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どうして俺は凛世がめちゃくちゃ表情も感情も豊かな普通の女の子だということを忘れていたんだろう


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俺はシャニマスをインストールした時、「この杜野凛世というキャラは和・お淑やか・Pラブで売ってる顔面ホイホイ女だな。キッズだと思われたくないので絶対に担当にしないぞ」と思ってました。
























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ほんとうに申し訳ございませんでした!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



俺は、凛世のことを何一つとしてわかっちゃいませんでした。あまつさえ、凛世のことを、機械みたいに淡々と喋る、機械みたいに無表情なキャラだと思っていた時期すらありました。


そんなわけないのに!


凛世は



凛世は表情も感情もめちゃくちゃ豊かな、普通の女の子なのに



そんな基本的で、めちゃくちゃ当たり前なことを思い出させてくれたのは、凛世GRADでした…


物語は、凛世がヒロインを務めることとなった、ネットドラマの台本を読むところから始まります…





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少女βに刺さってるの「ハッスルねじ」じゃね?

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いや、東雲なのでしょう

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どっちでもないです。

いきなりめちゃくちゃ奇妙キテレツな導入からはじまり、これにはさすがのプロデューサーも

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と漏らす始末でした。

『あ』の無い少女『あ』しかない少女の話。通常のドラマではありえないような設定。まさしく、ネットドラマだからこそできた意欲的な挑戦といえるでしょう。『あ』ではなく、『し』抜きで、いや死ぬ気で作られた曲ならありましたけど。

とても難しい配役です。『あ』のない少女と『あ』しかない少女を演じろと言って、果たして我々はどのように役と向き合えばいいのでしょうか
例えば天海春香さんはなんとキリン役をあてがわれたことがあります。

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キリンの気持ち、果たしてそんなものがわかるのだろうか。しかし、キリンというのは会話はできないにしても確かにこの世界に存在して、我々はキリンを観測し、そして想いを馳せることができます。

であるならば、キリンになりきり、あるいはキリンを観察し、自身をキリンと一体化させることでキリンを演じる上での糧とすることも不可能ではないのです。

しかし、それでは果たしてこの世界のどこに『あ』の無い少女と、『あ』しかない少女が存在するというのでしょうか。どうやってそれらの気持ちを考えろというのでしょうか。

この難しさを前に、さしもの凛世も参るかと思いきや

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凛世はそう言った。

わかるわけない、『あ』のない少女の気持ちなんて。この世には『あ』の無い少女なんて、いや、そもそも「特定の言葉が与えられない」人間なんて、いるはずがないから。

それでも、凛世は言った。「感じてみたい」この役のことを。

それは、日常から離れた世界への好奇心なのか

それとも…………




さきほど、この世界のどこに『あ』の無い少女と『あ』しかない少女がいるかという話をしたが、凛世が用意した答えは実に単純明快であり、それでいて独創性に優れたものでした。

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そう、それは「凛世自身が『あ』の無い少女と『あ』しか与えられない少女になりきる」というものだった。

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なるほど、この世界に件の少女がいないなら、凛世自身がなってしまえばいいという理屈だ。
一見、奇天烈な姿にも見えるがいやいやなかなかどうして、天海春香さんがキリンの気持ちを会得できた理由にキリンの存在があげられるなら、凛世が『あ』の少女たちの気持ちを会得するのに『あ』の少女を用意するというのは、最も理屈に適った行為ではないでしょうか。



しかしこの後のトレーナーの一言が、以降の凛世を長らく苦しめる「呪い」となる


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”「AIとかアンドロイド」みたい”、なんてことないただの会話。いうならば「第一印象」みたいなものか。

(そもそも「AIみたい」ってなんだよって思うけど)

人間は第一印象がすべてとよくいうが、それは人間の関係の話においてだ。その人間の人となり、本質、そういったものは第一印象からはわかるはずもない。だから、「AI」や「アンドロイド」なんて言葉も酷く直感的で浅慮な、そんな、一蹴にして構わない、愛想笑いを浮かべて「あぁそうですね」と聞き流してしまえばいい。

しかし

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話はそう単純ではなかった


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「AI」、「アンドロイド」その言葉から我々はどのような印象を受けるだろうか。冷たくて、淡々としていて、人間の情というものなんてこれっぽっちも含んでいない、そんな印象を持つのではないでしょうか。


