新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として 厚生労働省 首相官邸 のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
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(注意喚起)新型コロナウイルス感染症対策「次亜塩素酸水に関する情報」

※この情報は、私ならびに有志の研究者グループで集めた科学的エビデンス、ならびに、医師や研究者等の友人からいただいた科学的知見をもとに、できるだけ客観的に記しております。最新の情報についてアップデートが必要と判断される場合には、適宜アップデートします。

初版 2020年4月22日/二版 2020年4月26日/三版 2020年4月29日
四版 2020年6月5日/五版 2020年6月6日

2020年6月5日時点まとめ
 次亜塩素酸水は、エンベロープウイルスの新型コロナウイルスに対しても有効であろうが、十分な有効塩素濃度と消毒時間で、主としてウイルスが付着した「物品」等に対する消毒として用いられるものである。
 手指の消毒については、手指の汚れや皮膚表面のタンパク質などの影響があり、有効塩素濃度が保たれるかわからず、おすすめできない。
 不適切な保存方法では塩素濃度が有効濃度以下に簡単に下がるため、保存方法や使用方法に注意。
 空間噴霧は、人体への悪影響の恐れがあり、推奨しないとされている。

※なお、これとは異なる「次亜塩素酸ナトリウム液」を、手指の消毒に使うことは、手指の赤脹れや皮膚炎、吸引した場合の呼吸器障害を起こす可能性があり、いますぐ止めてください。

 新型コロナウイルスに対する手指の消毒は、第一に石鹸での手洗い(20秒間)、または、アルコール消毒液を使った消毒が効果があることはわかってきています。

 現時点(2020年4月22日)では、次亜塩素酸水は、コロナウイルスに対する手指の消毒に勧められるほどの証拠がまだそろっていない状態です(2020年4月10日安倍首相国会答弁なども参照)。

 コロナウイルスに対する物品の消毒については、ある一定の有効濃度以上で効果ありというデータがありますが、手指の消毒については有効濃度など分からないことがあり、科学的なエビデンスの蓄積が待たれます。

 また、次亜塩素酸水は、保存状態が悪いと、簡単に有効濃度以下になってしまう恐れがあります。次亜塩素酸水を消毒に使用する場合には、①保存・使用方法を守り、②有効塩素濃度を保っているか確認すること、が必要だと思われます(注1 一般社団法人機能水研究振興財団の声明(2020年4月6日))。

 また、空間噴霧は、人体への悪影響の恐れがあり、推奨しないとされています。

 これらを考えると、まず皆さんには、石鹸を使って手を洗うのが、今の時点で最もお勧めできそうです。

1.次亜塩素酸水とは何ですか?

 次亜塩素酸水は、塩酸や食塩(塩化ナトリウム)水を、電気分解することで作ることができる、次亜塩素酸(HOCl)が溶けた酸性の溶液です(注2)。厚生労働省のサイトにある作り方とデータ(参照1、2)によると、この液体の中に10~100 ppmの有効成分(塩素)濃度があるといいます(1 ppm = 0.0001%)。

2.次亜塩素酸水の消毒効果は?

 コロナウイルスは、"油に溶けやすい膜"で、タンパク質に包まれた遺伝子が覆われている種類のウイルスです。(これを、”エンベロープウイルス”と言います。)

 この種類のウイルスは、タンパク質に包まれた遺伝子だけのウイルス("ノン・エンベロープウイルス")に比べると、消毒液(界面活性剤・アルコール・次亜塩素酸イオンOCl-・次亜塩素酸HOCl)が、ウイルスを失活させやすいと考えられています。(外側の"油に溶けやすい膜"をこれらの消毒液が壊しやすいからです。)

