夏の思い出

8月の日曜日の夜、ツイッターに通知が来た
大好きな役者が大好きな舞台にゲスト出演する
日程はその週の火曜と水曜
その場で水曜日のチケットと電車を確保した

月曜日、水曜の早上がりの申請をした
火曜日、チケットの発券をした
水曜日、午後の会議を切り上げて特急電車で東京へ向かった

新宿東口紀伊國屋ホール
熱海殺人事件

2020年ぶりの舞台出演
舞台に立つ姿をわたしが観るのは2017年ぶり

スマホの電源を切る
スマートウォッチが光らないように設定をするのに手間取った
客電が完全に落ちる

緞帳の上がる隙間から漏れるスモークの奥に浮かぶシルエットは完全に見覚えがあった
被ったハットの傾きが完璧だった
2014年ぶりの馬場徹演じる木村伝兵衛部長刑事が真っ赤な照明を浴びていた

その台詞回しを聞きながら涙が零れそうになったけれど、そんなことで舞台上の姿を見逃したくなかった
火の酒ウォッカは、の言い回しがいつも言いづらそうだったことを思い出した

2023年の熱海殺人事件バトルロイヤル50'sは鮮やかで明瞭で、楽しかった
この熱海を観る機会をつくってくれた荒井くん、本当に感謝しかないです。ありがとうございます。

2014年の頃、わたしはタバコを吸っていた（紀伊國屋ホールにもロビーに喫煙所があった）
2023年の現在もタバコは吸っているけれど、紙巻きではなく加熱式たばこに変えた

舞台の上で馬場徹の木村伝兵衛が燻らすタバコの匂いがあの頃よりも濃く、質量をもって脳に到達した
舞台の照明を受けて白く輝いて、紫色の粒子がきらめく煙の匂い

その匂いが、8月が終わった今も無くならない