今でこそ俺は凛世のなんたるかを知ってますが、たしかに凛世初見からすればAIやアンドロイドみたいと思うのも無理はないかもしれない。
抑揚のない、単調な声色、ゆっくりとした口調、他人にはあまり見せない表情。

しかし、それはまさしく第一印象であって、凛世の心を開いた相手にとってはその限りではありません。

実際、プロデューサーの前の凛世は

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プロデューサーの前の凛世はとても生き生きとしています。といっても、凛世の発する言葉は『あ』だったけど。

それでも、凛世の言葉はその一音からだけでもわかるほどに生気に満ち溢れていた。「AI」や「アンドロイド」とは程遠い、人間的な、あまりに人間的な、『あ』

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そして凛世はふふっと笑った。とても暖かい顔で。


しかし、それは同時にプロデューサーにとっては凛世の悩みを理解できない要因として作用してしまう。

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凛世はプロデューサーの言葉に歯切れ悪く応える。

そんな凛世の姿が、トレーナーにひっそりと言われた言葉を、プロデューサーに思い出させます。

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あんなに生き生きとした『あ』を、あんなに暖かい笑顔をする凛世に、いったいなにが足りなかったのか

プロデューサーには、わからない。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・


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博士と少女はお互い愛し合っていた
湿気た住み込み部屋しか知らない彼女にとって
博士はまるで世界そのものであったろう


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


さて、トレーナーに言われた言葉を不可解に思ったプロデューサーは凛世のレッスンを見学することにします。

おそらくプロデューサーもこれで凛世の不調の原因がわかると期待していたことでしょう。

しかし、そこでプロデューサーが見たものは

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生気に満ち溢れた、いつも通り「アイドル優等生」という言葉に差し支えないほどの踊りを披露する、凛世の姿でした。


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それでも、凛世の顔は晴れていなかった。


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凛世は「よかった時」と「悪かった時」の自分の違いがわからずに、トレーナーに褒められてもなお悩んでいました。

そしてそれは、凛世だけでなく、プロデューサーにとってもそうでした。
なぜならプロデューサーは「よかった時」の凛世しか知らないから。

ここで凛世を褒めることは問題の根本的解決にならないとプロデューサーもわかっていることでしょう。凛世は褒められたいのではない、「褒められている時の自分」がどんな姿かを知りたいのだ。
しかしプロデューサーはここで凛世を褒めます。それはおそらく、「凛世のためになにかかしらをできている」という安心感のために、プロデューサーという肩書でありながら、凛世のために何もできていない自分を払拭するために、凛世にこう言わざるを得なかったのでしょう。


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それを聞いた凛世は

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複雑な表情のまま

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「『あ』のない少女」へと戻った。



帰り、凛世はトレーナーから言われた言葉を反芻し、改めて疑問と不安を吐露します。

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「良くできている時」と「良くできていない時」
言い換えれば「『あ』がある時」の自分と「『あ』のない少女」の時の自分の違いがわからないという悩みは、凛世にとってかなり深く重い問題としてのしかかります。

「『あ』のない少女」はアンドロイドです、つまり人間の感情がなく、「人の感情を動かすことができない存在」ということを意味します。
アイドルにとって最も大事なことはなんでしょうか、奥行きのある歌声?キレのあるダンス?華やかなビジュアル?それともどんな場面でも挫けないメンタル?しかしそのどれもが「観客の心を動かすため」に必要な要素である以上、「心を動かしたい」という「意志」こそが、アイドルに最も求められるものではないでしょうか。

凛世にはそれがありました、「人の心を動かしたいと願う心」。

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凛世W.I.N.G.編 見つめる先に

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凛世W.I.N.G.編 揺れる瞳

凛世はファンの心に応えたい、ファンの心を動かしたいという情熱をたしかに備えていました。

しかし、トレーナーから「基本『あ』のない少女」という烙印を押されてしまった凛世、それはすなわち「人の心を動かすことができない」ことを意味します

「人の心を動かしたい」という想いと反面、「人の心を動かせられない」と言われてしまう。これが凛世にとってどれだけ重大なことであるか、想像に難しくないでしょう。それは今のレッスンだけでなく、これまでの凛世のアイドルとしての活動全てを否定することにも、なりかねないのだから。

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『心を動かす』、凛世の呟きは、不安を乗せて夜の闇へと溶けていく…