 次亜塩素酸(HOCl)を含んだ次亜塩素酸水については、ノロウイルスと似たウイルスを使った実験の結果(参照3)によると、酸性でその(塩素)濃度が150 ppm(=mg/L=mg/kg)のものはウイルス失活効果がありましたが、25 ppmのものは、失活効果がなかったという結果です(いずれも購入品ボトル入り液体とのこと)。また、ウイルスの他に、別なタンパク質が混ざっていると、150 ppmのものでも失活できなくなったという結果でした。つまり、日常生活を考えると、例えば指でさわった液体は、ウイルスの他に、皮膚の表面のタンパク質などが混ざるので、効かなくなると考えられます。

 一方、コロナウイルスについては、アメリカの環境保護庁ホームページによれば、コロナウイルスが表面に付着した「物品」に対する消毒効果として、170 ppmで10分間の消毒をする消毒液が掲載されています(参考4)。

 確かに、ノロウイルスは、本来消毒液が効きにくいノンエンベロープウイルスですが、その中でも遺伝子を包むタンパク質が油に溶けやすいため、消毒液がまだ効くといわれています。構造から考えると、コロナウイルスはエンベロープウイルスですので、ノロウイルスよりももう少し失活させやすいと思われます。

 ただ、新型コロナウイルスの手指の消毒については、十分な効果があるか、また、どの濃度でなら効果があるかなど、エビデンスは集まっていないようです。有効濃度など分からないことがあり、科学的なエビデンスの蓄積が待たれます。

3.次亜塩素酸水の保存方法や使用法は?

 次亜塩素酸水の有効成分の濃度は、光(紫外線)が当たったり、タンパク質に触れたりすると簡単に下がってしまうようです。そうすると、ウイルスを失活させるのに十分な濃度を保つのは難しいかもしれません。これを避けるには、次亜塩素酸水は、作ったすぐ後に、流しながら使うのが良い、と言われています。

 また、次亜塩素酸水を消毒に使用する場合には、酸性が強い場合には、粘膜に多少の刺激があるでしょうから、注意してください。弱酸性の次亜塩素酸水であれば、問題ないとされています。酸性が強いものを使用する場合は、人が吸い込まないよう十分に注意して使用した方が良いかもしれません。

 WHOは、いかなる消毒液も空間噴霧は推奨しないとしており、文科省も、人体への悪影響を考慮し、「次亜塩素酸水の空間噴霧はしない」ように求めています(参照6)。

4.次亜塩素酸ナトリウム液は異なります

 「次亜塩素酸ナトリウム液」(いわゆる漂白剤・ブリーチ)は、「次亜塩素酸水」とは異なるものですから注意してください。次亜塩素酸ナトリウムは直接皮膚にかかると皮膚炎になりますし、吸い込むと粘膜が障害を起こすことがあります。ちなみに、次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性で、次亜塩素酸水は酸性から中性です。
 より人体に悪影響の強い「次亜塩素酸ナトリウム液」を、手指の消毒に使うというのは、手指の赤脹れや皮膚炎、吸引した場合の呼吸器障害を起こす可能性があり、いますぐ止めてください。

5.検証の状況 

2020年4月15日に経済産業省は、次亜塩素酸水も含め、新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価を行うと発表しました(参照7)。

経産省からの検査の依頼をうけた独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)は、2020年5月28日に、「現時点では有効性は確認されていない」、との内容の中間結果を公表しています(参照8)。経産省からはファクトシートが公表されています(2020年5月29日)(参照9)。

6.新型コロナウイルスの消毒に際し、注意してほしいこと

・次亜塩素酸水による消毒は、有効塩素濃度を確保した上で、量と時間が必要です。例えば、生成器を使い、流水で何分間か洗い流すというのが基本です。

・透明または半透明のプラスチック容器等に次亜塩素酸水を、遮光せずに保存していた場合、次亜塩素酸水中の有効塩素濃度は、光と反応して劇的に低下している可能性が高いです。最終塩素濃度もわからないまま消毒に使っては、意味がありません。

