守備力を比較する上で、この年齢の問題を避けていいのだろうかと思うのです。
20代半ばに守っていたセンターやシーズン通して守ったことのないセカンドと、ブランクを経て30代になってから守り始めたショート。これらを比較して優劣をつけることはできるのかと。

大和選手が内外野でコンバートを繰り返したのはチーム事情によるところも大きく、その中で彼は、センターラインという守備の要となる3つのどのポジションにも適応し、チームを支えていました。
その経緯や年齢を無視し、セカンドならまだしもセンター、それも5年も6年も前のプレーと比較されるのは納得できないのです。

私自身、センターやセカンド時代の守備のほうが好きです。だからといって、ショートよりもセンターやセカンドのほうがうまかった、向いていた、と言うことはできません。
異なる条件下での比較に意味を見出せないのと、何より、どのポジションの「大和」もファンにとっては大切な思い出だからです。

オンリーワンの守備

「ポジションにこだわりはない」

タイガース時代から幾度となく聞かれたこの言葉。しかし、内野手、それもショートのレギュラーとして試合に出続けることは、大和選手にとって、ずっと胸の奥に抱き続けていた目標だったのだと思います。

ただ、内野と外野を行き来しながら、そのどちらでも素晴らしいパフォーマンスを見せていた大和選手は、「ユーティリティプレイヤー」と呼ばれる選手の中でも一味違った魅力を放っていました。その姿に惹かれたファンも、少なくないはずです。

前述のように、大和選手はプロ野球選手としては珍しいキャリアを歩んでいると思います。
ショートは野手の中でも高い守備技術を要するポジションであり、その場所に立てる人は多くありません。プロの1軍で(それも高いレベルで)ショートを守れる選手が外野に転向し、5年以上のブランクを経てショートへ戻るといったケースは、滅多にないのではないでしょうか。

そんな大和選手に対し、内野手に専念していればもっと良いキャリアを築けていたかもしれないと、一時の外野転向を惜しむ声も時に聞かれます。*注3
応援している身でこのような考えを持つのはよくないとわかっていながらも、私も同じような「if」が頭をよぎったことは何度もありました。
そのたびに思い出していたのが、美しい天然芝が敷き詰められた舞台で輝く、大和選手の姿です。

「センター大和」――その輝きは鮮烈でした。
何度繰り返し見ても胸が震える、数々のプレー。
福留孝介選手との右中間はプロフェッショナルそのもの。飛球をグラブにおさめる大和選手とバックアップに回った福留選手が交差する様は美しく、大好きなシーンの一つでした。打球が上がるたびに、右中間に飛んでほしいと願ったものです。

黒土のグラウンドで軽やかに舞う「セカンド大和」にも魅せられ。
まるで手品のような握り替えの早さ、しなやかな身のこなし。
センター大和からファンになった私は、スタイリッシュと言われることもあったその守備に、大いに酔いしれました。

そして、涙も笑顔も、たくさんの背番号0の記憶が刻まれたその聖地を離れ、新しい場所で奮闘する「ショート大和」に今、最後の夢を見ています。

おわりに

野球は子どもの頃から中継を見るなどしていましたが、全く見ない時期もありましたし、見る時も漠然と試合経過を追いかけるのが常だった私に、守備――外野守備と内野守備――の魅力を教えてくれたのは大和選手でした。
捕球や送球だけでなく、ピボットやカット、タッチプレーなど、目立たない小さな動き一つ一つに注目する楽しみも教えてくれました。
一人の選手を追いかけるだけで、内外野、球界トップクラスと評される守備に触れることができたのは、なんと贅沢な時間だったことか。ファン冥利に尽きるとはまさにこのことです。

類まれな守備力で、本職ではないセンターやセカンドにも適応し、ファンを魅了してきた大和選手。
この2シーズンは、プロ13年目でやっと手にした本職ショートのレギュラーで戦い抜きました。
さまざまなポジションに刻まれた足跡。
彼がグラブを置くその時には、どのような軌跡が浮かび上がるのでしょうか。
最後まで、見届けたいと思います。

おまけ:大和選手の守備・ベスト3

独断と偏見による、大和選手の守備・ベスト3。
2位と3位はただの私の好みですが、1位は譲れません。

【1位】
2014年10月17日 セ・リーグ CSファイナルステージ・対読売ジャイアンツ 3回戦/東京ドーム
ポジション:センター

大和選手史上、最高のプレーを挙げるとするならば、この試合の最後のプレーしかないと思っています。

球団初のクライマックスシリーズ・ファイナルステージへ進出したタイガース。
2連勝で迎えた3戦目も試合を有利に運び、2点リードで迎えた9回裏二死。亀井選手が左中間へ放った飛球を全速力で追い、フェンス手前でダイビングキャッチしたのが大和選手でした。
彼のファインプレーで勝利をもぎ取ったタイガースは勢いを加速させ、翌日も圧勝。4連勝で9年ぶりの日本シリーズ進出を決めたのでした。