結局、プロデューサーは凛世の悩みを解決できないまま、GRAD予選当日を迎えることになってしまいます。

プロデューサーからしたら、凛世の悩みの全てを共有することができず、ろくに話し合いもできないままこの日を迎えてしまったことになります。
もしかしたら、焦っているのは自分だけで、凛世の悩みはもうとっくに解決してしまっているのかもしれない、自分だけが無駄に心配をしていまっているのかもしれない、そんなふうに考えていた可能性すら考えられます。

しかし、そこでプロデューサーはあまりにも、あまりにもショッキングな光景を目の当たりにすることになります。


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そこでプロデューサーが見たのは、自身に暗示をかけようとしているかのような凛世の姿でした。


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凛世は、プロデューサーさまのために
凛世は、ファンの皆様のために


「………っ」というプロデューサーの反応から、事態は想像していた何倍も酷かったことが窺い知れます。

凛世はプロデューサーの思っている以上に追い込まれていました。それは、自己暗示をかけなければいけないほど、自分の想い一つではどうしようもないほどに凛世は追い込まれていたのです。

しかし、プロデューサーはショックを顔に出さないようにぐっとこらえました。今はGRAD予選、それが例え仮初であっても、気休めであっても、なにかポジティブな言葉をかけなければいけない、このオーディションに失敗したら、元も子もないのだから。


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空元気、付け焼き刃、無理に勇気づけようとしたプロデューサーの言葉は

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逆効果、余計に凛世の不安を煽ることになってしまう。

それでも凛世は、プロデューサーの「リラックスしていけ」という言葉に笑顔で応えます。

「まったく、アイドルに気を使われているようじゃ、プロデューサー失格だな・・・」

そんなプロデューサーの心の声が聞こえてくるようです。

凛世はいつものように、綺麗なお辞儀をして、ステージへと登って行った。


「あ、りん―――――――――――――――!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・凛世」




・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・



GRAD予選に勝利し、凛世がこちらに向かってくる

しかしその表情は暗く、重たい


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凛世の問題の根深さを痛感する

「心を込めて披露できた時の自分」がわからない凛世は、「ファンの心に届いたかどうか」すらもわからなくなってしまっていました。


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客席からはひっきりなしに歓声があがっています。それはつまり、凛世のステージが、観客の心へ届いたことの証左ではないでしょうか。


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それでも凛世は納得しなかった。
不安そうな凛世の面持ちがふと、トレーナーに言われたことをプロデューサーに思い出させる…


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そう、凛世はよくやってくれていた。

ならばこれは、踊りや歌といった、そういった技術の問題じゃない。
これは凛世の「心の問題」なんだ。


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今にも泣きだしそうな顔をして、凛世は舞台袖から姿を消した…




・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・



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・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・



シャニPはよく「凛世と向き合うと途端に無能化する」と言われます。それは凛世の恋心に気づいていないのか、はたまた気づいていないフリをしているのか、どちらにしろ凛世の気持ちに真正面から向かおうとしないことが大きな原因だと考えられます。

そして今回も、悩んだ末にプロデューサーはある一つの提案を凛世に持ちかけます…

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なるべくいつも通り、なるべく平静を装って。
不安な凛世を前に嫌に明るくプロデューサーは話しかける。


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これが嘘であることは誰の目にも明らかだ。なのでプロデューサーは素早く話を切り出した…


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博士は、少女がほかの誰かを愛しているのだと誤解した
そして博士は、少女から言葉を奪ってしまった




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オフ


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凛世が身体的にどこも問題がないことはプロデューサーも承知の上でしょう。

それでも、だからこそ、凛世には一度レッスンから、アイドルから離れて、すべてのわずらわしさから解放されて、考える余裕を作って欲しいと、プロデューサーは思います。

もちろん凛世が納得するとは思っていないでしょう。

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案の定、凛世は複雑な顔をしたままこちらを見つめます。



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プロデューサーの説得に凛世はただ


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ばつの悪そうな顔をするだけだった




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凛世の言葉を遮り、プロデューサーはまくしたてる


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これできっと全てうまく行く、いつもの凛世に、戻ってくれる…

この時のプロデューサーはそう、思っていた。



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博士は、自分だけを愛するように少女を作り上げた
少女のαの「似せもの」である少女βを



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・・・・・・

・・・・・・・・・・・





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・・・

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・・・・・・・・・




「・・・」


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っかぁーーーーーーーー!!!!!!やっぱ対凛世ん時のシャニPダメだわーーーーーーーーー!!!


プロデューサーが見てくれている時だけ凛世の調子がいいってなんでわかんねーかなー!

