天草樂

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スキイ場

静かですねと、誰に言うでもなく彼女は言った。その場にいる言葉を介する生き物は私だけだったので、そうですねと、こちらも何の気なしに返してやった。  踏切の下は急な坂道が続いていた。彼女の呼吸をひとつずつ数えながら、私は故郷のスキイ場を思い出した。一人乗りのリフトが、さほど近くも遠くもない距離で等間隔に並べられていた。慣れた調子でお尻を滑らせて、私はリフトに乗り込んだ。私の後ろに並んでいたはずの子供の泣き声が、一呼吸おいて聞こえてきた。振り返ると、人を乗せることに失敗した

    スキイ場