これをベストプレーに選んだ理由は、プレーのすごさはもちろんのこと、そのストーリー性にあります。
CSファイナルステージ、日本シリーズ王手をかけた試合、試合を終わらせる最後のファインプレー。(こういうファインプレーを私は「サヨナラファインプレー」と呼んでるのですが、この言葉を使っている人は見かけないですね……。)
2015年のCSファーストステージで同じくジャイアンツ相手にサヨナラファインプレーを見せましたが、あのシリーズは負けてしまったので。
CSを勝ち抜き、日本シリーズで見せた守備での活躍、そして自身初のゴールデン・グラブ賞受賞というその後のストーリーまで含めて、このプレーがベストだと思います。

【2位】
2017年5月16日 対中日ドラゴンズ 7回戦 /阪神甲子園球場
ポジション:ショート

「なんという幕切れでしょうか!」

タイガース実況ではお馴染み、中井雅之アナの声がいつまでも耳に残ります。(彼の声はこちらの動画でもたくさん聞けますね。)

秋山投手の7年ぶりの完投勝利をアシストしたのは、高山俊選手のファインプレーから始まったレフトフライダブルプレーでした。

これもサヨナラファインプレー。しかも、レアな外野フライのダブルプレーです。守備好きにはたまりません。2014CSファイナルのプレーにも負けない、とても素晴らしい、大好きなプレーです。

多くの野球ファンと同じように、私もダブルプレーが好きです。
その一番の理由は「アウトを多くとれるから」でも「かっこいいから」でもなく、チームスポーツとしての野球の魅力が詰まっているからです。

ベストプレーに挙げたダイビングキャッチは、大和選手一人で成し遂げたプレーです。
対してこのプレーは、レフト・高山選手、ショート・大和選手、そしてファーストの荒木選手と3名の選手がアウトに関わっています。誰か一人でも隙を見せていたら、この大ファインプレーは成立していなかったでしょう。(その中でも、起点となった高山選手のキャッチが一番素晴らしかったことは言うまでもありません。)

そして、複数の選手が関わるということは、その分だけ「喜び」も増えます。
私自身がそうなのですが、決して華やかなプレーでなくても、1つのアウト、得点に好きな選手が関わると、嬉しく感じるものです。特にそれがファインプレーや劇的なサヨナラといったシーンだと、チームの勝利とはまた違う格別の喜びがあります。

喜びを何倍にもする、そんなダブルプレーが好きなのです。

【3位】
2018年6月18日 対埼玉西武ライオンズ 3回戦/横浜スタジアム
ポジション:ショート

ベイスターズ移籍後の守備で印象深いのはこの試合のファインプレー。

雨天中止で振り替えとなった試合は、再び雨に見舞われ、降りしきる雨の中試合は終盤を迎えました。

2点リードの8回表、二死一塁。マウンドにはパットン投手、バッターボックスに斉藤彰吾選手、そしてランナーに外崎修汰選手。
フルカウントから振りぬいた斉藤選手の打球はパットン投手の足元をすり抜け、二遊間へ。そこに飛び込んだのが大和選手でした。
水飛沫を上げながら捕球するとすぐさま立ち上がり、セカンドに送球。やや逸れたものの、そこはベースカバーに入った山下幸輝選手がナイスフォロー。腕を伸ばしてボールを捕ると、オーバーランの外崎選手にタッチ。見事な連携でアウトを掴んだのでした。
ベース上で肩を落とす外崎選手、マウンド上でのパットン投手の力強いガッツポーズも大変印象深かったです。

このプレーの写真は、球団が発行している無料の観戦ガイド『BLUE PRINT』の表紙にも採用されています。

二塁へ送球する瞬間をとらえた一枚です。
写真自体の素晴らしさもさることながら、ビビッドに仕上げ、縦に配置したこの表紙もかっこよくて大好きです。

参照サイトなど

*注1
使用したデータは下記サイトを参照しました。
・Baseball-Reference.com https://www.baseball-reference.com/
・- nf3 - Baseball Data House Phase1.0 http://nf3.sakura.ne.jp/
・スタメンデータベース https://sta-men.jp/
・NPB.jp 日本野球機構 http://npb.jp/

*注2
年齢により選手のパフォーマンスがどのように変化していくかを分析したものに「年齢曲線」があり、野手は27歳前後でピークを迎えるという研究結果が出ているそうです。
年齢曲線|1.02 - Essence of Baseball | DELTA Inc. 
パフォーマンスに対する年齢の影響はどれほどか。NPBにおける「年齢曲線」を考える/八代 久通|1.02 - Essence of Baseball | DELTA Inc. 

*注3
中日ドラゴンズ、読売ジャイアンツで活躍された井端弘和さんが、著書『内野守備の新常識』(廣済堂出版、2019年)の中で、大和選手の外野転向について言及しています。


※写真は2014年10月28日、ヤフオクドーム(当時)にて撮影したもの。


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