俺だったらもっとうまく凛世と向き合えっのになー!

俺が向き合わねーとなー凛世となー


俺…………………………?


俺………………………………………


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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



………………………………………………………………………………………………………………………



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………………………………………ここ、は……?

俺は・・・眠っていたのか・・・?いつのまに・・・

ぼやけた視界を正すために両目をこする。

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ここは・・・・・・

事務所、間違いない。ここは283プロの事務所だ。でも、なんで。俺が283プロに

動揺するよりも先に、固く握られていたスマートフォンが視界に入る


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そうだ、俺は283プロのプロデューサーで、今は確か凛世と…………………

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思わず言葉が漏れ出た。そうだ、俺はたしか凛世に休みを与えて、そのまま数日が経過した。いつもは驚くほど速く電話にでる凛世が、ここ数日の間、着信にでてくれていない。


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(まさか・・・)

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まさか凛世に限ってそんことがあるわけない・・・

あの凛世に限って・・・


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凛世


いつも俺のそばにいてくれた


いつも、誰よりも俺のそばにいてくれるのは凛世だった




凛世・・・・・・


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「・・・!凛世・・・!!」


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凛世のことを思うと、居ても立っても居られなくなった


凛世・・・・・・!!!


俺は凛世を探しに街に繰り出した


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凛世どこだ・・・

どこにいるんだ・・・凛世!


不安がとめどなく湧いて出てくる。

良くない想像がこれでもかと頭を埋める。

凛世、いったいどこにいってしまったんだ・・・・・


なぁ凛世・・・・・・・・

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凛世・・・・・・・・・・!!!





・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・





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(ここの丸岡和佳奈の「あーーーー」絶対聴いて!!!)



・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・




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気づけば辺りは茜色に染まり、俺は凛世の住む寮へと向かっていた。


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凛世・・・・・・・・・・・・・・・・・・


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いなくなったりしないよな・・・凛世・・・





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結局、寮にも凛世の姿はなかった。事務所、寮、公園、考えられる場所はすべて探したが、そのどこにも凛世の影を見ることは叶わない。


「いったいどうしたら・・・」

「・・・」

「電話・・・」


いつ着信があってもいいように、凛世を探している間、常にスマフォを握りっぱなしにしていた。

しかしいくら見返しても、凛世からの着信履歴はない。


俺はダメ元でもう一度凛世に電話をかけた。


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これでダメなら、もう本当に手掛かりがなくなってしまう。


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頼む・・・凛世・・・・・・



出てくれ・・・!!




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祈りが凛世に届いたのか、はたまたただの気まぐれか。

ひとまず凛世が電話にでてくれて安心したが、次はいつ繋がるかわからない。

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言いたいことは山ほどあった。凛世に謝りたかった、凛世のことが聞きたかった。だけど、今は・・・


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自分で思っていたよりも語気が強くなってしまった。

焦りを隠すことができない、凛世が怯えてしまうかもしれない、そんなことを考える余裕すら、今の俺には残されていない。


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嘘。
凛世は俺に嘘をついてる。寮にはさっき行ったばかりだ。


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自然と語気が一層、強くなってしまう。沈みかけている太陽がまるで俺を急かしているように感じる。
凛世は公共交通機関や地理に弱い、あまり遅くなると寮に帰れなくなってしまうかもしれない。もし、事件に巻き込まれでもしたら・・・

よくない妄想が次から次へと浮かんでくる。一刻もはやく凛世に会いたい。


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その時、聞き覚えのある音が聞こえた。この音は

「波・・・?」

そう、確かに波の音が聞こえた。ということは、海か?でも、事務所の近くに海なんて・・・


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ひとまず、凛世の無事がわかって少し冷静になれた。

凛世は電車に疎い。普段も急行電車がなにかわからずに普通電車しか乗っていないくらいだ。そう遠くへは行っていないはず。


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【凛世夕町物語】凛世夕町物語・下


俺は電話を繋ぎつつ、マップアプリを起動して、事務所から一番近い海を調べる。

事務所から一番近い海・・・そこは・・・

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堺浜自然再生ふれあいビーチ!