・手指の消毒は、石鹸による手洗いやアルコール消毒が効果があります。次亜塩素酸水はその代替ではなく、同じようには使えません。「次亜塩素酸水で消毒をしたから大丈夫」ではなく、むしろ、手指の消毒は、石鹸の手洗やアルコール消毒を行ってください。

・なお、より人体に悪影響の強い「次亜塩素酸ナトリウム液」を、手指の消毒に使うというのは、手指の赤脹れや皮膚炎、吸引した場合の呼吸器障害を起こす可能性があり、いますぐ止めてください。

・消毒液の空間噴霧は人体への悪影響も懸念されるため避けるべきです。

以上を踏まえて、適切な活用をご検討ください。

注:

注1:一般社団法人機能水研究振興財団の声明(2020年4月6日)によれば、「専用生成装置から生成する次亜塩素酸水」について、「配給する会社の責任において、製造年月日、消費期限年月日を明示すること。また、保管する場合は、冷暗所に保管し、規程範囲の有効塩素濃度が維持されている間に使用すること」とされている。
参照: http://www.fwf.or.jp/data_files/view/1719/mode:inline

注2:次亜塩素酸水の生成方法としては、ここで記載する(1)電気分解による方法の他に、(2)次亜塩素酸ナトリウム液を塩酸などで中和したものがある。(2)の次亜塩素酸ナトリウム液の中和については、次亜塩素酸を酸性にすることで塩素ガスが発生するため、危険があることを知っておかなければならない。

参照:

1)厚生労働省 :次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの同類性に関する資料 
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/08/dl/s0819-8k.pdf

2)厚生労働省 次亜塩素酸水
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002wy32-att/2r9852000002wybg.pdf

3)平成 27 年度 ノロウイルスの不活化条件に関する調査 報告書 国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000125854.pdf

4)LIST N: Disinfectants for Use Against SARS-CoV-2/ US EPA
https://www.epa.gov/pesticide-registration/list-n-disinfectants-use-against-sars-cov-2?fbclid=IwAR0rv02ljE2kQcyuLFJiYLBtPHgRGp1sir4uue7NVtFnX3j75VppOGmGR8I

5)食品安全委員会農薬専門調査会 特定農薬評価書 電解次亜塩素酸水
https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc6_nouyaku_hocl_250709.pdf

6)学校で次亜塩素酸水「噴霧しないで」 読売新聞(2020年6月5日)
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20200605-OYT1T50148/

7)経済産業省プレスリリース(2020年4月15日)
https://www.meti.go.jp/press/2020/04/20200415002/20200415002.html

8)新型コロナウイルスを用いた代替消毒候補物資の有効性評価にかかる検証試験の中間結果について、独立行政法人製品評価技術基盤機構(2020年5月28日)
https://www.nite.go.jp/data/000109487.pdf

9)経産省 ファクトシート(2020年5月29日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002wy32-att/2r9852000002wybg.pdf

履歴

初版 2020年4月22日 
 ・ 初稿
二版 2020年4月26日 
 ・ 次亜塩素酸水の酸性度と消毒効果に関する記述についてエビデンスに基づいていないため、削除。
三版 2020年4月29日 
 ・ 一般社団法人機能水研究振興財団の声明(2020年4月6日)を参照
四版 2020年6月5日 
 ・ 6月5日時点でのまとめを明記。
 ・ 文科省からの「噴霧は勧めない」通知について明記。
 ・ NITEの中間報告を明記。
 ・ 経産省ファクトシートを追記      
五版 2020年6月6日
 ・ 注意喚起と明記
 ・ 注意してほしいことを明記

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自然科学研究機構特任教授。慶應義塾大学医学部卒業、医師、医学博士。ハーバード大学医学部マサッチュ―セッツ総合病院研究員を経て、自然科学研究機構。脳神経科学、現在は、機構本部の統括URA。2019年から、JST-RISTEX 小泉プロジェクトの成果の情報発信もすすめていきます。
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