でも、どうしてこんなところに・・・いや、たしかここは以前、ロケの途中に・・・

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そうだ、この浜辺は以前、ロケの途中に凛世と寄った場所だ。

たしかあの時は・・・

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そうだ、たしかビーチグラスが落ちていて・・・

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もしかして凛世、あの時のことを思い返して・・・

あついものが、喉の奥にぐっと込み上げてくる。
どうしようもない不安の中、行く当ても、頼る相手もいなくなってしまった世界で、凛世は俺とのほんの小さな思い出だけを頼りに海へと向かったのだ。

ほんとうなら俺が頼られないといけないのに、あの小さなビーチグラスにしかすがれないほどの心細さを抱えて、海へと向かったのだ。


「凛世・・・」

俺が、迎えにいかなきゃな・・・


再びスマフォに向き直り、ここからの距離を調べる。海はここから・・・

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21km!!!!!!!!!!!!


瞬間、身体に動揺が走る。

21km、行けるのか?いや、行ける行けないではない、行くんだ。

凛世がそこで待っているなら、そこが海であっても、富士山であっても、どこだって会いにいく。

だって俺は・・・








俺は











俺は、凛世のプロデューサーだから。









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それだけ言い残して凛世との通話を終える。

そうと決まると一分一秒が惜しい。俺は走り出した。
凛世の待つもとへ、凛世に向かって。走った。









マジで走った









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凛世えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


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凛世ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


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凛世えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



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凛世!凛世!凛世!凛世・・・!!!



走りながら俺は何気ない凛世との朝の一コマを思い返していた。

たしかあの時の凛世は、どこかもの悲しげな眼をしながら、俺にこう訊いた。


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なぜ凛世が唐突にこんなことを訊いてきたのか、俺は今でもわかっていない。
凛世と俺が離れ離れになったら、そんなこと考えたこともなかった。
それは、いつも凛世がそばにいてくれたから、凛世が誰よりも俺のそばにいて、俺と一緒にいてくれることが当たり前になっていたから。

あの時、俺ははじめて凛世がいなくなることに対する恐怖を感じた。あるはずのない、今まで想像しえなかった恐怖。

それでも、答えは決まっていた。もしも凛世と遠く隔たり、離れてしまったら。


誰よりも俺のそばにいてくれた凛世と離れ離れになってしまった時、俺は―――――――――――――――












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そうだ。俺は凛世と約束した。

「きっと会いに行く」そう約束したんだ。





だから凛世・・・







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凛世・・・!


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凛世・・・・・・・!!!!


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凛世・・・・・・・・・・・!!!!!



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・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・



「あれは・・・海か・・・?」

暮れかけの太陽が水平線に沈んでいくなか、視界の彼方に堺浜自然再生ふれあいビーチが映る。


「もう少し・・・もう少しだからな、凛世!」


もう身体は限界だったが、最後の力を振り絞り、俺はいっそう強く走った。


・・・

あれは・・・


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「凛世!!!」


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凛世!!!!!!


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凛世!!!!!!!!!!

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凛世!!!!!!!!!!!!!!!!!!


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もう長いこと、凛世に会っていなかった気がする


(凛世、こんなに小さかったか・・・)


アンドロイドというにはあまりに脆く、小さい

この小さな身体で、ここまでどれほどの不安を抱えてきたのだろう。


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「凛世・・・」

久々に凛世と向き合って、何を言えばいいのかわからなくなる。

言いたいことは、たくさんあったはずだ、しかしそのどれもが、ふさわしくない気がする。

「・・・」

重い沈黙が流れ、波のさざめきだけから時間の流れを確かめる。
なにか言わなければ、でも何を・・・何を・・・・・・


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悩んだ末に俺はそう告げた。
告げたというより、漏れでたというほうが正しいか。

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「わからない」、それはここで言うべきセリフでもあり、また凛世が真に悩んでいることに対してもいえた。
それどころか、俺がどうするべきか、どう凛世と接するべきか、それすらも

全てについて「わからない」、アイドルの「わからない」に手を差し伸べなければならないはずの俺から、決して出るべきではない言葉なのだが・・・

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今、ここで取り繕った言葉を紡いでも、もはやそんなことに意味はないように思えた。

思えば、GRADがはじまってから俺は凛世に対して取り繕った言葉を投げてばかりいた。


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それならば、今は俺の本心を、体裁や恥や外聞すらも棄てた、俺の本心だけを凛世に語ろう。


たとえそれが、「わからない」だったとしても


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凛世の申し訳なさそうな表情が、声色が、それが建前や遠慮ではなく、本音であることを物語っている。

違うんだ凛世・・・凛世はなにも悪くなくて・・・

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本心と本心とがぶつかる。ここで凛世の悩みに触れることができなければ、俺は今度こそ本当に凛世のプロデューサー失格だ。

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責任や義務感の一切を棄てて、自分の安心のためではない「凛世との未来」のために、俺は今の問題に精いっぱい立ち向かいたい。ありのままの俺の言葉を、そのまま声にしてぶつける。

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『あ』が、ない・・・
つまり、人間的な感情が・・・

凛世は自分に人間的な感情が欠落していると思い込んでしまっている。違う、違う!凛世は、たしかに人間で、いいや、人間やアンドロイドなんて関係ない、凛世はたしかに「人の心を動かしたい」と願う「意志」を持っている!それは、これまで凛世を幾度となく、何十もの「杜野凛世」の可能性をを見てきたおれが一番よく知っている。

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ならば、今の凛世に足りていないもの、それは・・・


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凛世に『あ』が、人間的な感情がないなんてことはありえない。

それは杜野凛世の「W.I.N.G.」が

杜野凛世の「ファン感謝祭」が

そして杜野凛世の、「G.R.A.D.」がそう、物語っている。


悲しい物語の始まりはちょっとした勘違いだ。杜野凛世から得られる第一印象。なんの意味ももたない、99%間違っている、自分がイメージしたいように作り上げた「杜野凛世」という偶像。あまたの人間が作り上げた杜野凛世はこうであるという間違った印象に、凛世自身が影響されてしまっただけなんだ。

質の悪いことに人々は杜野凛世に「アンドロイド」や「AI」などという「偶像」を張り付けた。そして人々はさらにこう考える。

― 機械は滅多なことでは壊れない —


しかし、その実、目の前の凛世はこんなにも脆く、周囲の批評を真に受けてしまうほど弱く、自分という存在を見失ってしまうほど小さい、今にも泣きそうな顔をして、どこか遠くへとさらわれることを願う、そんな、


そんな

めちゃくちゃ表情も感情も豊かな普通の女の子

だというのに


「・・・」

「なぁ、凛世」

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凛世の謙虚さが原因で周囲の批判を認めてしまっているのだとしたら、凛世はもっとわがままになってよかった。それは凛世が「杜野家」という厳格な家庭に育てられたことが原因なのかもしれない。

俺は凛世を杜野家という「箱庭」からアイドルとしてみることのできる「世界」へと連れ出すことはできたが、どうやら凛世の「心」までは鳥籠から救うことができていなかったようだ。

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凛世


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今度こそ、俺は君を


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救いにきたよ












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・・・・・・

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あれからの凛世のパフォーマンスは見違えるほど良くなった。トレーナーも凛世の豹変ぶりに驚いたようで、「これならGRAD優勝も間違い無しね!」なんて、プレッシャーになりかねないようなことも言っていたが、凛世は余裕そうに笑みさえ浮かべていた。

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決して明るいとは言えないが、戦いの前の不安と、緊張感と、そして確かな高揚感が入り混じった、良い顔になった。
まぎれもない「アイドルの顔」に―。

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「発声練習」、そういうことにしておいた。明らかに俺が気を遣って言っていることが凛世にもわかっているようだが、俺たち2人の間ではあれは「発声練習」だった。そういうことになった。

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これで凛世の唯一の気がかりも晴れただろう、これでこの話はもうおしまい。

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あと俺にできることは、見送ることだけだ


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凛世はきっとこのステージでさらに成長する。
「『あ』を手に入れた『あ』の無い少女」

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凛世はいつものように丁寧なお辞儀をして、ステージへ向かった。






・・・

・・・・・・・

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ステージを終えた凛世がこちらへと向かってくる。

優勝できたことに対しては正直そこまで驚きはない、凛世のパフォーマンスのレベルの高さなら十分に優勝は狙えたし、今日のそれはいつにも増して一段と極まっていた。

不安なのはそこではなく、凛世のほうだ

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凛世もどこか不安そうな顔をしている。おそらく俺と同じように、お互いの出方をうかがっているのだろう。

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「人の心を動かす」と意気込んで向かったステージで、もし凛世自身の心が動かされていなかったら・・・それは今度こそ、凛世に『あ』があることを理解させることを困難にしてしまう。

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しかしどうやらそれは杞憂だったようだ

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これでようやく凛世にありのままの感想を伝えられる。

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実際、凛世のステージは俺の語彙力を消失させるだけの力と輝きをもったものだった。俺の賞賛を受けて、先ほどの俺のように凛世の顔にも安堵が浮かぶ。

俺が「凛世の心が動いたか」を不安に思っていたように、凛世もまた「観客の心を動かせられたか」を不安に思っていたのだろう。それが俺の賞賛でやっと確信へと変わった。
『あ』の在ることの確信に―

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本来、味方であるはずの観客の声援が、凛世を責め立てる『あ』としか聞こえないほどに、予選の時は余裕がなかったのだろう。

『あ』のないことを糾弾する声に聞こえてしまうほどに。

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『あ』『りがとうございます』

凛世は、『あ』を手に入れた。

いや

己の中の『あ』を、掴み取った―














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GRADが閉幕してから凛世はますます忙しくなった。ネットドラマは特に凛世の演技力が高く評価されて、好評を博したまま今度最終回を迎える。


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はたから見るとバッドエンドかもしれない最終回の話を聞いて、凛世は静かに笑った。それは『あ』の大切さを知っているから。もがき、苦しみ、その果てに手に入れることのできる『あ』の尊さを、少女βと分かち合っているから・・・

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ふと、疑問に思ったことを口にする。

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「会いたい」、それは凛世にとっても大切な言葉であったはずだ。

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『あ』の一音にすべての想いを込めたからこそ、『あ』に「心を動かしたい」という「意志」を込めたからこそ、観客は『あ』を、凛世の「心を動かしたい」という想いを”聞く”ことができた。

それはきっと、博士も同じだったのだろう。


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とっさのことに聞き返してしまった。

「聞こえているか」、それはつまり・・・・・・


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「・・・」

知っている。

俺は凛世の想いを。


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だけど・・・

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これは「プロデューサーとして」の俺の言葉。アイドル「杜野凛世」と俺との間に結ばれる暗黙の了解。

罪悪感が無いといえば嘘になる。もしかしたらこれは、不誠実な言葉なのかもしれない。それでも俺はアイドルとしての凛世の可能性を信じたい。

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これからも凛世と、新たなステージを目指すために―


凛世は俺の言葉に


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女の子らしく、優しく笑った




凛世・・・

あぁ、ほんとうに・・・・・・・


よかっ・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・た・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





・・・

・・・・・・

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・・・・・・ん

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ここは・・・

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見慣れた家具、見慣れた部屋、散らかったゲームと漫画たち。間違いない、ここは俺の家だ。


俺は・・・


そうか、夢を見ていて・・・


夢を夢だと自覚することに少し時間がかかった、それは、それがあまりにも、幸せな夢だったから―


「そうか、そうだよな。俺が凛世のプロデューサーになんてなれるわけないもんな、はは」

まるで自分に言い聞かせるように言葉を発した。俺はただの多重債務者の日雇い労働者。283プロを一人で任されているシャニPとは天と地ほども差がある。比べることも、自己投影することすらもおこがましい、それほどに俺はシャニPには程遠い―


「そうか、夢だよな、夢。はは・・・そうだよな」

俺は必死に一人でしゃべり続けた。そうしないと、涙があふれてきそうだったから。


凛世のプロデューサーでいられた間のことを思い返してしまう、それは、夢みたいに綺麗で、泣けてしまう。

「さて、明日からまた借金返済のために労働か。がんば・・・」


「ん・・・?」

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見るとそこには、見覚えのない本が転がっていた。本というかこれは冊子・・・?いや、これは・・・


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「これは、『あ』の少女たちの台本!?」


どうしてこれがここに?これは凛世が受けることになったドラマの台本で・・・

まさか・・・・・・

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俺は血眼になってページをめくった。凛世との思いでを手繰り寄せるように、あの幸せだった時間をかき集めるように。


「あ・・・」






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「夢だけど・・・・・・・・・・・・」









「夢じゃなかった・・・!」







我慢していた涙が一気にあふれ出た。凛世として過ごした日々は確かに存在して、俺は凛世のプロデューサーとしての責務を果たすことができていたのだ。


「ありがとう・・・凛世・・・・・・」

俺は何度も感謝を声に出した。届くかどうかはわからない、俺の感謝なんて、もしかしたら凛世にとってはなんの意味ももたないかもしれない。

それでも、せめて、凛世の『あ』は確かに俺に届いたよと、そう伝えたかった。だから精いっぱい声に出した。俺の感謝を、俺の『あ』を
















「『あ』りがとう 凛世」


(おわり)

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